南海トラフ巨大地震は、30年の間に発生する確率が80%とされていますが、その手がかりを捉えるため、気象庁は24時間体制で観測を続けている。

 気象庁でも限られた職員しか入ることができないというオペレーションルームを特別に取材することができた。地震観測最前線の現場とは、そして南海トラフ地震の発生をカギを握る「スロースリップ」とは…。

 愛知県新城市の公園の片隅に、フェンスで囲まれた白い建物がある。

名古屋地方気象台の上田さん:
「多成分ひずみ計といって、このマンホールの地下500mにセンサーが埋設されていて、そのデータをこの建物で吸い上げて東京の気象庁に送っている」

「ひずみ計」は、地下のわずかな岩盤の伸び縮みを捉えるため、南海トラフ沿岸の39か所に設置されていて、南海トラフ巨大地震の発生などに備えるため24時間体制で観測し、データは全て気象庁に送られている。

【動画で見る】全国のデータを集積…気象庁『地震観測の最前線』を特別取材 南海トラフ地震の鍵握る“スロースリップ”とは

 データが集積されるのは、気象庁の地震監視の最前線・オペレーションルーム。この部屋は、気象庁の中でも限られた職員しか立ち入れない厳重に管理された場所で、今回特別に取材の許可を得た。撮影は気象庁の職員に依頼した。

 全国の地震や津波、火山の観測情報が集約され、30人の職員が2班にわかれ24時間体制で監視している。

気象庁地震火山部の担当者:
「地震津波監視・警報センターになります。地震が起きるとアラームが鳴りまして、職員がこちらに集まって震源の決定を、地震の規模がどの程度かという推定を行います」

 データが日本全国およそ6000か所の陸地や海底に設置されている震度計と地震計から、リアルタイムで送られてくる。

 地震が起きた場合、気象庁ではこのデータから正確な発生時間や震源地、規模を取りまとめ、テレビの地震速報など多くの人たちに伝えられる。

気象庁地震火山部の担当者:
「大体2分に1回程度、地震が発生している計算になります」

 火山監視・警報センターでは、御嶽山や浅間山など関東と中部にある20か所の火山活動の監視に加え、航空路への被害を警戒してモンゴルなどの周辺諸国の火山活動の様子もリアルタイムで監視している。

 そして、24時間体制で監視する南海トラフのエリアだ。そもそも「南海トラフ」とは、海側のフィリピン海プレートが、日本列島の下にある陸のプレートに沈み込みこんでいる溝のことだ。

 プレート同士が強く張り付いて動かない場所=固着域があり、陸のプレートが海側のプレートに引きずり込まれることでひずみが溜まり、これが限界に達し一気に跳ね上がると、巨大地震が発生する。

 南海トラフでの異変を捉えるため、ひずみ計に加えて気象庁が導入している観測機器が…。

気象庁地震火山部の担当者:
「こちら海底地震計・海底津波計を繋げたケーブルが、東海沖から南海沖にかけて沈められております」

 南海トラフ沿いの海底51か所に配置された、地震と津波を捉える観測機器だ。海底で起きる異変をいち早くキャッチして、気象庁にデータを送る重要な役割を担っている。

 南海トラフ巨大地震発生の手がかりをつかむため、観測のポイントとなっているのが「スロースリップ」と呼ばれる現象だ。

 スロースリップは、陸側と海側のプレート境界面の固着域より深い地下30キロくらいのところで、陸のプレートがゆっくりと滑るようにしてずれ動く現象。

気象庁地震火山部の担当者:
「黒とか白の点については、ひずみ計が設置されている場所を表しています。複数のひずみ計のデータを重ね合わせると、どうもここでスロースリップが発生しているであろうということがわかるような仕組みになっています」

 巨大地震を誘発するというスロースリップは、実は東日本大震災の震源域となった日本海溝では、地震のおよそ2か月前から起きていた。

気象庁大規模地震調査室の青木室長:
「この現象(スロースリップ)を、プレート境界の状況の変化を知る手がかりとなる現象と考えております」

 気象庁は、南海トラフ巨大地震の震源域で普段と異なるスロースリップが観測された場合、巨大地震の発生する可能性が普段より高まったとして「南海トラフ地震臨時情報」を発表するとしている。

 臨時情報は他にも、震源域でマグニチュード7程度以上の地震が起きた場合でも出されることになっていて、いずれも次に巨大地震が起きる可能性が高まっているため、住民に地震へ備えを求めるなど警戒や注意を呼びかける。

気象庁大規模地震調査室の青木室長:
「スロースリップが普段起きている場所と異なる場所や、普段と異なる発生の仕方で起きている場合には、南海トラフ地震の発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まっている」

 南海トラフ巨大地震の発生のカギを握るかもしれないスロースリップ。

名古屋大学の山岡教授:
「東海地方の下にもフィリピン海プレートが沈み込んでいるわけですけど、それこそ名古屋の真下でも(スロースリップは)起きているんですよね。当然スロースリップが起こることで、地震につながることは間違いないです」

 南海トラフ地震の発生につながりかねない危険なスロースリップとは…。

名古屋大学の山岡教授:
「巨大地震が起きるまでは(プレート同士が)引っ掛かっていて、そのすぐそばで(スロースリップが)起きると、引っ掛かりがだんだん外れていって、バンッとずれるみたいなことは起きるだろうと思っています」

名古屋大学の山岡教授:
「巨大地震が発生している震源域に、より近いところで(スロースリップが)起きると心配だろうと」