愛知県春日井市の鮮魚店「魚辰(うおたつ)」は、オシャレな店構えと昔ながらの対面販売で人気になっている。店主の男性が重い病を患い、一時は廃業を覚悟したものの、妻の支えで店を続けてきた。客を喜ばせたいと奔走する鮮魚店を取材した。

■見慣れない魚も並ぶ…外観はオシャレ 中に入ると人情鮮魚店

 愛知県春日井市にある、白い壁のシャレた雰囲気の店。外観はまるでカフェのようだ。

【動画で見る】夫の闘病中は妻が店守る…人気の鮮魚店 客に愛される2代目夫婦の“恩返し”

しかし、店内には並ぶのは新鮮な海の幸。

ここは鮮魚店の「魚辰(うおたつ)」。

女性客:
「好きです!もう、ココばっか!魚はここ!」

別の女性客:
「ちゃんとおいしくやっていただけるから、安心しておいしく食べられる」

また別の女性客:
「ここのお魚だからお魚の味がする」

客からの信頼も厚い。

店内を見てみると、カマスやイワシなどの定番に加え、「メイチダイ」や…。

「ウスバハギ」といった、見慣れない魚もある。

店主は鈴木秀幸(すずき・ひでゆき 49)さん。

店主の鈴木秀幸さん:
「(ウスバハギは)カワハギの大きいのみたいなやつですね。煮つけ用で、煮つけで食べてもらおうかなと。普通、スーパーとかだと定番のものになってしまうので、じゃなくて、その時にいいものでいい状態の魚を提供していきたいなと思うので」

妻の由美子(ゆみこ)さんと夫婦で店を切り盛りしている。

2人は、客の要望を聞きながら売る、昔ながらの対面販売を大切にしている。

妻の由美子さん:
「塩焼きだったらカマスがいいのと…あと開いて食べたり、蒲焼とか天ぷらだったらイワシがいいです。愛知のイワシはいま脂があるので」

オススメの魚や食べ方を聞けるのも、対面販売ならではだ。

この店では客の要望を聞くために、魚はそのままの“まる”の状態で販売していて、調理にあった形で捌いてくれる。

この日は、常連のプロの料理人も訪れた。

由美子さん:
「サワラもタチウオもある?」

秀幸さん:
「いや、タチウオはない!」

由美子さん:
「大将ごめん。タチウオはないって」

常連客:
「サワラを半身だけちょうだい」

秀幸さん:
「了解!」

この男性客は、サワラを半身で欲しいと注文した。

秀幸さん:
「(サワラを捌きながら)あ~、いいすね、最高!文句なしです」

常連の男性客:
「わ~おいしそう」

秀幸さん:
「半分ぐらい切っておきます?まんまでいい?」

常連の男性客:
「もうまんまで」

秀幸さん:
「『どう元気?』とか言って、そういう感じでね、人間味があっていいなと思うし。魚屋さんは今これだけね、少なくなっちゃった時代なので」

■父から受け継ぎ“順風満帆”が突然の重い病に 夫の闘病中に店を守った妻

 この場所に魚辰を構えたのは、秀幸さんの父・芳則(よしのり)さん。

秀幸さんは18歳で店に入った。

秀幸さん:
「親父とはケンカばっかり、毎日ケンカ。僕はきちっとやりたいタイプで、親父は昔ながらの感じなんです。悪く言えば雑なんですけど、昭和の魚屋さんだったので、意見が合わなくて。でも、親父にはいろんなことを教えてもらったので、感謝はしていますね」

由美子さんとは、29歳で結婚。

2代目として魚辰を継ぎ、以来、夫婦二人三脚で順調に経営してきた。

しかし2019年、秀幸さんに思いがけない事態が起きた。

秀幸さん:
「脊髄腫瘍という病気で、車椅子生活だったんですけど、もう魚屋さん無理だなぁと思って。一旦ちょっとね、終わったなと思ったんですけど、人生が…」

腫瘍で両足の筋力が低下する重い病を患い、一時は歩くこともできず、長期の入院生活を余儀なくされることになった。

秀幸さんの闘病中、1人で店を守ったのが、妻の由美子さんだった。

由美子さん:
「完全に休んじゃうとお店おわっちゃうし、(秀幸さんが)かなり弱音を吐いていたので、『そんなの絶対に許さない!』、逆に『絶対にやってやる!』みたいな感じでしたね。まず市場に行ってなかったので、主人が入院すると決まった時に初めて行ってイロハを教えてもらった」

