『なごやめし』といえば、ひつまぶし、味噌カツ、味噌煮込みうどんなどが代表格。その中でも脇役的存在なのが『きしめん』です。

 このきしめんが、最近ブームになっているのをご存じでしょうか?



生産量が2倍に。広がるきしめんブーム

 街の声を聞いてみると「あまり食べない。身近にそういう店はない」「きしめんで思い浮かぶのって新幹線のホームの店ぐらい」という反応のきしめん。

 某経済紙では「絶滅の危機」とまで言われてしまったこともあります。

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 しかし、きしめん普及委員会の会長・加古遼太郎さんは「きしめんを中心にしたメニュー構成をされている麺屋さんも非常に多くなりました。平麺の生産量が10年前に比べて2倍以上になっておりますので、きしめんのブームが広がりつつあると思います」と話します。

 なごやめしに詳しいライターの大竹敏之さんも「グイグイと盛り返している感じはありますね。実は冷たいつゆで食べるのがきしめんは一番おいしいです。そのおいしさにいろんな人が気づき始めた。これが人気の高まりに繋がっている」と解説。

 いつの間にか新聞の一面を飾るほど、きしめんブームが始まっているようです。

きしめんに人生をかけた星が丘製麺所の店主

 星が丘製麺所の店主・衣笠太門さんは、兵庫県出身の麺マニア。愛知県で食べたきしめんの魅力に取り憑かれ、10年前、名古屋市千種区にうどん酒場を開業したところ繁盛店に。

 しかし昨年、きしめんを復活させるためにうどん酒場を閉店。きしめん専門店に人生をかけています。

 「薄くて平べったいあの形状でモチモチっとした食感があってツルツルっと喉に入っていくのが他の麺にはない」と、きしめんならではの魅力を語る衣笠さん。

 人気が出なかった理由について、「一番(の原因)は味噌煮込みうどんですね。もちろん味や見た目のインパクトだったり、味噌がグツグツ土鍋で来るのは強いですから。作業性で言うときしめんはとにかく大変なんです」と話します。

 手間暇かけても味噌煮込みほど売れないため、手作りのきしめんを作る職人が減少してしまったといいます。

きしめんの製麺室に潜入

 一般的な工場では1台のマシンで麺を作りますが、衣笠さんは練る・伸ばす・切るを別々の機械を行うことで、職人の手作りに近いきしめんを実現しています。

 小麦粉は麺類用に開発された愛知県産の『きぬあかり』。麺にコシを出すため塩水を投入しますが、この塩の濃度が重要なのだとか。

 コシが自慢のさぬきうどんの塩分が10%なのに対し、薄いきしめんでコシを出すには15%以上の濃度が必要なのです。

 塩分が多いと硬くなるため、30分ほど生地を寝かせて柔らかくします。手作りのようなコシを出すためには、この寝かせる時間が不可欠です。

 次に、コシを出すために何度も折り畳んではプレス。「これ以上は力を与えたら悪くなるので柔らかくなるまで休ませます」と衣笠さん。

 続いて、4等分に切ってプレスしたら再び寝かせるという徹底ぶり。「大手の工場だったら1時間で何万食だけど、30時間かかってやっと1000食ぐらいしか作れない」と話します。

 そして待つこと1時間。生地をさらに薄く伸ばしたら、さぬきうどん専用のマシンの登場。薄いきしめんでも、さぬきに負けないコシを出すために何層にも巻き込んでいきます。

 この後は1時間も寝かせたのち、もう一度プレスしたら熟成庫へ。翌朝9時、一晩熟成させた麺を薄く伸ばし麺をカットしたら自家製きしめんの完成です。

コシが強くツルツル食感のきしめんが完成

 30時間をかけてようやく完成したきしめん。茹で上がりは、指が透けるほど薄いにも関わらず、引っ張ってもちぎれないほどコシ抜群です

 こうして完成した衣笠さんのきしめんは、コシが強くツルツルの食感が特徴。さらに何度も来たくなる多彩なメニューも人気を呼び、昨年のオープン以来お店は連日大繁盛!

 きしめん専門店を繁盛させ、新たなきしめんブームの火付け役になった衣笠さん。
「いつか、なごやめしと言えば、きしめんと言われたい」と夢を語ります。