愛知県美浜町にある「南知多ビーチランド」は、“ふれあい日本一“を掲げ、海の生き物との距離の近さを売りにしてきました。しかし新型コロナで来場者数は大幅に減少し、厳しい状況が続いています。そこでコロナ禍でも楽しめるイベントとして、光と泡で“宇宙”を演出した“マイワシの水中ショー”を考案。約1万匹のマイワシを使った冬限定の幻想的なショーは、たくさんの人たちを魅了しています。

■入場者数は半分以下に…厳しい状況の中で考案した“マイワシの水中ショー”

“ふれあい日本一“をモットーとしてきた「南知多ビーチランド」は、これまで動物との距離の近さを売りにしてきました。

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しかし、コロナの影響で入場者数は大幅に減少し、2020年度はそれまでの半分に。さらに建物の老朽化に伴う修繕費や、年間2000万円を超すエサ代なども経営を圧迫し、厳しい状況が続いています。

 ふれあいが無くてもお客さんに喜んでもらえるイベントとして考えたのが、約1万匹のマイワシの群れで、“銀河”を表現する水中ショー「マイワシギャラクシー」です。

男の子:
「光に集まってくる魚がすごかった」

女性客:
「世界観があって、すごい考えられてるなって…」

これまでにない「光」と「泡」の演出が、見る人を魅了します。

■土日は整理券を配布…ショーの入場者数を半分に制限し感染対策

 午前8時。南知多ビーチランドの飼育員の伊藤幸太郎さんは、出勤後すぐに水族館のオープン準備。水槽の水の入れ替えをしつつ、魚たちの様子をチェックします。

飼育員の伊藤さん:
「(魚たちは)野生動物なので、体調が悪いのは天敵に狙われてしまう。ですので(体調が悪いのを)隠そうとするんです。なので日々の観察は大事」

コロナ禍で迎えた2回目の冬。消毒に加えて、ソーシャルディスタンスの徹底を呼びかけるなど、万全のコロナ対策でお客さんを迎えます。

 午前10時にオープン。伊藤さんは、イワシたちの水槽がある建物の入り口で、整理券の配布をアナウンス。土日は混雑が予想されるため、事前に整理券を配布しています。コロナ前は1度に200人収容していましたが、現在は100人に制限。収容人数が減った分、ショーの回数を増やし、できるだけ多くの人に見てもらえるようにしています。

■ビッグバンから彗星まで…光と泡の演出で“銀河”を「ストーリー仕立て」に表現

 2021年12月にスタートし人気となっている、「マイワシギャラクシー」。ショーが始まる前に、伊藤さんは水槽の上へ…。

伊藤さん:
「ここがDJブース…。ショーの演出をするための仕組み。これが照明の色合いを変える機材で、今は真っ白なんですけど、青に変えたり、緑に変えたり…」

ショーの目玉として、伊藤さんが考えたのが、「光」と「泡」の演出。実は南知多ビーチランドのイワシショーはこれで6年目。これまでも泡や光は使ってきましたが、今回の“ギャラクシー”ではこれまでで初めの挑戦をしています。

伊藤さん:
「今までは自由にイワシを動かしていたけど、(これまでの経験で)こうすればイワシが動くというノウハウが蓄積されてきたので、オーロラであったり、彗星であったり、ビッグバンであったり…」

泡などを使いイワシの動きに変化をつけつつ、音や光の演出を加えることで「ストーリー仕立て」に。照明は白や赤など、4色をベースとして使用。組み合わせにより、“紫”や“ターコイズブルー”など微妙な色合いも作ることができます。

そしてその光に合わせるのが泡「エアー」です。

伊藤さん:
「例えば帯状に出る気泡が、このような形で水槽の真ん中辺りに出てきます」

ショーにアクセントをつけるエアーも、1パターンだけではありません。柱のように垂直に出したり、細かくシルク状に出したりと、場面によって使い分けています。

■エサを出す場所を調整しイワシの動きをコントロール…群れの動きで“宇宙”を表現

 さらに、DJブースの脇には大きな桶が…。

伊藤さん:
「桶の中に餌を入れてスイッチを入れると、餌が指定した方向に流れる仕組み」

バルブを切り替えると、桶に入れたエサが水槽の指定された場所に。エサの出る場所を変えることで、イワシの動きをコントロール。

伊藤さんはイワシの位置をチェックしながら、映像と音楽を頼りにうまく誘導しショーを作っていきます。このコントロールには、経験だけでなく反射神経や勘も必要と伊藤さんは話します。

そして、ショーをさらに盛り上げるのが、「ビッグバン」、「彗星」、「オーロラ」といった3つの天体現象。「光」と「泡」を駆使して、命の尊さを実感できる広大な宇宙を表現します。

■「いかに生き物の命を輝かせるか」…10分間の幻想的な水中ショー

 いよいよ、約1万匹のイワシを使った水中ショーのスタート。最初の「ビッグバン」の強烈な光には、主に船釣りで使う集魚灯が使われています。エサを流しイワシの群れをひきつけ、ライトの点灯と同時にエアーを放ちます。イワシにはエアーを避ける習性があるため一気に動き、まるで爆発したように。続いては「彗星」です。

伊藤さん:
「水槽に太い釣り糸でレールが。そこに引っ掛け、落とすと光りながら徐々に餌を撒き散らしながら落ちていく」

餌を求めるイワシの姿で、彗星から出る尻尾を再現しています。

 そしてフィナーレの「オーロラ」は、細かい泡に様々な色の光を当てて表現。泡だけに光を当てることで、魚がシルエットになり幻想的な雰囲気に…。光と泡で作り出す、およそ10分間の水中ショーです。

女性客:
「キラキラしていてキレイでした」

「コロナ禍でも何か新しいものを作り出したい」と飼育員の伊藤さんは、ショーの完成まで何度も試行錯誤を繰り返したといいます。

伊藤さん:
「私達にとっては何十回のうちの1回ですけど、お客さんにとっては1回限り…。その1回にどれだけ良いショーができるかを考えながら…」

「いかに生き物たちの命を輝かせるかが私たち飼育員の使命」と伊藤さんは力を込めます。