愛知県の明治用水の漏水問題で、19日夜から「工業用水」の利用が限定的に再開した一方、全面的な復旧にはまだ遠く、周辺では長期化を不安視する声も上がっています。

(リポート)
「明治用水の取水口の前に仮設ポンプが下がっています。現在56台が稼働していまして、さらに奥でもポンプの増設が進んでいることが確認できます」

 大規模な漏水が発生した豊田市の明治用水頭首工。

用水施設での大規模漏水…専門家が原因として指摘する“パイピング現象”とは「予見も日常点検もしづらい」

 現場では20日、水をくみ上げる仮設ポンプを56台に増設、さらに土嚢の数を増やすなどの緊急対応が続いています。

 愛知県は19日夜、頭首工下流の安城浄水場で一定量の水が確保できたことなどから、供給が事実上停止していた工業用水の利用を再開したと発表。

 ただ、企業側は使用量を通常の3割程度に抑える必要があり、完全な復旧には程遠いのが現状です。

 長期化が予想される漏水の影響は、周辺地域で次々に表れています。

 パッカー車で次々に運び込まれるごみ…。愛知県碧南市のごみ処理施設「クリーンセンター衣浦」です。

衣浦衛生組合の担当者:
「焼却炉を冷やすための水として、明治用水の水を使っております」

 1日に運び込まれるおよそ140トンのごみを、2つの焼却炉を交互に使い焼却処理しているこの施設。焼却炉の機械を冷やしたり排ガスの温度を下げたりするため、焼却炉ひとつにつき1時間に8000リットルの工業用水を使用しているといいます。

ところが…。

衣浦衛生組合の担当者:
「現在は水道水で冷却をしておりますが、明治用水の水を3割程度通水できると聞いておりますので、水道水を併用して冷却を進めていきたいと思っております」

 明治用水の工業用水が止まった影響で、19日から使う水を「水道水」に切り替え。しかし、水道水だけでは1炉分しか冷却水が賄えず、工業用水の使用が再開しても「通常の3割」という制限では、2つの焼却炉を動かすには足りません。

 ごみの持ち込みのピークは、夏にかけてのちょうどこの時期。

衣浦衛生組合の担当者:
「草木が生えることによって、そちらの持ち込みが増えます。夏場になれば水分を含んだ生ゴミの搬入が増えてきます。(今の状況が続くと)6月の上旬にはごみのピットがいっぱいになってしまいます」

 一方、漏水の影響はこんな所にも…。

矢作川水族館の代表:
「『魚道』といって、魚の道と書く。魚は通れて、いつもは水が流れている」

 明治用水頭首工の脇にある水のない水路。天然の鮎が三河湾から遡上する時に通ります。

 矢作川の河口から35キロほど、例年4月から6月にかけて、多い時は200万匹もの鮎がここを通るといい、ことしも漏水前の5月15日までにはおよそ60万匹が遡上しましたが…。

矢作川水族館の代表:
「(Q.あれは稚鮎ですか?)登っとる最中に水が止まっちゃったから、下れずに残っちゃったのが干からびちゃった」

 この状態が続けば、今年の天然鮎釣りはもうできないかもしれません。地元の人の心配事は他にも…。

矢作川水族館の代表:
「これが17日の朝か。下流を見ると、辺り一面がどぶの匂い、グレーの濃い灰色」

 漏水が始まった17日には、朝から川底の堆積物などを含んだ濁った水が流れ出し、矢作川の下流や三河湾の生態系に悪影響が出るのではと懸念しています。

 一方、依然厳しい状況にあるのが農業。

 農業用水の供給は停止が続いていて、周辺地域のコメ農家では水田に水が引けない状態に陥っているところもあり、一刻も早い状況の改善を求める声が上がっています。

 こうした中、農業用水の確保に向けて新たな動きが…。

(リポート)
「愛知県豊田市の猿渡川です。この川の水を、すぐ隣の明治用水に流し込むということです」

 愛知県は、明治用水の付近を流れる猿渡川と家下川からの緊急的な水のくみ上げを了承。明治用水を管理する土地改良区は、仮設ポンプ設置が可能か現地を調べ、準備が整い次第水をくみ上げる予定です。

 また東海農政局は、明治用水頭首工での仮設ポンプを5月中に今の倍となる110台に増やす方針で、農業用水を含めた必要な水の確保を目指すとしています。

 少しずつ進む復旧作業。しかし、水の供給を待つ関係者には予断を許さない状況が続きます。