2022年4月、およそ10年間にわたり日本体操界のトップを走り続けてきた寺本明日香さんが引退しました。選手としての第一線を退きましたが、これからは日の丸を背負う後輩たちを世界と戦える選手にしたいと、次なる目標に向け走り出しています。

■キャプテンとしてリオ五輪で団体4位入賞…長らく日本体操界を引っ張る

 日本体操界のトップに立ち続けてきた寺本明日香さん(26)は、4月に行われた全日本選手権を最後に現役を引退しました。

【画像で見る】「からあげクン美味しい…」引退で生活変わった寺本明日香さん 次の挑戦は“体操への恩返し”

 名古屋市西区にある、寺本さんが拠点としていた体操クラブ「レジックスポーツ」で今の心境を聞きました。

寺本さん:
「(引退して)時間が有り余りすぎて、「こんなんでいいのかな?」って思ったりするけど、20年も頑張ってきたし、1年くらいはいいかなって」

ストイックなアスリート生活から解放され、体にも少し変化があったようです。

寺本さん:
「(現役時代は)ゆで卵か納豆か、バナナしかとらなかったので。コンビニで何を選んでいいのかわからない。『からあげクン』がめっちゃおいしかった。シンプルに太った」

 1995年生まれの愛知県小牧市出身の寺本さんは、小学1年生のときに体操を始めました。家の近所で遊んでいた鉄棒がきっかけでした。

才能は瞬く間に開花。転機は、2012年に初めて出場したロンドン五輪で、ケガで欠場した選手の代役でしたが、完璧な演技を魅せ、一躍日本のトップ選手に仲間入りしました。

キャプテンとして出場した2016年のリオ五輪では、団体48年ぶりの4位入賞と、チームを引っ張りました。

■演技のすべてを受け止めてきた両足が限界に…大ケガで東京五輪出場を断念

 しかし、東京五輪の前に左足アキレス腱断裂の大ケガを負い、出場はかないませんでした。

寺本さん(2021年5月):
「みんなには『惜しかったね』とか『残念だったね』とか言われるけど、オリンピックでメダルを取れる(状態)かというと、そこまで戻っていない。10年間トップでいたからいろんな思いがあった」

引退のきっかけにもなったのは、度重なるケガ。右足には今も大きな古傷が残っています。

寺本さん:
「痛すぎてパンプスが履けなくて。アキレス腱切る前は、ここ(右足)が全部痛くて、かばってやっていたら、こっち(左足のアキレス腱)切って、もう終わりっていうか、限界だなって」

 身長142センチと体操選手の中でも、ひときわ小柄な体格。何百、何千、何万回と繰り返した演技のすべてを受け止めてきた両足が、限界を迎えていました。

寺本さん:
「“焦り”が一番苦しい。苦しいとかしんどいとかは乗り越えられるけど、焦りってオーバーワークになって、自分が気付いてないうちに心が壊れちゃうので、それが一番怖かった」

■後輩たちにつなぐ思い…女子体操界が迎える“世代交代”のとき

 2022年4月、後輩たちに引退の挨拶をするために、寺本さんはレジックスポーツを訪れました。これまでお世話になったコーチや後輩たちを前に、感謝の思いが溢れます。

寺本さん:
「20年近くやってきて、色んなこともあったし、坂本先生とも喧嘩したこともあったし、そこで泣きながら『辞めたい!』って叫んだこともあった」

寺本さん:
「レジックスポーツの仲間やコーチたちのおかげでここまで成績を残せた。感謝だけでは言い表せない。恥ずかしくて感謝の気持ちが言えないときもあったけど、改めて本当にありがとうございます」

 そして、寺本さんが現役を退いた今、女子体操界は“世代交代”のとき。

寺本さん:
「みんなはこれからの選手だし、これから成績を出していかないといけない。私が一緒に練習して、皆さんに刺激を受けてもらう仕事は東京オリンピックで終わり。みんなで強くなるのを頑張って欲しい」

 後輩の中には、寺本さんが引退した4月の全日本選手権で初優勝を果たした笠原有彩(かさはら・ありさ)選手(17)の姿もありました。

寺本さん:
「やっぱり将来はトップを引っ張っていかないといけない存在になると思うので、何か困ったことがあれば気軽に相談してください」

笠原選手:
「東京オリンピック終わって世代交代になって、自分の代が日本を引っ張っていかないといけない存在になると思うので、そこは明日香ちゃんを見習ってやっていきたい」

■「自分の軸を持った選手に」…次なる目標は世界で戦える選手の育成

 そんな寺本さんが後輩たちに望むことは…。

寺本さん:
「ちょっと辛口にはなるけど、(世界で戦える選手は)いないなと。単純に技術的にいうと、Dスコア(技の難度)が低いし、がめつさというかわがままじゃないけど、自分の軸を持った選手が何人かほしい」

世界と肩を並べて戦える選手は“いない”と断言。

寺本さん:
「例えばオリンピックに出たい。出るためにどういう練習を、生活をしたらいいか。細かいところまでしっかり計画して、これをするために、これをやらなきゃいけないとかまで考えないと、絶対たどり着かない」

 そして、将来は…。

寺本さん:
「長い目で10年後とか見据えたときに、日本代表のチームに関われる指導者に」

女子体操界を世界の頂点へ…。これからは、20年間お世話になった体操へ“恩返し”です。

寺本さん:
「私はどちらかというと悩んでいる、苦しんでいる選手に寄り添う方が得意なので、そういう手助けをしていきたい。日本代表で関わるってなると、緊張感も必要なので、その担当は、“村上茉愛”かもしれないですけど。ピシっと、ガツンみたいな」

2021年10月に引退し、これまで一緒に日の丸を背負ってきた村上茉愛(まい)さん(25)と、日本代表を支えることを夢見ています。

寺本さん:
「将来、私たちがやっていかなきゃいけない。指導とかアドバイスとか、私しかできないこともあるだろうし、きっとみんなが求めているものだと思うので」

世界と肩を並べて戦える選手を…。寺本さんの次なる挑戦が始まります。