2022年5月、知事が「ムカデが出る」と発言し、議論が始まった三重県の知事公舎。47都道府県を調べてみると、いろいろな公舎のあり方がみえてきた。

■知事公舎に「ムカデが出た」継続利用か廃止かで議論が始まった三重県

 三重県津市の中心部。自動で開く扉の先の立派な建物が、知事の生活する「公舎」だ。

【画像で見る】「ムカデが出るから引っ越したい」で物議も…全国的に廃止へ向かう“知事公舎”

その公舎の主で、三重県の一見勝之知事の発した一言が、大きな注目を集めた。

一見勝之知事(定例会見・5月10日):
「(公舎に)ムカデが出まして。家の中に出たんで、ちょっと大変かなって…」

Q.かねてから引っ越そうかなとは思っていたけれど、ムカデが決め手になった?

一見知事:
「そうですね。ほぼほぼ引っ越したいなという方向に傾いている」

「ムカデが出るから引っ越したい」。そんな発言をきっかけに、県は知事公舎の存続を考える専門家会議を立ち上げた。

(リポート)
「知事公舎の中に入ってみますと、赤い屋根が印象的ですが、黒ずんでいて手入れが行き届いていない印象を受けます」

敷地面積は約1万9000平方メートル。1978年に建てられてから44年が経った公舎は傷みが目立つ。

樹木の手入れなどに、年間約680万円もの税金がかかっている。

専門家会議では、知事公舎の「継続利用」「建て替え」「廃止」などのケースを想定して、議論が進められている。

 三重県民は…。

女性:
「気の毒だなとは思います。不安な中でお仕事されるよりかは、ちゃんと改善した中で」

男性:
「三重県たるものがね、知事がそんなムカデが出るようなところに住まわせておいてね、いいのかどうかね」

別の女性:
「(維持費の)600万あれば、ムカデが出ないところに住み替えできますよね」

いまの状態には問題がある、という意見がほとんどだ。

■ほぼ半数の23都府県が「なし」…全国的に廃止の方向に向かう知事公舎

 全国の都道府県を調べてみると、老朽化した知事の住まいが問題になっているのは三重県だけではなかった。現在、ほぼ半数の23都府県が「知事公舎」を保有していないことがわかった。

吉村洋文大阪府知事:
「安全性を確保する。(知事公舎は)撤去の方向性です」

大阪府の吉村知事が「撤去」と話したのは、築99年の「大阪府公館」。横山ノック氏ら、歴代知事が入居したが、橋下徹元知事以降は誰も住まなくなり、耐震基準を満たしていないことなどから解体される方針だ。

杉本達治福井県知事:
「知事公舎は入るのはやめておこうと」

福井県でも、2019年に当選した杉本知事が公舎に入居しないと宣言。その後取り壊されて、住宅用の土地として分譲された。


■文学館や研究施設として転用 「過去の遺産」を「未来への投資」へ変えた県も

 使われなくなった知事公舎はどうなっているのか。残して活用している県もある。

 1891年(明治24年)に建てられた佐賀県の旧知事公舎。庭園が見える和室に、当時としては珍しい欧米の文化を取り入れた洋室。昭和天皇も宿泊したという貴重な建物だ。

佐賀県総務部資産活用課の課長:
「123年に渡って歴代の知事が住まわれたところでもございますし、県にとっても特筆するところがございまして、みなさんに見ていただいたり使ったりしていただこうと」

8年前の2014年に公舎としての役割を終えたが、お茶会用に貸し出すほか、紅葉の季節などに庭園を一般公開している。

 また富山県の知事公舎は、地元ゆかりの作品を紹介する「文学館」に転用。庭園を眺めるレストランなども整備され、人気スポットになっている。

 三重県でも公舎が都心の「憩いの場」に生まれ変われば魅力的だが、知事公舎は築44年、歴史的価値があるとは言いづらい。

「そのまま」を生かす点もあまり見当たらない。

 しかし山梨県では、旧知事公舎が大学の研究や産学連携の拠点として使われていた。

山梨大学の稲垣有弥(いながき・ゆうや)特任助教:
「ここはですね、山梨大学の水素燃料電池を研究、それから産学連携の拠点として使わせていただいている所になっております」

