ステージ4のガンと闘う女性が、3月13日に開催された名古屋ウィメンズマラソンで人生2度目のフルマラソンに挑戦しました。原動力となったのは、苦しい治療の励みとなっている100以上の目標を綴った目標ノートです。女性は見事マラソンを完走し、再びノートに次の目標を書き込みました。

■「名古屋ウィメンズマラソンに出る」…ノートに書かれた最期の日までにやりたいこと

 名古屋市に住む加藤那津さん(43)は、31歳のときに乳がんと診断され放射線治療を受けました。しかし、7年後の38歳のときに肝臓へ転移し、現在はもっとも進行している「ステージ4」です。

加藤さん:
「完治はしないっていう話ですけど、でも薬が効いている間は、いまの薬を飲み続けないといけない」

【画像20枚で見る】最期の日までにやりたい事をノートに…がんと闘いフルマラソン 新たに綴った“178個目の目標”

 肝臓への転移がわかった2016年から書き始めたというノートには、『1、シャインマスカットを食べる』、『155、アフリカに行く』など…。最期のその日を迎える前に、加藤さんのやりたいこと約170の目標が綴られています。

加藤さん:
「やりたいことを色々と書いて、それを1つずつ消していって…。目標を達成していくことを“治療のモチベーション”を上げるためにやろうと」

これまでに、大好きな“ゆず”のライブに行ったり、屋久島でシーカヤックをするなどを達成してきました。そして今一番叶えたいことは、『名古屋ウィメンズマラソンに出る』ことです。

 加藤さんは、2017年の名古屋ウィメンズマラソンで初めてのフルマラソンに挑戦。制限時間の7時間ギリギリで完走できたものの、右足を疲労骨折し20キロ付近からはほとんど歩いていました。今回の再チャレンジでは、満足のいく走りを目指します。

父の茂矩さん(75):
「何時間くらい目指しているの?5時間くらい?」

加藤さん:
「いや、ぜんぜん走れればいいって感じ」

一緒に住む両親も、優しく見守ってくれています。

母の多恵子さん(74):
「ゴールできなくたって参加することに意義がある」

茂矩さん:
「目標を決めてそれをポジティブに達成していくというのはすごくいいことだし、素晴らしい」

加藤さん:
「好きなことやって、生きてるよというところを見せられたら」

■治療の励みになっていた目標ノートの達成が一時ストップも…2度目のフルマラソンに挑む

 2017年のフルマラソンへの挑戦以降、加藤さんは全国各地の大会に参加し、トレーニングを積んできました。しかし、決して平たんな道のりではありませんでした。

加藤さん:
「2019年の夏ごろに骨にも転移していることがわかって。飲み薬の抗がん剤になって、吐き気が出たり、結構寝込んじゃったりして…」

抗がん剤治療の副作用で、入退院を繰り返しました。2018年には、治療に専念するために11年間勤めた職場も退職。そこに、追い打ちをかけたのが新型コロナでした。

加藤さん:
「旅行に行ったり、マラソンしたり、外に行くのが好きだったけど、なかなか自由にできなくなって…。旅行とかを目標に治療もがんばってきたんですけど…」

治療の励みにもなっていた目標ノートの達成も、一時ストップ。こうした苦難を乗り越えての2度目のフルマラソンです。

加藤さん:
「マラソンも、一つ一つ関門を越えてゴールを目指すのが(治療と)似ていると思ってやっています」

 大会の5日前に、加藤さんは病院で健康状態の最終チェック。実は2月にも体調を崩し、2週間入院していました。

加藤さん:
「痛みは普通に(薬で)コントロールされている感じで、走って痛みはないです」

主治医の先生もマラソン仲間で、メンタル面もサポートしてくれます。

加藤さんの主治医:
「『おかしいな?』って思ったら、勇気を出して中止、ストップしてください」

 加藤さんは、マラソン仲間でもある主治医と、名古屋ウィメンズマラソンの後に一緒にハーフマラソンを走る約束をしていました。

■「前しか見えない、気持ちいいの一言」…前回より1時間以上早いタイムでフィニッシュ

 そして迎えたマラソン当日。前回はスタート前から、右足に痛みがありましたが…。

加藤さん:
「とりあえずスタートラインに立てたので、あとは一歩ずつ前に進んで…。痛いところはないので、まあ大丈夫かな」

目標ノートに書いた「名古屋ウィメンズマラソンに出る」は、ひとまず達成することが出来ました。あとは、完走を目指します。

 加藤さんの人生2度目のフルマラソンが始まりました。スタート直後、暑さから息が上がります。この日の名古屋市内の最高気温は、今シーズン最高の22.6度。暑さが体力を奪います。

それでも、3キロから5キロごとにある関門を、前回(2017年)を上回るスピードで次々と通過。前回はコースの半分あたりから、走ることができなくなってしまいましたが、今回は順調に一歩一歩前に進みます。そして、34キロ付近には、両親の姿が…。

母の多恵子さん:
「すごいね、がんばったね。えらかったら(疲れたら)歩きな」

加藤さん:
「(あと)3キロ…。前しか見えない。気持ちいいの一言、楽しい」

40キロを超えても笑顔です。そして、ついに5時間47分でフィニッシュ。前回より1時間以上早いタイムでの完走でした。

加藤さん:
「気持ちいいのと、応援してくれている人とか、支えてくれる人に感謝の気持ちが湧いてきました。ウィメンズに出るのが目標だったので…。その先の完走ができたのでよかった」

レース後、目標ノートに達成したことを記した加藤さんは、続いて新たな目標として、「178、もう1回ウィメンズマラソンを走りタイムを縮める」と書き込みました。

加藤さん:
「また挑戦してタイムを縮めたいなと。また1つ達成できたのが、自分が治療とか辛いことがあっても頑張れるというのもあるし、(みんなに)元気にしているなっていうのを伝えられたらいいな」

加藤さんは、新たな目標を達成するために再び走りだします。