名古屋市営地下鉄では、1月4日から4つの駅で名称が変更になりました。熱田神宮には北西に「熱田神宮西駅」、南東に「熱田神宮伝馬町駅」が誕生しましたが、「どちらの駅を利用すればいいか迷う」という声も聞かれました。

 2つの熱田神宮駅の違いや、「伝馬町駅」から「熱田神宮伝馬町駅」に名称変更するまでの地元での議論について取材しました。

■“2つの熱田神宮駅”の長所は?アクセスの良さや周辺の店に違い

 初めに「熱田神宮西駅」と「熱田神宮伝馬町駅」、2つの熱田神宮駅のそれぞれの良さについて調べました。2つの熱田神宮駅を利用する人たちに話を聞くと…。

熱田神宮西駅の利用者:
「ここ(熱田神宮西駅)は上がったらすぐ西門に近いでしょ。あっちの方(熱田神宮伝馬町駅)はちょっと遠いから」

「熱田神宮西駅」の方が、熱田神宮へのアクセスに便利だといいます。実際に駅から本宮までの距離を測ってみました。

まず「熱田神宮伝馬町駅」は、最寄りの1番出口から1号線沿いに西へ向かい、途中で右折してまっすぐ行くと到着です。距離は758mでした。

【動画で見る】「熱田神宮」の名前入る駅なぜ2つに…名古屋の熱田神宮伝馬町駅 名称変更までの“地元の熱いぶつかり合い”

もうひとつの「熱田神宮西駅」は、最寄りの2番出口から22号線沿いに南へ向かい、西門から入って進んで行くと到着です。距離は618mで、140mの差がありました。

金額の面でも違いがあります。料金表を見ると、「熱田神宮伝馬町駅」から「名古屋駅」までは270円ですが、「熱田神宮西駅」から「名古屋駅」までは240円です。名古屋駅方面から向かう場合は、1駅違うだけですが「熱田神宮西駅」が便利といえそうです。

 もうひとつの「熱田神宮伝馬町駅」の魅力はなにか、周辺で話を聞きました。

熱田神宮伝馬町駅の利用者:
「こっち(熱田神宮伝馬町駅)で降りるんだったら、あつた蓬莱軒」

「熱田神宮伝馬町駅」周辺には、ひつまぶしの名店「蓬莱軒」をはじめ、飲食店が多く立ち並んでいます。

「熱田神宮西駅」の周辺には、飲食店は確認できません。

なぜ、「熱田神宮伝馬町駅」周辺に飲食店が多いのか。熱田神宮によると、この辺りは東海道五十三次の『宮宿(みやしゅく)』として栄え、その名残で飲食店が多いということでした。

また、熱田神宮の南門、いわゆる正門が近いのも、「熱田神宮伝馬町駅」の魅力だという声もありました。

ただ熱田神宮には東・西・南にそれぞれ門がありますが、参拝はどこからでもよいということです。

■商売チャンスか地名への愛着か…正反対の意見を解決させたもの

「熱田神宮伝馬町駅」は、今回名称変更した4つの駅の中で唯一、住人からの要望で名前が決まりました。決定に至るまでには、地元での熱い議論がされていました。

駅名変更の議論が始まったのは4年前の2019年。名古屋市で有識者や地元の人など7人ほどからなる「地下鉄駅名称懇談会」が開催され、「名古屋市役所駅」「中村区役所駅」など、6つの駅が変更の候補に挙げられました。

その1つの「伝馬町駅」は、熱田神宮正門の最寄り駅ということで、旅行者向けに“熱田神宮”を明記するのはどうかと議題になり、反応したのが地元の人たちでした。

「あつた宮宿会」の会長を務める、老舗菓子店の3代目・花井芳太朗(よしたろう)さんは、「“熱田神宮”が路線図に入ることは非常に大きい」と話します。

あつた宮宿会の花井会長:
「われわれ地元は、特に商売をしている人が非常に多い地域ですので、観光客に来ていただくことは非常に大きいと思っています」

駅名変更をビジネスチャンスにと、あつた宮宿会は色めき立ちます。しかし…。

白鳥学区連絡協議会の中田会長:
「絶対変えてもらっちゃ困る」

地元の学区の代表を務める中田俊夫さんは、有志とともに駅名変更に真っ向から反対しました。

白鳥学区連絡協議会の中田会長:
「地元で生まれた方々は、伝馬町という言葉はこよなく愛してきた地名でもありますので、自分の人生とダブらせているような方は、『僕の人生を消してしまうのか』みたいな声もあったくらいで」

当時、熱田区長の手元には、それぞれの団体から正反対の内容の要望書が届く事態に…。

話し合いを重ねること数カ月、解決に導いたのは「地元愛」でした。

あつた宮宿会の花井会長:
「自分たちの商売も、自分たちの子供や孫たちに良い熱田を残していくため」

白鳥学区連絡協議会の中田会長:
「どっちも(地元を)良くしていきたいという気持ちは同じなんです」

伝馬町の名を残しつつ、熱田神宮の名を活かす形でまとまりました。

2人は駅名変更に大きな期待を寄せています。

白鳥学区連絡協議会の中田会長:
「神宮さんの北側の方だけじゃなくて、こっちの南の正門の方にもたくさんお客さんに来ていただいて、いいきっかけになったかなと思っています」

あつた宮宿会の花井会長:
「熱田神宮にお越しの時に地下鉄を使うのであれば、熱田神宮西もしくは熱田神宮伝馬町にお越しいただきたい。おもてなしができるような仕組みをしっかり整えていきたいなと思っています」

今回意見を交わしたことで、花井さんが会長を務める「あつた宮宿会」と、中田さんら地元学区の仲が良くなり、一緒に活動する機会が増えたといいます。

その1つとして、「熱田神宮伝馬町駅」の装飾を一新しました。現代と江戸、2つの時代の熱田界隈を描き、歴史ある街をアピールしています。

「熱田神宮西駅」となった「神宮西駅」は当初、名称変更の予定はありませんでしたが、「伝馬町駅」が「熱田神宮伝馬町駅」に変更になるのであれば、「こちらも“熱田神宮”をつけよう」と急遽、名称変更に至ったということです。

2023年1月13日放送