山梨県は使われていなかった旧知事公舎を2008年に廃止し、山梨大学に無償で貸し出している。

実際に中を見せてもらうと、赤じゅうたんの会議室や…。

知事が汗を流したであろう風呂場はそのまま残っているが…。

居室や倉庫などは改修され、今は研究室になっていた。

岡嘉弘(おか・よしひろ)客員教授:
「(建物を)お風呂場以外は100%使っている。いいですよ、野鳥のさえずりもするし」

稲垣特任助教:
「集中できて良い環境で、ありがたいですよね」

岡客員教授:
「非常にいい活用の仕方だと思います」

 ただ、悩みもあった。

岡客員教授:
「やっぱり白アリがすごい。去年(2021年)、白アリが大発生して駆除したんだけど、その面は老朽化していますよ。でもそこは工夫しながら使っている感じで」

「ムカデ」ならぬシロアリの被害はあるものの、甲府駅から約1キロの好立地。自然に囲まれ、研究に集中できる環境をうまく生かしているようだ。

山梨県総務部資産活用課の担当者:
「厳しい財政状況で、新たな財源を確保していかなきゃならないということで売却を想定していたんですよね。その後、山梨大学の方で燃料電池の大規模プロジェクトが始まるということで、県としても支援していく、その支援策の一環として無償で貸与するという形になったものです」

「過去の遺産」を「未来への投資」に変えた山梨県。三重県でもこんな転用ができないのか。

■住居以外への転用は難しい三重県の知事公舎 建て替えで防災力強化という考えも

 三重県は「専門家会議の最中で意見を言いにくい」として、電話でのみ取材に応じた。

三重県総務部管財課の課長:
「事実として、現在の知事公舎の敷地はですね、第一種低層住居専用地域という都市計画上の位置づけがされておりまして、平たく言うと住居として活用する以外の使い道がなかなかない」

建物の高さ規制や、景観維持の縛りなども厳しいエリアで、残念ながら住宅以外の使い方は難しいという。

 ただ、2022年10月の専門家会議ではこんな評価もあった。

防災の専門家:
「津市の中では、津波も来ない、大河川はない、盛り土がないという意味では抜群の場所で一等地であると。防災上も極めていい場所」

県庁の南西約400メートルの、高台に建つ知事公舎。

近くには2つの大きな川もあるが、災害の際もそこを渡らずに県庁へ駆け付けられ、防災面では有利といえそうだ。

 こうした「危機管理」の観点から、知事公舎を建て替えた県もある。3年前に建てられた大分県の知事公舎は、地元の杉や竹細工、畳を使い、今にも住みたくなる建物に生まれ変わった。

大分県総務部県有財産経営室の担当者:
「建て替えに至った経緯は熊本地震。検証を踏まえて今回、公舎を建て替えた」

2016年の熊本地震で大分県でも大きな被害が出た中、老朽化した当時の知事公舎について議論がされ、「災害対応のため県庁近くに公舎を建てるべき」という結論に。

1階を鉄筋コンクリート、2階を木造で軽量化し、災害に強いつくりにもなった。

Q.三重県が考えるべき点は

大分県総務部県有財産経営室の担当者:
「知事公舎は県によっても考え方は違うのでなんとも言いようはないところではありますけど、どういった機能が必要でどういうことを求めるのか、そしてそれが県民にも理解をしていただけるものになるべきかなという風に思います」

 保存・活用に、建て替えで防災力強化。三重県では年内をめどに方向性が示されることになっている。

2022年11月7日放送

【2022年12月22日追加取材】
 11月の専門家会議では「知事が職務を全うする上で快適な公舎ではない」として、民間マンションの借り上げを選択肢とする意見で一致しました。

現公舎の活用策については、立地面の希少性などから、時間をかけて検討するべきとしました。

専門家会議は年内に意見書を提出し、県が23年1月中に知事へ提案する方針です。