岐阜県大垣市に「面倒を楽しむ」をコンセプトにしたカフェがあります。このカフェでは、客が自分で火鉢を使っておにぎりや餅などを炙って料理を仕上げます。その手間が癒されると評判を呼んでいます。

■「面倒は楽しい、面倒はおいしい」…客自ら火鉢で食材を焼く“面倒くさい”カフェ

 岐阜県大垣市のJR大垣駅から南西へ車で10分ほどの住宅街に、民家を改装した「火鉢かふぇ 壽庵(じゅあん)」はあります。

【動画で見る】便利な世の中で“面倒を楽しむ”…客が自ら料理を仕上げる『火鉢カフェ』ストレス社会に独特な癒しの空間

店は縁側もあり、落ち着いた雰囲気です。

蓄音機や足踏みのオルガン、乳母車などが置かれ、いいアクセントに。

年配の人には懐かしく、若い人には目新しいレトロな空間が広がっています。

女性客:
「大垣じゃないみたい。非日常って感じでいいですね」

別の女性客:
「行ったことあるような場所にやってきたかな、みたいな」

また別の女性客:
「本当に、おばあちゃんちみたいな。いいところを見つけたみたいな。初めて来たんですけど」

この店には、他にはない特徴があります。火鉢です。

女性客:
「(焼くの)難しいな。おいしくな~れ」

名前にある通り「火鉢カフェ」。

客が自ら火鉢で料理を焼いたり温めたりします。

看板メニューは「焼きおにぎり 鯛出汁付き」(650円)で、小さめのおにぎりが2個と、香の物や出汁がついて650円です。

焼きおにぎりとして食べてもよし…。

鯛の出汁をかけてお茶漬けにしても楽しめます。

餅を焼いて、出汁と味わう「お雑煮」(650円)。

火鉢で楽しむスイーツもあります。一番人気は「焼き焼きセット」(1600円・ドリンク付き)です。炙るのは、クマの形をしたもなかの皮やマシュマロなど。パリパリにした皮にアイスやフルーツ、マシュマロを挟みます。

ドリンクメニューは、カフェラテに焼いたマシュマロを入れる「ぽわぽわラテ」(650円)や…。

緑茶を煎じて手作りのほうじ茶を作る「自分DEほうじ茶」(650円)などがあります。

店を切り盛りするのは永井義博さんと、ほなみさんの夫妻です。

店主の永井義博さん:
「食材を最終的にお客様に焼いていただいたり、仕上げをしていただくのに、この火鉢を使ってやっていただいています。だから面倒はあるんですけども、でも『面倒は楽しい、面倒はおいしい』って、みなさん喜んでやってらっしゃいますね」

客の声もその「面倒が楽しい」というものばかり。

女性客:
「それが楽しいです」

同席の女性客:
「あまりないから、他に」

男性客:
「この空間がいい。『間』っていうか贅沢な時間。この『間』がこの店のいいところだと思う」

別の女性客:
「すごく楽しい。楽しいし、より一層おいしく感じます。自分が作った感があって」

便利になった世の中で、あえて「面倒を楽しむ」。客もその時間をのんびりと満喫していました。

■「火鉢カフェ」誕生のきっかけは…途方に暮れる実家の整理中に気づいた“贅沢な時間”

 レトロな空間で火鉢を囲む「火鉢カフェ」。店を開いた経緯を尋ねました。

義博さん:
「ここは私が生まれたところなんですけども。おふくろが…、立て続けに親父も3年くらい前に他界しましたもんで。最初ここを取り壊して駐車場にしちゃおうかっていう予定でありました」

この家は、義博さんが生まれ育った実家。

両親が亡くなり、家を整理していると、たくさんの空箱や本、食器など、遺品が次々と出てきました。

中でも義博さんが驚いたのが、多くの火鉢でした。

義博さん:
「押し入れの中から全部掘り出していたら、こんなような火鉢がいっぱいゴロゴロ出てきました」

その数は18個も。

義博さん:
「僕の幼稚園くらいまでくらいは、暖を取るためにこちらの火鉢に炭を入れて、ひとり1個手火鉢で当たっていたっていうのは覚えています。かすかに覚えているのが、お正月になるとここに網を敷いて、お餅を焼いていたっていうのを覚えています」

朧な記憶はあるものの、もう使っていない品々。

義博さん:
「私たちから見たら全部、正直言って不用なものばかりだったんですよ。業者さんに頼めばビックリするくらいの値段だったもので、4トントラックを借りてきて2人で積み込んで、大垣市の処分場に大体27~8回通いました」

遺品だけでなく、庭も悩みの種でした。

義博さん:
「(更地にするための)見積もりを取りました。びっくりする値段で、300(万円)くらいの見積もりが来ました」

実家を駐車場にしようという計画は、予想外の費用がかかることがわかりました。遺品の片付けに追われる日々。家をどうするか途方に暮れる中、妻のほなみさんに変化が起こりました。

ほなみさん:
「片付け途中で縁側に座って…。火鉢あるし、そこでお昼ごはんにおにぎり焼いたりとか色々したら、めちゃくちゃ美味しかったんですよね。なんでこんなに美味しくなるのって。正直、焼くとか面倒くさい行為ではあると思うんですけど、お客様がもしいらっしゃってこれやっていただいたら、すごく楽しいんじゃないかなっていう。なんか活かせたらいいなって、だんだん思うようになりましたね」

火鉢を使ったおいしい食事や、縁側からの美しい景色。

この家で味わえる贅沢な時間に気付きました。ほなみさんは家の取り壊しをやめ、遺された火鉢を使ってカフェをしようと決意しました。

義博さん:
「最初はね、冗談だと思いました。もうこんな古いところ。ある日突然、そんなこと言われて。うちの祖先がここ(妻)に全部乗り移って、『ここを守るんだ』、そんな感じに僕は思っちゃって。それは冗談でよく話しするんですけど。だから本当に、逆に嬉しかったですね。僕も生まれたときからここに住んでいるもんで、思い入れがやっぱりありますし。確かに嬉しかったですね」

捨てるのではなく、活かす。解体からリノベーションへ、180度方針を転換しました。襖や障子の張り替えや、壊れた欄間の修理などは、義博さんが腕を振るいました。

義博さん:
「直すことにだんだんハマってきましたね。素人仕事ですけどね」

■口コミで人気が高まり夜の営業も…心落ち着く癒しの空間

 義博さんが子供の頃、火鉢を囲んだ体験を、偶然、ほなみさんがしたことで生まれた「火鉢カフェ」。

2022年にオープンし、営業日は不定期で完全予約制です。

ほなみさん:
「気付いたのは、看護師さん介護士さん保育士さんであったりとか、いろんな意味でちょっとストレス強めの方かなっていうお客様が多かったり」

義博さん:
「『本当に癒やされるわ』って。『このゆっくりやわらかい火を見ていると心が落ち着くわ』って言って、ゆっくり焼いてらっしゃる」

女性客:
「落ち着きますね。実家がこんな感じなので、実家に帰ったみたいな感じが」

別の女性客:
「懐かしいですね」

独特の癒し空間は、口コミで人気が高まり、不定期でお酒も飲める夜営業も始めました。

ほなみさん:
「でも、もう本当にゆっくり2人のペースでお客様に楽しんでいただければ」

義博さん:
「あとは、こういう火鉢をいま知らない世代の子に時代継承していく。使ったことない方がほとんどなもんで、知っていただくっていうのもやはり僕たちはうれしいですね」

2022年12月14日放送