岐阜県岐阜市に、工場直売で安くて美味しいと評判のパンがあります。揚げシナモンパンや、チョコクロワッサンなど、どこか懐かしいこのパンは、もともと高校の購買用に作られたパンです。店が長年高校で販売してきた“購買パン”を一般販売した背景には、新型コロナの影響がありました。

■どこか懐かしい“あんパン”や“コルネ”…ほとんどが150円以下で人気の“購買パン”

 午前7時。岐阜市にある昭和22年創業の「武蔵屋パン」の工場では、すでにパン作りが始まっていました。

【画像20枚で見る】生徒が登校しないと出番なし…高校の“購買パン”を一般販売 たちまち人気店に

武蔵屋パンの社長・池田和繁さん:
「コッペパンにパン粉つけて、シナモンで味付けしたパンが、若い方からご年配の方まで支持を受けている」

 パンは約40種類。一番人気の「揚げシナモンパン」(130円)は、サクッとかじると口の中にシナモンの香りが広がります。

その他にも、「あん揚げパン」(130円)や「宇治抹茶コルネ」(140円)など、ほとんどのパンは130円から150円の間です。

手間ひまかけて作った商品ですが、お値打ち価格で販売しています。

■「ウチがやらなければ昼に食べるパンはない」…高校生の胃袋を支える“購買パン”

 午前10時30分。車にパンを積み市内の高校へ。武蔵屋パンは、岐阜県内12校の高校の購買コーナーででき立てのパンを販売しています。

スタッフの女性:
「たくさん買ってくれますね。貴重なお金。かわいいですよ、高校生」

お昼のチャイムと同時に購買が開店。すでに学生たちが列を作っていました。

男子高校生:
「弁当だけだと足らない。めちゃくちゃ助かります。お腹いっぱいになる」

別の男子高校生:
「昼前に早弁で食べちゃったりするので、買っちゃいます」

女子高校生:
「小腹が空いたり。お弁当が足らなかったり…」

「生徒たちに少しでも安くておいしいパンを」と、武蔵屋パンの社長・池田和繁さんは、長年パンを作ってきました。

池田さん:
「ウチがやらんかったら、岐阜の中心部の高校は昼食べるの(パン)ない。だから大優先。3年間ですけど、仲良くなって、卒業しての繰り返しだけど、喜んでいる姿を見ると、パンもちょっと大きく作ったりしちゃうよね」

■「学生の頃に食べていて懐かしい」…購買用のパンを一般にも販売

 午後1時40分。高校の購買での販売を終えた池田さんは、店で再びパンの準備を始めました。

池田さん:
「2時からの一般向けの販売の準備。もうバタバタです」

武蔵屋パンは、2021年10月から工場の一角で、購買専門のパンの一般販売を始めました。安くておいしい人気のパンだけあって、販売スタートと同時にたくさんのお客さんが工場の中へ。

女性客:
「おいしそうだなと。他のところに比べると安い」

中には、こんなお客さんも…。

別の女性客:
「(娘が)近くの高校を卒業しているんですけど、そこに来ていたパンということで、懐かしい感じ」

男性客:
「高校時代に、ここのパン屋さんが学食でパンを売っていて。50年ぐらい前の話、懐かしい」

 学生時代を思い出し、懐かしいと購入していく人の姿もありました。

■コロナで高校がオンライン授業や休校に…一般向けの販売を始めたワケ

 なぜ購買用に作ったパンの一般販売も始めたのでしょうか。

池田さん:
「オンライン授業になったり、休校になったりして、我々の出番がなくなった。ひどい時、月85パーセント減」

 新型コロナの影響で、売上は大幅減。オンライン授業や休校で生徒たちが学校に来なければ、購買パンの出番もありません。

少子化やコンビニ人気などもあり、いよいよ会社が立ち行かなくなるとの思いから、池田さんは店頭での一般販売を決意。不安の中で手探りのスタートでしたが、口コミで客が増え、わずか2か月で人気店になりました。

池田さん:
「正直、お客さん来てくれるか不安はありましたけど、すごい来ていただいて、ありがたく思っています。今までやってきたことが間違ってなかったんだという思い」

■「焼きそば」は180円…パンだけでなく約20種類のお惣菜も販売

 工場直売のパンが人気の武蔵屋パンですが、販売しているのはパンだけではありません。パンと同様手作りしている約20種類のお惣菜も販売しています。

「焼きそば」(180円)に、「生姜焼き丼」(390円)、自家製の「チャーシュー丼」(390円)など、どれもパン同様にお値打ち価格です。

池田さん:
「最初は半信半疑でしたけど…。ピンチがチャンスになった感じ」

「高校の購買の売り上げが持ち直しても、工場での直売は継続していきたい」と話す池田さんは、手応えを感じています。