2022年1月、岐阜県郡上市の遮断機の無い踏切で列車と乗用車が衝突し、運転する男性が死亡する事故がありました。この遮断機がない危険な踏切は、なぜ存在しているのか。理由を調べると、遮断機設置が法律で義務化される前からある古い踏切は設置義務の対象外で、鉄道会社もコスト面や立地条件などの理由で全てを廃止することができないことがわかりました。

■遮断機がない踏切で列車と車が衝突…車を運転していた男性が死亡

 岐阜県郡上市大和町の長良川鉄道の踏切には、あるはずの“遮断機”がありません。

【画像20枚で見る】2歳の命奪われた所も…なぜ『遮断機ない踏切』が存在するのか 未だ残る“義務化の対象外”

近くに住む男性:
「学校が近いで、子供にちょっと危ないかな。(列車の)通行量少ないでね、ここ。2時間に一本平均やろ」

近くに住む女性:
「わしはいつもあそこ乳母車で行くんやけど、気を付けとるで。今までここらで事故起こしたことないけど…」

 事故は、2022年1月4日の午後に起きました。1両編成の列車と踏切に差しかかった乗用車が衝突し、運転していた大垣市の74歳の男性が死亡。助手席の71歳の妻も骨折する大けがをしました。

事故があった踏切には警報機はあるものの、整備された一本道の途中にあり「警戒標識」はありません。

近くに住む別の男性:
「僕らは初めからわかっているので。遠くの方はわからない可能性もないことはない。僕らでも注意しながら走っていますから。遮断機があるに越したことはないですけど…」

■1987年に遮断機設置が義務化されるも…それ以前から存在する踏切は“設置義務の対象外”

 しかし、なぜ“遮断機のない踏切”が存在するのでしょうか。名古屋市中区にある中部運輸局に、理由を聞きました。

中部運輸局・鉄道部技術防災課の担当者:
「昭和36年当時では7万か所くらいの踏切道がありましたが、その90%くらいが、“遮断機のない踏切”」

 もともと長良川鉄道は、国鉄・越美南線として1934年までに開通しました。当時は交通量が多い踏切でも、遮断機はありませんでした。鉄道に関する法律や規則が書かれた「鉄道六法」の鉄道の技術基準の省令を読んでみると…。

同・担当者:
「62条に『踏切保安設備』という条項があって、『列車等の接近を知らせることができ、かつ踏切道の通行を遮断することができるものでなければならない』『警報機と遮断機を付けなければならない』規定になっています」

 国は、1987年に遮断機の設置を義務化しましたが、例外がありました。

同・担当者:
「だだ、今は従前のまま(の遮断機のない踏切の)設置は継続できるという規定がある」

 専門家は…。

鉄道ジャーナリストの梅原淳さん:
「(以前からある踏切に関しては)義務付けられてはいない。鉄道に関する構造上の基準を定める省令というのがありまして、それが逆に古いものをずっと残しておくことになってしまっています」

省令ができる前に設置された古い踏切は、いまだ“遮断機設置義務化”の対象になっていません。

国交省のデータによると、遮断機のない踏切は年々減ってはいるものの、いまだ全国に約3000か所あります。

遮断機のない踏切は、警報機のみが設置されている「第3種踏切」と、遮断機も警報機も設置されていない「第4種踏切」があり、東海3県では今も岐阜県内で156か所、愛知県は65か所、三重県は61か所あります。

■2歳男児が列車にはねられ死亡…事故後に遮断機が設置された踏切

 重大な事故を引き起こす遮断機がない“危ない踏切”をなくすことはできないのでしょうか。岐阜県大垣市にある、JR東海道線の歩行者専用の「牧野踏切」には、かつて遮断機はありませんでした。

近くに住む女性:
「ここ危ない所やもんね。(事故は)多いですよ。最近だよね、(遮断機が)できたの」

男性(70代):
「年取ってくると見落としはどうしても出てくるので、遮断機というのは僕らには必須やね。遮断機はつけてもらわんと」

 2012年9月13日、「牧野踏切」から線路に入った2歳の男の子が、貨物列車にはねられ死亡しました。この事故の現場で一人の男性に出会いました。

男性(40代):
「被害者です。僕は(事故の)被害者。2歳の息子が亡くなっているんです。10年前かな」

踏切事故で息子を亡くしたという40代の男性。

男性:
「公園で遊んでいると思ったら、あそこから入ってきて、線路の脇を歩いて風圧で飛ばされたんじゃないかと」

当時2歳だった男の子は、遮断機のない小さな踏切から線路の中に入ったといいます。列車のブレーキが間に合わず、頭などを打って死亡しました。現場には、子供のお地蔵さんもありました。

男性:
「遮断機がない、あの当時は。歩行者通るにしろ自転車通るにしろ、遮断機がないのはおかしいやろって思った」

あの時、この現場に遮断機があれば…。

男性:
「今も置いているけど、こうやって花を。命日になると、お菓子とジュース、お地蔵さん」

今も男性のスマートフォンには、男の子の写真が…。男性はこの踏切をなくすように声を上げ、事故から3年後の2015年に、遮断機は設置されました。

この踏切では他にも事故による死者が出ていて、踏切の横にはお地蔵さんがあり、今も通る人を見守っています。

 後を絶たない危険な踏切での事故。古い踏切に遮断機の設置を義務づけることはできないのでしょうか。専門家は…。

鉄道ジャーナリストの梅原淳さん:
「地方の私鉄とかになると、経済面での制約が大きい。遮断機を設置するだけでも、数千万円くらいの費用がかかるうえに、遮断機や警報機を付ける場所がない苦しい立地条件になって、その結果付いていないという踏切もあります」

息子を失った男性は…。

男性:
「(事故が)多いでね。踏切事故というとああ亡くなっとるんや、かわいそうにと思って…。見ると涙が出たりする」

遮断機がない“危険な踏切”は、コスト面や立地条件などの理由で、全てを廃止することができないのが現状です。