7月10日投開票の参院選前に、6月にFNNが行った世論調査では、新型コロナ対策を「重視する」とした回答は12.2%だった。しかし、2021年10月の衆院選前は47.9%と最も高い「関心事」だった。様々な制限も緩和されているが、後遺症など「コロナの爪痕」に苦しみ続ける人もいる。第7波への警戒が叫ばれる中、「コロナのいま」を取材した。

■新型コロナで意識不明に陥った女性 今でも後遺症に苦しむも「誰にも理解されない」

 名古屋市に住む、太田さつきさん(42)。期日前投票で「初の一票」を投じようとしていた。

太田さつきさん:
「選挙ですか?人生で初めてですよ。ここまで行かなかったら一生行かない方がいいのかな、なんて」

彼女が投票に向かったワケ。その思いの背景には、壮絶な経験があった…。

【動画で見る】抜け毛等に悩む“後遺症”の女性も…参院選での関心低下『コロナの今』医師が覚える違和感

人工呼吸器に繋がれ、ベッドに横たわる女性。2021年8月、新型コロナの治療のために眠っている太田さんだ。重い肺炎を患い、意識不明のまま1か月もの間、入院生活を送っていた。

長いリハビリ生活の末、やっと戻れた日常…。しかし、苦しい日々はそれで終わりではなかった。

不定期に出る咳は止まらず、白髪は目立ち、抜け毛も多くなった。

太田さつきさん:「やっぱり抜け毛がひどいな。後遺症だよ、たぶん」

美容師:「けっこう抜けます?」

太田さつきさん:「めちゃ抜ける。気になるくらい、床に髪が落ちてる」

他にも、味覚障害、顔面麻痺、睡眠障害といった後遺症とみられる症状が続いている。

太田さつきさん:
「(コロナ感染前の人生は)楽しみだけだったのに、こんな不安まで抱えなくちゃいけないのかと…。後遺症と戦っている」

コロナが遺した「爪あと」。「誰にも理解されない」と、今も抱え込んで生きている。

■「第7波」への警戒感高まるも低下する「コロナ対策」への関心度

 新型コロナの新規感染者数は2022年2月にピークを迎え、愛知県でも減少傾向が続いていた。

こうした状況を受けてか、FNNの世論調査では、2021年10月の衆院選前には47.9%が「コロナ対策」を「重視する」と回答していたのに対し、2022年6月中旬の調査では12.2%にとどまるなど、関心が低くなっていることが窺える。しかし、新規感染者数は直近で再び増加傾向にあり、「第7波」への警戒感が高まっている。

■初めて投じた1票は「後遺症外来」の医療機関が増える期待込めて

太田さつきさん:
「ちゃんとできましたよ、ちゃんと。大事な一票」

 初めて投じた一票。太田さんはかつて、「後遺症外来」に通おうとしたものの、予約が一向に取れず諦めた経験がある。同じ苦しみを持つ人たちのためにも、後遺症外来の医療機関が増えることなどに期待して、票を投じた。

頭に浮かんだのは、治療に当たってくれた医師らへの思いだった。

太田さつきさん:
「そういう人(医療従事者)たちが頑張ってくれている。“目に見えない”ところで、私の(医療でも)、会ったことも見たこともない人たちが携わってくれているだろうし…」

■コロナが原因の生活困難者が増加 医療の最前線で生じている「新たな課題」

 その、見えない医療現場の「いま」は…。

中川区にある名古屋掖済会病院の救命救急センター。コロナのピーク時にはまさに「戦場」と化し、次々と運び込まれる患者に、スタッフが不眠不休の体制で対応に当たってきた。

名古屋掖済会病院の立松美和看護師長:
「今は3~4人くらいの陽性患者さんがコンスタントに入られている感じです。ほぼほぼ肺炎が重症で入院される方はいらっしゃらなくて…」

多い時には重症患者30人近くが入院していた病棟もいまは4人のみだが、コロナ病棟では新たな課題が起きていた。

立松美和看護師長:
「奥にいらっしゃる男性の患者さんなんですけど、(自宅では)なんとか杖をついてご自分のことはされていたんですけど、自分で動けなくなってしまって入院された」

数日前に入院したばかりの80代の男性。コロナ自体は軽症で自宅療養を続けていたが、筋力が低下し、日常生活がままならなくなったという。

立松美和看護師長:
「コロナが原因で入院されている方はほとんどいなくて、それ(コロナ感染)に伴った、何らかの日常生活だったり家での生活が困難になって、そういう状況で入院される方が多いのかなと思っています」

いま増えているという、こうした事例。背景にあるのが「コロナの入院基準」だ。医療体制を確保するため、掖済会病院のある愛知県では、2022年2月に入院の基準を「原則、中等症以上」に引き上げ。

高齢者も軽症の場合は自宅での安静療養となるが、筋力が低下してほぼ寝たきりになり、結果的に入院となるケースがあるという。

こうした患者のリハビリも困難を極める。感染対策で理学療法士の接触機会は減少。隔離された狭い病室では、できる動作も限られる。掖済会病院ではイラスト付きの手順書を配り、患者1人でもリハビリを進められるよう、日常生活の復帰に向けたサポートをしている。

立松美和看護師長:
「限界まで我慢して救急搬送されてくるところをみると、感染初期からきちんと入院して、しかるべき治療やリハビリを受けていただいたほうが、早く本人の望む形で自宅に帰れたんだろうなって…。ジレンマを感じますね」

「軽症」であっても残るコロナの「爪痕」。コロナを巡る課題は常に存在しています。

■離れる関心への違和感 最前線で働く医師「落ち着いた状況だからこそしっかり話を」

 7月5日に、5月末以来の3万人超えとなった全国の新規感染者。「第7波」が現実味をおびる中、7月10日に参院選の投開票を迎える。

コロナ治療の最前線で働く医師らは、世間の関心がコロナから離れていることに違和感を覚えている。

名古屋掖済会病院・救急救命センターの北川喜己センター長:
「コロナは終わったんじゃないかとか、もうこのまま収まっていくんじゃないかという風に、結構皆さん思ってみえる。もちろん経済対策も大事だし、国際問題も大事だし、僕らもそれはよく分かっているので…。ただ、コロナのことがあまりにも話し合われないなと」

医療現場が訴えるのは、いま議論を深めることの必要性…。

北川喜己センター長:
「今、議論が尻すぼみになってしまうというのは悲しいことですね。ある意味、落ち着いた状況だからこそ、コロナのことをしっかり話しておいてもらわないと、また同じことの繰り返しだよ、ということに絶対なりますので、ぜひお願いしたい」