新型コロナの感染拡大で、ネタを披露する場が減った若手芸人が正念場を迎えています。名古屋で唯一のお笑い専門劇場を取材すると、生き残りを賭ける名古屋芸人たちの姿がありました。

■週3回の公演がコロナで週1に…名古屋唯一のお笑い専門劇場に立つコンビ

 名古屋市中区・伏見駅の地下街に、名古屋で唯一のお笑い専門劇場「長者町raBBit(ちょうじゃまちラビット)」があります。わずか17平方メートルに椅子は15席と、日本一小さなお笑い劇場ともいわれています。名古屋芸人がネタを披露できる数少ない場所ですが、コロナの影響でライブは激減しました。

【画像20枚で見る】コロナでライブ激減し正念場…街唯一のお笑い専門劇場で生き残り賭ける『名古屋芸人』

お笑い芸人の男性:
「少なくとも週に1回はトークライブやっていたので…。単純に調子が悪くなりますよね、ここでしゃべってないと」

お笑い芸人の女性:
「舞台に立ってお客さんが笑っているのを見ると、やっぱりハッピーになる。なくなるのは不安だし、お客さんがそれで離れないか心配」

 午後7時に開演。この日のお客さんは数人。目の前の小さなステージで、大手芸能プロからフリーの芸人まで、日替わりで漫才やコントなどを披露します。お客さんは1時間1公演ワンドリンク制です。

 若手芸人の注目株が、愛知県出身のボケの安田遙香さん(25)とツッコミの林廉さん(28)の男女コンビ「アホロートル」。この日は地元・中日ドラゴンズのネタ。

安田さん:
「正月といえば一富士二鷹三茄子あるでしょ。あれ納得いってない。一富士二鷹三井端だったらどうかな」

林さん:
「井端?元中日の?違和感すごいわ」

安田さん:
「だったら立浪、井端、三荒木ならどう?」

林さん:
「そうなると全盛期の中日ドラゴンズ。黄金時代だから…」

 2人は、大手芸能プロのお笑い養成所で出会い、5年前にコンビを結成。別の仕事を掛け持ちしながら週3回の公演をしてきましたが、コロナで週1回に減りました。

林さん:
「辞めた方が楽という時もあるけど…。(辞めないのは笑いが)好きなのはでかい」

週3のネタ作りに、ユーチューブでの配信。お金にはなりませんが、それでも笑いを届けます。

安田さん:
「ライブに出てお客さんが笑ってくれることで、自分が元気になっていたんだって…」

常連客の男性:
「やっぱり(話の)回しはかなり上手いし。彼らの着眼点とか一味違うなって」

常連客の女性:
「お笑いを提供してくれる、心和むストレス解消の場ですね」

■常設小屋が無かったので…名古屋にお笑い専門劇場を立ち上げた元芸人の男性

 午後8時半。ステージには、一日3組ほどの名古屋芸人が上がります。劇場を運営する名古屋よしもとの元お笑い芸人、薬師寺洋一さん(37)は、芸人の出演スケジュールに、音響や照明の調整を一手に担います。

薬師寺さん:
「長いことお笑いの常設小屋が名古屋になかったので、名古屋のお笑いもっと盛り上がってほしいなって」

 2018年に、名古屋で唯一のお笑い専門劇場をオープン。当時は立ち見客も出るほどの人気でしたが、コロナで一変。一時休業に追い込まれ、その後も公演数を半分に減らしながらも何とか営業を続けています。

薬師寺さん:
「クラウドファンディングで60万くらい(集まった)。運営費として使わせてもらっています。表舞台に立ちたいなって子たちを応援したいのもありますし…」

「ここから売れっ子芸人が出てほしい」。薬師寺さんの願いです。

■芸人のギャラとアルバイトで月収8万円…一発ギャグを武器にブレイクを狙う若手芸人

 ド派手な衣装で舞台に立つ、名古屋出身の5年目のピン芸人・超E人世聞(ちょういーひとせぶん)(26)さんは、一発ギャグを武器にブレイクを狙います。

超E人世聞さん:
「見た目から興味をひかないと…。僕はフリーで事務所に所属してないので、活動する場所がない。だけどraBBitさんは、フリーの芸人も出させていただける素敵なハコ(劇場)」

事務所に所属していない芸人も数多く出演しています。

 超E人世聞さんは、夜の公園で稽古をしています。

世聞さん:
「一発ギャグが主なので、広いステージ使ってこういう動き方がいいんじゃないかとか…。今はあそこのキャパも埋められないので、実力つけてチャンスをつかめるように…」

稽古あっての若手芸人ですが、悩みがあります。

世聞さん:
「ここ1年の平均だと、お笑いでは(月に)2、3万円くらい。アルバイトをウーバーイーツで、そっちがメインになっちゃっている」

半年前からアルバイトを始め、芸人としてのギャラとアルバイトで月収およそ8万円…。生活をするために、稽古に割ける時間が減りました。

■「M-1の3回戦にいってみたい」…苦境の中でも夢に向かいお笑いを続ける芸人たち

 中には、そのままこの世界を離れる芸人も…。

薬師寺さん:
「まったく仕事もなくなって、営業もライブもやれないって…。そのままフェードアウトな感じで辞めちゃう子たちいますね」

名古屋はお笑いの主戦場の大阪や東京と比べ、芸人が経験を積める劇場やライブが少ないのが現状です。

お笑い芸人の男性(26):
「自分にとっての第二のホーム。賞レースの2回戦で東京へいってダメで帰ってきても、ここにきたら”よく頑張ったね”って迎え入れてくれる」

別のお笑い芸人の男性:
「本当にありがたい。名古屋ってハコ(劇場)が少ないので。これがあるのは大きい」

 劇場を運営する薬師寺さんは、「これを乗り越えたらみんなも強くなれるから、この場所を守っていきたい」と話します。

この劇場に立つ芸人たちには、それぞれ追いかける夢があります。

お笑い芸人の男性(26):
「相方が(ラジオの)レギュラーもっているんですよ。できれば2人でレギュラーもって、ゆくゆくは僕だけでも持てるように…」

別のお笑い芸人の男性:
「M-1の2回戦でよく落ちていたんで…。3回戦いってみたい夢が、どうしても諦められなくて…」

 午後9時半。「アホロートル」の安田さんと林さんは、公演後に賞レースのネタ作りです。

安田さん:
「賞レース上がりたいですね。決勝までいきたい」

林さん:
「お笑いが好きなんですけど、売れないと辞めないといけないんで…。僕らがもし東京いっても、名古屋の劇場にちゃんとお客さんがくる文化ができたらいいな」

「名古屋芸人には面白い人がいっぱいいるのでみんな売れてほしい」と林さん。名古屋から全国に…。小さな劇場から大きな笑いを届けます。

 お笑い専門劇場「長者町raBBit」は、3月6日(日)までは、午後8時までの時短営業となります。