岐阜県を訪れる外国人観光客の数は2019年の166万人をピークに、2020年の春以降ほとんどなくなりました。いよいよ海外からの旅行客の受け入れに動きだそうとしていますが、多くの観光地を抱える岐阜県の自治体や旅館では、デジタルを使った集客や、外国人向けの料理メニューの開発など様々な取り組みが始まっています。

■岐阜の魅力を世界へ伝えてもらいたい…県がアメリカの人気旅行雑誌のクルーを招待

 5月24日、これまで受け入れを原則停止していた海外からの観光客の受け入れ再開に向けた実証実験のツアー第一陣として、ハワイやロサンゼルスから7人が成田空港に到着しました。

7人は2班に分かれ、7泊8日で岐阜県の白川郷や、長野県の善光寺などを観光する予定。新型コロナの水際対策を緩和し、いよいよ動きだした海外観光客の受け入れに向けて様々なところで取り組みが始まっています。

【画像で見る】外国人観光客が一瞬で消失も…インバウンド回復へ コロナ後見据え岐阜の自治体や旅館が再始動

 2022年4月、美しい川のせせらぎと風情漂う古い町並みが魅力の岐阜県郡上市に、今では珍しくなった外国人の姿が。アメリカからやって来たタマラさんとジェイソンさんは、県が招きました。

新型コロナで消えた外国人観光客を取り戻すための取り組みで、彼らが郡上市にやって来た目的は、アメリカの旅行雑誌に岐阜旅行の記事を書くためです。

2人は、アメリカを中心に発行部数およそ100万部を誇る「TRAVEL+LEISURE(トラベル・アンド・レジャー)」のライターとカメラマンです。

5泊6日の日程で、陶磁器が特産品の多治見市、宮川朝市が有名な高山市など県内6か所を巡り、岐阜の魅力を世界へ伝えてもらうのが目的です。

 この日は、染物工房を訪れて職人による日本ならではの“匠の技”を取材しました。

カメラマンのジェイソンさん(日本語訳):
「私たちは様々な印刷や染め方を知っている。それとは別の、この土地ならではの染め物を見られて興味深い」

■“観光立国”を掲げるも…ピーク時に3000万人を越えた外国人観光客が一瞬で消失

 かつて、旅を経済の柱とする“観光立国”を掲げた日本。海外からの旅行客は、2019年に年間3000万人を超え、国内の旅行消費額は過去最高となる4兆8135億円に上りましたが、コロナ禍となり一瞬で消失。

古い街並みに外国語が飛び交ったのは、今は昔。岐阜県も、2019年の166万人をピークに、2020年の春以降、観光地から外国人の姿が消えました。

高山の観光案内所の女性:
「平日も関係なく、この通りは凄い人出で、外国の方ばかり。どこの国に来たんだろうって感じでした」

高山市にある「飛騨高山観光案内所」では、以前は手に取りやすい場所に置かれていた外国人向けの観光ガイドも…。

同・女性:
「ここ(窓口のすぐ横)にありまして、すぐ手渡せるような状態でしたけど、今は渡すこともないので奥の方に」

外国人観光客によるかつての賑わいを取り戻すために、各方面でその動きは活発化しています。

■外国人に魅力あるコンテンツが揃うも…集客のためデジタル戦略に取り組む刃物の町「関市」

 この日、岐阜県の海外誘客推進課の職員が関市役所を訪れ、外国人観光客を呼び込むための作戦会議が開かれていました。

岐阜県海外誘客推進課の担当者:
「海外のウェブサイトになると、岐阜県なんてほとんど誰も知らない。例えば『ジャパン・ネイチャー』とか、『トラディショナル』とか入れた時に、検索上位に来ないと全く存在価値がない」

“刀鍛冶”や質のいい“刃物”など、外国人に受けが良いコンテンツは有るものの、高山市や下呂市に比べると知名度が低い関市の課題は、遅れているデジタル戦略の早期解決です。

県の海外誘客推進課では、インターネットの検索データを収集して分析。示されたのは、観光客が岐阜県内のどの場所からインターネットで関市を検索したかを示すデータ。

下呂市で検索された数が比較的多い一方、高山市からの検索はその5分の1ほどと少なかったのです。

同・担当者:
「高山からの流入が少ない。インバウンドのお客さんに日本の刃物は魅力的。今後は、高山に来た人をこちら(関市)に引っ張る施策を意識されるといい」

外国人が旅行で頼るのは、翻訳機能もあるグーグルのマップ。そこに場所や魅力がすぐにわかるよう観光施設を登録するほか、旅行に関するキーワードを入力した際に、関市の施設が上位に表示される施策などを指南しました。

同・担当者:
「コロナ後にはいろんな可能性がある。色んな施策の種をまいておくことで、選ばれる可能性が高くなる」

■グルテンフリーなど様々なメニューを用意…宿泊施設が進める外国人の受け入れ準備

 宿泊施設も動き出しています。高山市にある築100年以上の蔵を改装して作られた旅館「寿美吉(すみよし)」。

畳に囲炉裏、ヒノキ風呂など、日本の暮らし体験と“おもてなし”を売りに、かつては外国人宿泊者が8割以上を占めていました。

寿美吉の担当者:
「今までは町を歩けば外国の方とすれ違うのが普通だった…。毎年来ていた12本~13本のツアー団体が、3~5月のものがすべてキャンセルに…。コロナが終わって、本当に元に戻るか定かではないし、戻ってほしい」

旅館では、外国人に人気の飛騨牛に、天ぷらを使ったメニューのほか、アメリカやヨーロッパを中心に拡大しているグルテンフリーやベジタリアンなど、様々な人に対応したメニューの準備も始めています。

同・担当者:
「事前にお伺いして、天ぷらを素揚げにしたり。(外国人が)お戻りになれば、すぐに勘を取り戻してやっていけると思います」

 この日、アメリカの旅行雑誌「TRAVEL+LEISURE(トラベル・アンド・レジャー)」の2人は、郡上市が世界に誇る文化“食品サンプル”の製作体験ができる「さんぷる工房」を訪れていました。2人の記事は、8月号に掲載される予定です。

外国人観光客を取り戻すために始った様々な取り組み。再び観光地に、外国語が飛び交う日が近づいています。