モーニング発祥の地として知られる愛知県一宮市に、「和モーニング」の専門店ができた。若き料理人が、地元の食材にこだわって作る朝食は、まるで旅館のような贅沢さで人気を呼んでいる。

■モーニング発祥の地に誕生した「和朝食専門店」…26歳若き店主は異色の経歴

 “モーニング発祥の地”として、趣向を凝らした様々なメニューがひしめく愛知県一宮市に、異彩を放つモーニングの店が登場した。2022年6月にオープンした朝食の専門店、「朝食 弁(べん)」だ。

【動画で見る】1980円と“強気”でも賑わうワケとは…和朝食専門店「客も生産者もハッピーに」

メニューはナスの煮びたしに、焼き魚、そしてご飯に味噌汁と、まるで旅館に来たかのような朝ごはん。

男性客:
「ご飯がおいしくて、3杯もいただいちゃいました」

女性客:
「普通の喫茶店のモーニングよりもいいよね」

 客が絶賛する朝食を作るのは、26歳の若き店主・長尾和真(ながお・かずま)さんだ。

 長尾さんの経歴は、料理人としては少し異色だ。

店主の長尾和真さん:
「もともと、学生の時にベトナムのハノイというところで、日系の飲食店を経営されている企業にインターンしていたのがきっかけで飲食業界に入ったんですけど…」

インターン先の日系企業で和食の魅力にひかれ、独学で料理を学んだという。

しかし、コロナで帰国せざる得なくなり、2年前に地元一宮でカフェを開いたところ、これが大人気に。今回、2号店となる和朝食の専門店をオープンさせた。

しかし、なぜ和朝食を選んだのか?

長尾さん:
「つい最近まではコロナで、旅行とかもなかなか行けなかったと思うんですけれども、旅館とか民宿で食べるような贅沢な朝ごはんを、ゆっくり時間をかけて召し上がってもらう、和朝食をやっています」

■店は1日4回の完全予約制…1980円のメニュー1択でも賑わうワケ

 宿に泊まっているような落ち着いた雰囲気を味わってもらいたいと、お店はカウンター7席のみ。

1日4回の完全予約制で、メニューも和朝食1種類「弁の和朝食」(向付、小鉢、焼き魚、豚汁、ご飯、漬物1980円)だけだ。

“強気”の価格設定にもかかわらず、連日客でにぎわうのには理由があった。

長尾さん:
「一宮を中心とした、地元の食材を使うようにしています」

地元食材への強いこだわりだ。煮びたしのナスは一宮で栽培されたもの。

焼き魚は南知多産のイワシの丸干しを使っている。焼いても身がふっくらとしていて、脂もたっぷりだ。

豚汁には、岡崎の八丁味噌を使い、具も一宮産の野菜に、豊橋産のお米を食べて育ったブランド豚、三河米豚(みかわこめぶた)と愛知の食材づくし。

コク旨の八丁味噌と甘みのある豚肉がよくマッチして、ご飯がすすむ。米は愛知県大口町、服部農園の「ひのひかり」。

西の横綱と呼ばれるほど、甘い香りとほどよい弾力が特徴の米だ。

■食材は生産者をまわり直接買い付け…豆腐は創業約100年の「紫蘇豆腐」

 食材は、全て長尾さんが1軒ずつ生産者をまわり、直接買い付けている。この日、仕入れに向かったのは、一宮市内で大正13年(1924年)から続く老舗の豆腐店「ノリタケトーフ工房」。今では数少ない、国産大豆と天然にがりから豆腐を手作りしている店だ。

長尾さんの目当ては紫蘇豆腐。豆腐に練り込まれた紫蘇が、食べるときに香りごと楽しめると、地元で長年愛されてきた商品だ。

長尾さん:
「(紫蘇豆腐をつかうのは)すごくおいしいというのは当たり前ですけど、それを知ってもらいたいと」

ノリタケトーフ工房の店主:
「自分が作ったものを食べていただいて、おいしいから来るっていうのが、それが一番うれしかったですね」

食材の仕入れが終わったところで店に戻り、午前8時開店。

客がやってくると、和朝食の準備が始まる。長尾さんは、作り置きは極力しない主義だ。

この日の1組目、岩倉市から来たという女性3人は…。

女性客:
「普通の喫茶店のモーニングよりも、やっぱりこういう風に目の前で作ってもらって、泊りに行った旅館の朝食みたいな感じじゃないですか。ちょっと落ち着いていいかなと思って」

最初の料理は、先ほど仕入れてきた「紫蘇豆腐」。一緒に買った木綿豆腐とあわせて提供する。寝起きの体に優しい、豆腐の向付(むこうづけ)。木綿豆腐はオリーブオイルでさっぱりとしている。

紫蘇豆腐に乗っている黒いモノは、大豆を粒のまま発酵させた味噌、豊橋産の「浜納豆(はまなっとう)」だ。味は味噌に似ているが、味噌よりもコクが深い発酵食品で、徳川家康も好んで食べたという。

そんな浜納豆を紫蘇豆腐にのせて食べると、紫蘇の香りが口の中で広がり、浜納豆が豆腐のコクを引き出してくれる。

女性客:
「お豆腐がめちゃくちゃ好きってわけじゃないけど、おいしい、本当に」

■一番人気は「土鍋ご飯」…客も生産者もハッピーになる仕組みをモーニングに

 続いて、ご飯の準備にとりかかる長尾さん。お米は大口町のブランド米「ひのひかり」を土鍋で炊く。実は、このご飯が和朝食のメニューの中で1番人気だ。これを目当てにくるお客さんも多いという。

長尾さん:
「やっぱりおいしく炊けるというのと、目の前でプクプクなっているというのが、お客さん見ていて楽しいかなと思って土鍋を採用しています。この土鍋自体も滋賀県の作家さんにお願いして作ってもらった土鍋なんですけど、結構こだわっているポイントではあります」

そんなこだわりの土鍋で炊いたご飯が炊きあがると、長尾さんは炊きあがりを蒸らさず、すぐにお茶碗に一口分だけ入れる。

長尾さん:
「“煮えばな”でお出ししているんですけれども…蒸らす前のご飯。米の周りにまだ水分が多くて中はアルデンテな感じなんですけど、ご飯の香りが1番いい状態なので、香りを楽しむのと蒸らした後の食感の違いを楽しんでもらうために出しています」

炊きあがりを味わってもらいたいというのも、予約制にした理由のひとつだという。

そして、蒸らし終わった土鍋のご飯は…つやつやでふっくらしていて、一粒一粒が立っている。

女性客:
「ぜんぜん家(で炊いたもの)とはつやも違うし、甘みもあったしおいしかったです」

貸し切りのような空間でゆっくりと楽しむ、こだわりの和朝食。

値段は少し高めだが、客の満足度は高い。

女性客:
「結構、お高いなという感じはしたけど、こうやって食べたらこんな朝食は食べられないから、すごく満足で幸せ」

長尾さん:
「地域が盛り上がっていけばいいなと思って。『これどこの食材?』って言われた時に『どこどこ産の食材です』とお伝えすると、すぐに買いにいってくださる方もいるので、そういうお客さんもハッピーだし、生産者もハッピーといった仕組みをモーニングにより落とし込んでいく必要があるかなと思っています」

1人で切り盛りしているため、予約は公式インスタグラムからのみで受け付けている。