
2022年3月、32歳のウクライナ人女性は、2人の娘ら家族4人で、ウクライナから岐阜県各務原市に避難してきました。女性は、ふるさとに残してきた警察官である夫のことを案じながら、日本の生活に馴染むために、娘と一緒に日本語の勉強を始めています。
■「普通の子のように娘が幼稚園に入れるのはうれしい」…3歳の娘が通う幼稚園の見学に訪れた母

ナタリヤさん(32)は、3歳のマリッチ・ミアちゃんら家族4人で、岐阜県各務原市に住んでいた姉のスビトラーナさん(39)を頼って、ウクライナから避難してきました。
この日は、ミアちゃんの入園の手続きのために幼稚園を訪問。
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幼稚園の先生:
「幼稚園のお洋服。今回せっかく来ていただいたので、全部お貸しします。他にも幼稚園で着るスモックとか、あと体操服とかも…」

ミアちゃん、さっそく幼稚園の制服に袖を通します。娘のかわいい姿に、ナタリヤさんも笑みが…。先生とのやり取りは、県から支給されたばかりの“AI翻訳機”で行います。

幼稚園の先生:
「日本のご飯は食べられますか?」
母親のナタリヤさん(翻訳機):
「彼女はそれがあまり好きではありません」

叔母のスビトラーナさん:
「彼女は食べるのは大好きだけど、お米が一番苦手みたい」
その後、ミアちゃん達は“下駄箱”へ。
幼稚園の先生:
「ミアちゃんここから入ってきたら、ここに靴を置くんだよ」

そして、手洗い場などの案内を受け、ミアちゃんが入る予定の“年少クラス”を見学。初めて会う日本の子供たちに、少し照れ気味なミアちゃん。5月から、ここで元気いっぱいに過ごします。

スビトラーナさん:
「すごく楽しかったみたい。朝から準備して『行こう行こう』って。問題なく行けると思います」
ミアちゃん(日本語訳):
「楽しかった」

スビトラーナさん(日本語訳):
「泣かずに行けそう?」
ミアちゃん(日本語訳):
「うん」

ナタリヤさん(日本語訳):
「安心しました。ミアが普通の子供と同じように幼稚園に入れるのはすごく大事、それをかなえることができて本当にうれしい」
■駅へのミサイル攻撃で子供5人を含む52人が死亡…戦火を逃れ日本へ避難してきた家族

ナタリヤさんら家族4人は、ウクライナ東部ドネツク州のクラマトルスクで暮らしていました。クラマトルスクは、宝飾品の町で、「平和広場」はクリスマスの時に電飾され、彩られます。
しかし、4月8日に駅にミサイル攻撃があり、子供5人を含む52人が死亡。当時、駅には安全な地域に避難しようとする大勢の女性や子供がいました。

スビトラーナさん:
「本当に戦争が近くにあるって初めて感じた。ちょうど(攻撃の)1か月前に、私の家族がその駅から避難したので」

ナタリヤさん(日本語訳):
「あの駅は何度も使っていたので、すごく心が痛い。避難した時、その駅から逃げたので、攻撃を受けても不思議じゃなかった」
■「日本語の勉強大好き、友達もつくりたい」…母親と日本語教室に通い始めた10歳の長女

戦禍を逃れ、日本に避難してきたナタリヤさんら家族が今直面しているのは、“言葉の壁”です。
スビトラーナさん:
「日本で普通の生活するために、とりあえず日本語をわからないと生活できないから。一番大事なのは日本語」

ナタリヤさんの長女、10歳のエヴァちゃん。
エヴァちゃん(日本語訳):
「(学校行くのは)少し心配だけど、楽しみです。算数の勉強がしたい」

ナタリヤさんと10歳のエヴァちゃんは、岐阜市のボランティア団体「鮎の会」が開いている日本語教室に、週に2回通い始めました。
ナタリヤさん:
「(日本語で)新聞です、ノートです、本です。国はウクライナです」

使用しているテキストは…。
日本語の先生:
「彼女用にドリルを作ってあげた、手製です。『あ、い、う、え、お』ロシア語で。これ『ウクライナ』という字ですね、ウクライナ語です。これを(日本語で)書かせるわけです」

ナタリヤさんたちが理解できる、ロシア語やウクライナ語を使って作られたオリジナルのテキスト。先生のサポートを受けながら、2人とも一生懸命に日本語を学んでいます。
鮎の会の代表:
「何としても日本の社会で馴染んでいこうっていう意気込みがみえます。できるだけのことはしていくつもりですし、もちろん日本語だけではなくて、心に寄り添った支援をしていきたい」

1時間半の勉強を終えた2人は…。
ナタリヤさん(日本語訳):
「疲れた。日本語は全部難しい」

エヴァちゃん(日本語訳):
「日本語の勉強、大好き。(日本語を勉強して)友達もつくりたい」
■「パパに抱っこしてほしい」…ウクライナに残してきた大好きな父親を案じる

日本で生活を始めたナタリヤさんやエヴァちゃんですが、心から離れないのは、ウクライナに残してきた父親・アンドリューさんのことです。
スビトラーナさん:
「妹(ナタリヤさん)の旦那さんは警察の人だから、国のために頑張っています。街の中で守ったり、だから国外に出られない」
家族を避難させ、警察官として街の治安を守り続けるアンドリューさん。しかし、ロシア軍はクラマトルスクを含むドンバス地方に、かつてない総攻撃を仕掛けています。大好きなお父さんをドンバスに残し、別れることを余儀なくされた子供たちは…。
エヴァちゃん(日本語訳):
「パパに抱っこしてほしい」

スビトラーナさん:
「特にパパに会いたいのはこの子(ミアちゃん)。だからうちの旦那が仕事から帰ってくるときは、いつも『私のパパ帰ってきた、パパ帰ってきた』って言って。それは結構つらい…」

それでも始まった日本での新生活に…。
ナタリヤさん(日本語訳):
「子供たちを、ウクライナにいた時のように生活させてあげたい。私は日本人と変わらないくらい日本語をうまく話して仕事をするため、勉強を頑張ります」
ナタリヤさんたちは日本で生活をしながら、母国に再び平和が訪れることを願い続けます。