3年ぶりに愛知で開幕した国際芸術祭では、名古屋や一宮など県内4か所に世界的な作品が展示されている。コロナや戦争で世界に不安が広がる中、心を揺さぶるアートの力に迫った。

■テーマは「STILL ALIVE」 今を生き抜くアートの力

 巨大なオブジェや、摩訶不思議な空間。見て、触って、感じて…それが現代アートだ。32の国と地域から100組のアーティストが愛知に集まり、国際芸術祭「あいち2022」が7月30日から開催されている。

【動画で見る】不安な今を生き抜く『アートの力』国際芸術祭あいち2022

今回のテーマは「STILL ALIVE」。今を生き抜く、アートの力。

芸術監督を務める片岡真実(かたおか・まみ)さん。

芸術監督の片岡真実さん:
「私自身が、こうした時代にどうやって今を生き抜くことができるのか、そのためにアートがどういうような力をもたらしてくれるのかを見たかったんだなぁということを…。ものすごくパワーを、それぞれの作品からもらえているということに気が付きました」

■世界的アーティストたちが表現する「空間」「時間」「核」「伝統工芸」

 メイン会場、名古屋市東区の愛知芸術文化センターに展示されているブラジルのアーティスト、アンドレ・コマツの作品「失語症」。ビニールシートで包まれた空間が、不穏で不透明な世界を暗示している。

コロナ禍で孤独を感じた人たちが撮った月の写真を一般の人から集めた作品は、引きこもり経験があるアーティスト、渡辺篤さんの「同じ月を見た日」。

 名古屋市緑区の有松地区には、旧東海道沿いの歴史的な建造物を使って様々な展示がされている。

AKI INOMATA(アキ・イノマタ)さんは、ニューヨーク近代美術館で作品が展示されたこともある、今、旬のアーティスト。今回展示されている作品「彼女に布をわたしてみる」は、伝統工芸とアートを融合させた作品で、「ミノムシ」が有松絞の蓑を着ている。

AKI INOMATAさん:
「なんか虫みたいだなっていうのと、これが生きているみたいにも見えたりしたので。有松絞りで作った布をミノムシに渡して、ミノムシに蓑を作ってもらうという作品です。有松鳴海絞を見せてもらった時に、職人さんが糸で布をくくったところがミノムシみたいだなと思って、そこでミノムシの作品にしようと思ったんです。偶然の要素も多くて、そういう意味ではミノムシとか自然物と通じるところもあるという気がしたんです」

オーストラリアのアーティスト、イワニ・スケースさんの作品「オーフォード・ネス」。

有松絞の工房に、涙のような青いガラスが吊るされている。作品のテーマは「核実験」。核実験の犠牲になった人たちの悲しみや苦しみを表現している。

イワニ・スケースさん(日本語訳):
「形は『ヤムイモ』というオーストラリアの食品で、『ヤムイモ』というのは亡くなった人の体や精神などを表現している。この作品では、彼ら(被害者)を表現する重要なものです」

 一宮市の会場は、閉校した看護学校だ。世界で活躍するアーティスト11組の作品が展示されている。

夕暮れ時に、一宮の名物「モーニング」を食べているカップルの映像は、石黒健一さんの「夕暮れのモーニング、二つの時のためのモニュメント」。

傍らには、かつて街のシンボルだった大木の切り株が3Dプリンターで表現されている。

まるで、時の流れを忘れたかのようだ。

石黒健一さん:
「時間的な概念を拡張しているというか、『失われてしまったもの』について考えている」

■アートの力で“想像力”を取り戻してほしい コロナ禍に作り上げられた国際芸術祭

 3年前の芸術祭で起きた「表現の不自由展」をめぐる問題を経て、今回、「トリエンナーレ」の名称が「あいち2022」に変わった。

記者会見では、3年前の問題についても質問があったが…。

質問者:
「3年前の問いや、課題、反省と言い換えてもいいかもしれませんが、踏まえたポイントというのは、どのように生かされているのか」

片岡さん:
「この3年間、何度も同じような質問を受けてきましたけれども、いい加減にやめてもらいたいと思っております。実際、この3年間なにが大変だったかと言えば、前回のこととは全く関係なく、コロナです。その中でどういうふうに国際芸術祭を作れるのかということを、様々な人たちの協力を得ながら実現して来ましたので、その成果を見ていただきたいと思っております」

芸術監督の片岡真実さんは、愛知県出身。普段は東京・六本木の森美術館の館長を務めている。片岡さんは、アートの力で、コロナ禍で鈍った“想像力”を取り戻してほしいと語る。

片岡さん:
「『あいち2022』もそうですけど、コロナの間なかなか実際の展覧会を見ることができなくて…。このスケール感とか、この香りとか、五感をもう一度喚起して、体全体で感じることをやっていただくと…」

■世界中が注目する奈良美智さん「それぞれが自分の心揺さぶって」

 一宮市の会場、本町商店街の銀行の跡地には、日本を代表するアーティスト、奈良美智(なら・よしとも)さんの作品が展示されている。奈良さんは愛知県立芸術大学で学んだ後、ドイツへ。今、世界中が注目するアーティストだ。

奈良さん:
「これは2年前かな。東日本大震災以降にいろいろ考えることがあって、やっと自分を取り戻したのが、2020年くらいで、その時の記念的な作品です」

戦争や原発など、様々な社会問題と向き合いながら表現を続けてきた奈良さん。ロシアによるウクライナの侵攻も、避けられないテーマだった。

奈良さん:
「これは今年描いたやつで、ちょうどロシアとウクライナの紛争が始まった頃に描いたやつですね。WPというのはワールドピースという、世界平和の略なんだけど…」

奈良さん:
「ここにも一個あるんです。ワールドピースと描いたんですね。見る人のその時の気持ちで見えるものが違うだろうし、自分は後から見てわかるんですよ。『あーこの丸い顔ってもしかしたら地球かな』とか、髪の毛みたいに覆っている雲みたいなものが、そういうプレッシャー、戦争やなんか色んなことのプレッシャーなのかなぁ、とか」

今回のテーマに合わせて、こんな作品も…。

奈良さん:
「近くに行くと涙みたいに水が滴ってて…。そうですね、『泣いている』っていうイメージですね」

タイトルは「fountain of life」=命の泉です。

奈良さん:
「涙が出るのは生きている証拠だし、それが悲しい涙なのか嬉しい涙なのか、何かわからず感動して出るときもあるし、それも人それぞれで受け取ってくれればいいと思うんですけど。自分はとにかく静かな中で、この音が聞こえる、ピチャピチャって。それでそれぞれが自分の心を揺さぶってくれたらいいなと思うけどね」

 想像力を働かせて、心を揺さぶれ。「STILL ALIVE」。不安な時代を生き抜く、アートの力とは…。

片岡さん:
「あらゆる人たちに見てもらいたいと思っているので、アートが好きな人も初めての人も、若い人たちにも見てもらいたいですけどね。いろんな体験や知識も必要なんですけど、想像力も鍛えられるものなのかなと思っていますので、自分の価値観だけに頼るのではなくて、自分以外の人たちがどう考えているのかということを想像していくこと(が必要)」

国際芸術祭「あいち2022」は名古屋市東区の「愛知芸術文化センター」、緑区の有松地区、一宮市、常滑市の会場で10月10日まで開かれている。