秀幸さん:
「嫁さんが店を守ってくれたので、もうめちゃくちゃ感謝しています」

由美子さんの支えもあり、秀幸さんはリハビリを続け、病気を乗り越えて、2年前の2020年に店に戻ってきた。家族はもちろん、客への感謝もあり、2022年9月には店をリニューアル。

秀幸さん:
「僕が病気している時も(お客さんは)待ってくれてたので、本当にありがたくて、恩返しじゃないですけど、お客さんもいっぱい気軽に入ってこれるような、明るい感じで中も見てもらえるような…。おいしい魚を少しでも食べてもらって、できるだけお客さんに喜んでもらえるようなことをやっていきたいなと思うんですけどね」

■「旬のものを食べてもらいたい」午前4時に市場で魚を選ぶ店主

 午前4時の名古屋市熱田区の名古屋中央卸市場。

少しでもいい魚、見た事のない魚を揃えて、客に喜んでもらいたい。まだ足は完全ではないが、秀幸さんは早朝から名古屋の魚市場に出かけ、歩き回っている。

秀幸さん:
「お客さんにできるだけね、旬のものを食べてもらいたいというのがありますので。脂がないとか痩せているとか(は避けて)、選んでいいなと思うやつが欲しい」

この日仕入れたのは脂のりの良いサワラに…。

スーパーではあまり見かけないイシガキダイなど、この道30年の確かな目利きで選んだ旬の魚ばかりだ。

秀幸さんのこだわりの魚と、明るく入りやすい店にひかれ、常連客はもちろん、最近では若い客の姿も増えている。

女性客:
「先日、前を通ったら、すごくかわいらしい店構えになっていたので、ちょっと一回来てみようと思って。新鮮でおいしいのかなという期待値もあったりとか」

別の女性客:
「『名古屋 魚屋』とかで検索して。あんまりスーパーとかではない魚が置いていたりするので、すごくおいしいと思って」

■「他のお刺身食べられなくなる」見事な包丁さばきと丁寧な盛り付けの美しい“刺し盛り”が話題に

 魚辰は、SNSでもちょっとした話題になっている。

女性客:
「色とりどりに、いろんなお魚をバリエーション多くお刺身にしていただけるので、すごい」

客が絶賛するのが、秀幸さんの見事な包丁さばきと、丁寧な盛り付けで作る見た目にも美しい刺し盛りだ。

秀幸さん:
「見ておいしい、食べておいしいは大事だなと思って。僕はどっちかと言うと修業に行ったとかではなくて、働き始めたころ、配達で飲食店さん回って職人さんの仕事を見て覚えさせてもらった」

配達先の料理人の包丁さばきを見て覚え、美しい刺身ができようになったという。

この刺し盛りを求めてやってくる客も多いという。

刺身は、好きな魚を選んで注文できる。

女性客:
「今日、カツオは?」

秀幸さん:
「カツオありますよ!ただね、鹿児島のちっちゃいのしかない、今日は」

女性客:
「でもちょこっと」

秀幸さん:
「いいですよ!1人前でいいかな?」

女性客:
「うん」

秀幸さん:
「はい、わかりました!」

注文を受けてから刺身を作り始めるのが、秀幸さんのこだわりだ。

秀幸さん:
「やっぱり刺身って、切って置いておくと確実に悪くなるので、切りたてと朝切ったやつでは全然違うので。うちは作り置きはあんまりしない。大変ですけど、食べて美味しいと思ってもらえないと意味がないので」

秀幸さん:
「(お客さんに)ごめんなさいね、お待たせしました!」

女性客:
「いつもここのカツオおいしいです。主人がお魚大好きで。ここのお魚だからお魚の味がすると」

『いろいろ食べたい』という人には、“おまかせ盛り”がおすすめだ。

秀幸さんが選んだ旬の魚が11種類入り、3人前で値段は2500円。

女性客:
「ボリュームいっぱいでおいしそうです。お友達が『他のお刺身食べられなくなりますよ』と言っていたので」

別の女性客:
「誕生日なので、夫の。お刺身の盛り合わせです。すごくおいしかったし、お祝い事にはちょうどいい」

病気を夫婦で乗り越え、昔ながらの対面販売で今日も店を続ける、魚辰の夫婦・秀幸さんと由美子さん。これからも、もっと客を喜ばせて “恩返し”をして行くつもりだ。

秀幸さん:
「これだけ元気にやっている魚屋さんもあるよってことで、うちももっともっと進化していけたらいいなと思うんですけど。(夫婦)仲良く末永くがんばって、みんなに喜んでもらえるものを作りたいなと思っています」

2022年10月31日放送