2022年1月末、名古屋市中区の大須商店街にわらび餅の専門店「かぐら屋」はオープンしました。この店は愛知県稲沢市にあるわらび餅で有名な喫茶店を営む女性が出店。大須への出店は、2009年に亡くなった女性の夫との夢でした。食べ歩きできるようカップに入ったモチモチのわらび餅は、すぐにリピーターが付くほどの人気となっています。

■特産のレンコンを練り合わせて柔らかく…独特のモチモチ感が評判のわらび餅

 2022年1月、名古屋市中区の大須商店街にオープンした「大須わらび餅 かぐら屋」。11時の開店と同時に、独特のモチモチ感で人気のわらび餅を求め、次々とお客さんがやってきます。

【画像20枚で見る】こんな町でお店ができたら…50歳で他界した夫との夢叶えた『わらび餅専門店』

女性客:
「濃厚で、柔らかくて食べやすい」

別の女性客:
「モッチモチ。美味しいってみんな言っています」

また別の女性客:
「メガネ屋さんで『ここ美味しいよ』って言われたので…」

 店のわらび餅は、口コミで人気となり、すでにリピーターもつきました。

 この店を出店したのは、愛知県稲沢市にある「珈琲茶屋かぐら」の店主・野田康子さん(62)です。「珈琲茶屋かぐら」は喫茶店ですがわらび餅が人気で、息子の大輔さん(40)が作っています。

息子の大輔さん:
「本わらび粉がメイン。稲沢の特産のレンコンの粉を練り合わせて、柔らかく仕上げています」

本わらび粉と地元のレンコンの粉と砂糖のみを使用。モッチリとした食感が特徴です。

大輔さん:
「火加減が難しい。強すぎると焦げ、弱すぎると硬くなる」

1時間以上かけて煮詰めたわらび餅は、1日寝かせて完成。大勢の舌を魅了しています。

■コロナの影響で集客に苦戦…20キロ離れた大須への出店を決断

 地域で長年愛されてきた店ですが、コロナの影響で厳しい状況が続いています。以前は、店の前にある市民会館の利用者がお土産として購入してくれましたが、イベントの相次ぐ中止で大きな影響を受けていました。テイクアウトを始めるなど対策も講じてきましたが…。

康子さん:
「店を存続させるために、何かやらないと…。縁があって大須の店を紹介してもらえてチャンスかもと」

 毎日、1箱12キロのわらび餅を、約20キロある名古屋の大須まで運んでいます。康子さんは、大須での販売方法を本店とは違う形にしました。

康子さん:
「大須は食べ歩きの町なので、一口サイズに切ってカップのものも」

食べ歩きしやすいようにカップに入れた「カップわらび」(きなこ 380円 抹茶 420円)や、串に刺してイカせんべいに乗せた「わらび串」(きなこ 300円)など、大須らしいスタイルにしました。

もちろん手土産用の「パックわらび」(きなこ 1000円)も販売しています。

■「こんな町でお店が出来たらいいよね」…亡き夫と話していた夢を叶える

 最近、大須ではわらび餅の店が増えています。

2月10日にオープンした「京都利休の生わらび餅」では、パックに入った「生わらび餅」(小 600円)をはじめ、カップのわらび餅に生クリームをトッピングした「飲むわらび餅ラテ」(イチゴ 600円)など、個性的な商品を販売しています。

 3月には、大須交差点の角に全国展開している店の出店も予定されるなど、今や大須は”わらび餅激戦区”ともいえる状態に。それでも、この場所で勝負したいと康子さんが決断したのには理由がありました。

康子さん:
「子供が小さい頃から、大須は主人と遊びに来ていた。『こんな町でお店が出来たらいいよね』って話していた」

「かぐら屋」のわらび餅は、2007年に夫の雅浩さんが脱サラして始めた喫茶店で出すようになったメニュー。しかし雅浩さんは、2009年に病気で、50歳の若さで亡くなりました。

康子さん:
「本人も生きるって頑張っていたので信じられなかったけど、残された稲沢のお店を息子と一緒に守らなきゃって…」

稲沢の店は長男の大輔さんがしっかりと引継ぎ、康子さんが大須で新たな店を立ち上げることになりました。コロナ禍での苦境が、思わぬかたちで亡き夫との夢を叶えることに繋がりました。

康子さん:
「まさか名古屋へ出てこれるとは思っていなかったので、(天国の夫は)本当にビックリしていると思います」

 午後になっても、わらび餅を買い求める客は途絶えません。

女性客:
「柔らかくて美味しい。わらび餅好きなんですけど、ここのは別格」

男性客:
「自分食べる用と親戚とかあげる用で。1人で1箱食べちゃう」

 午後4時、閉店の1時間前にこの日用意した分は完売。

康子さん:
「縁でここまでこれたので、皆さんに感謝して頑張りたい」

「こんな町で店をやりたい」、かぐら屋のわらび餅は亡き夫と康子さんの夢が詰まっています。