2023年の統一地方選でも目立ったのが、立候補者が定数を超えず、有権者の選択がないまま終わる無投票だ。議員の「なり手」不足の課題や解消に向けて、試行錯誤するある山村の取り組みを取材した。

■「ありがたい」とは感じつつ心中は複雑 無投票で選出される地方議員のホンネ

 愛知県の飛島村。村議会議員選挙が告示された4月18日の午前9時。

【動画で見る】県議選でも“無投票”の選挙区多く…議員の『なり手不足』解消へ 人口約5700人の山村で進む議会改革

選挙戦の出発式で支援者に決意を語ったのは、4期目を目指し立候補した伊藤秀樹(ひでき 70)さんだ。

伊藤秀樹さん:
「(支援者を前に)これからという時に辞められます?4期目、立候補させていただきました」

午前9時半、選挙カーに乗り込み出発したが…。

伊藤さん:
「ただいま~帰ってまいりました~」

1時間後には、選挙事務所を兼ねた自宅に帰還。早々と活動を切り上げた。

支援者の男性:
「農協の前で演説やるぞ!」

伊藤さん:
「やらんやらん、もう。あとで考えとく。選挙戦になったらね(笑)」

定数10の飛島村議会。この時、立候補を届け出ていたのは定数ちょうどの10人だけで、無投票当選が濃厚になっていた。

伊藤さん:
「(陣営の)みんなも無投票を願っていますよ。(1日で終われば)それはそれでありがたいです。選挙カーで回るのも、けっこう大変なんですよね…」

昼になり、妻の手作りカレーで腹ごしらえをした後、伊藤さんは2回目の街宣に向かった。

伊藤さん(街宣):
「伊藤秀樹は、安心して子育てできる村をめざして頑張っています」

しかし午後3時半、再び事務所兼自宅に戻ると、パソコンで作業を始めた。

伊藤さん:
「うーん、乾杯よりバンザイだな…」

伊藤さんが作っていたのは、祝勝会の式次第。立候補締め切りまでまだ1時間以上あるにも関わらず、既に当選を確信した様子だ。

そして、午後5時。定数を上回る立候補がなかったため、伊藤さんの無投票当選が決定した。

子育て支援の充実や住環境の整備などを主な公約として掲げていたが、有権者からの評価を得られないまま、選挙戦を終えることになった。

伊藤さん:
「本当にこんなことでいいのかなという思いはあります。みそぎじゃないですが(投票は)あるべきじゃないかと。生活ができる基盤がきちっとあっての議員となってしまうので、そうするとなかなか片手間ってわけにはいかないだろうし、それを変えないと(なり手不足解消は)なかなか難しいとは思います」

28年ぶりに無投票になった飛島村の村議選。選挙戦にならなかったことに、有権者からは諦めにも似た声が聞かれた。

村民の男性:
「残念と言えば残念だけど、それだけ(議員を)やる人が少ないんじゃないですか」

別の村民の男性:
「どうしようもないもん、出る人がおらな」

■東海3県の県議選は約半数の選挙区で無投票 専門家「議員報酬を上げるだけではなり手は増えない…」

 地方選では、無投票になるのは珍しくない。2023年の統一地方選では、飛島村も含め、愛知県蟹江町や岐阜県中津川市など、7つの市町村の議員選挙が無投票に終わった。首長選でも、愛知県常滑市や岐阜県土岐市など12の市町村で無投票だった。

県議選では、東海3県で合わせて96ある選挙区のうち、実に半数の48の選挙区が無投票だった。

無投票から脱却するには、定数を超える立候補者が現れる他ないが、なり手不足の解消は容易ではないと専門家は指摘する。

愛知学院大学の森正教授:
「今、現職の議員がいて引退されても、なかなか後継の方が見つからない。議員報酬だけあげて議員のなり手を増やすのは、難しいというのが実態です」

■「夜間・休日議会」や「議員報酬の増額」 改革を進める人口5700人の村

 深刻な議員のなり手不足を打破しようと、試行錯誤を続けている自治体が長野県にある。人口約5700人、3人に1人は65歳以上の高齢者という喬木村(たかぎむら)だ。

定数12の村議会で議長を務める、後藤章人(ごとう・あきと 70)さんは、仕出し店を営む傍ら、議員の仕事をしている。

村議の約半数は、後藤さんと同じ「兼業議員」だ。

喬木村では、2009年と2017年の村議選が無投票だったこともあり、他に仕事があっても議員活動がしやすいよう、平日の昼間に行っていた一般質問や委員会審議を、夜や休みの日に開催する「夜間・休日議会」を始めたり、議員報酬を月額14万3000円から15万円に増額するなど、改革を進めてきた。

しかし、2021年の村議選で立候補したのは、定数12に対し10人。2022年に実施した補欠選挙でも、2人の欠員に対し、立候補したのは1人だけだった。

後藤章人議長:
「9人に(声を)かけました。そのうちの1人が受けてくれたのでほっとしているところですけどね。それでも定員に足りないというのは、背中に嫌なもの背負っている感じですね。議会として興味を持ってもらう活動が果たしてできていたか、疑いは持ちます」

■わずか5700人の村でも「議員を1人も知らない」が3割 一方的な発信から対話へ

 人口5700人の山村だからみんなが顔見知り、というわけではない。村が住民に意識調査をしたところ、村議の名前を知っているかという質問の回答で最も多かったのは「1人も知らない」で、全体の約3割だった。

「議員に魅力がない」「活動内容がわからない」といった声もあり、住民と議員との距離や、議会への関心のなさが浮き彫りになった。

森教授:
「議会自身が自らの存在意義をアピールするっていう風にならなければ、逆に有権者の側から無関心といったイエローカード・レッドカードを突き付けられてしまうと」

調査結果に危機感を抱いた後藤さんは、住民とのコミュニケーションの仕方を改めた。それが「議員と語ろう会」だ。

後藤議長:
「お互い語り合いまして、少しでも議会・議員と皆さまの距離が縮まれば成功かなと思っています」

これまで質疑は行わず、議員からの一方的な発信に終わっていた「村政報告会」を、住民と対話する場に改めた。

参加した社会福祉法人勤務の男性;
「できるだけ認知症にならない方法。こういう活動するとか、手段はいっぱいあると思いますので、そういうことが取り組める村づくりをしてほしいと思っております」

高齢者福祉、子育て、産業振興などをテーマに、2~3か月に1回開催。住民であれば誰でも参加することができる。議員と気軽に話せる交流の機会が増えたことで、住民の間には議会への関心が生まれつつある。

参加した村民の男性:
「意見を吸い上げて議会に上げようとしてくださっているのは感じますので、ぜひ続けていただきたいなと思っています」

参加した村民の女性:
「やっぱり魅力ある議員の活動が無いと、ちゃんとした議員になろうとした人がいなくなる。村民に議員の仕事をPR、村民ともっと触れ合うことが大事で、そうすれば『議員はこういうことしているんだ、自分も役に立とう』となると思います」

後藤議長:
「普段、議員と座って話をする機会はまずないと思いますから、こんな時に考えてもらったり、村につながることがあれば聞きましょうと。それによって自分たちと距離が縮まればと思うし、それで議会に興味をもってもらう方向に進めばいいと思います」

この取り組みが、なり手不足の解消につながるかはまだわからないが、少なくともアプローチの方向性は、同じ課題を抱える他の自治体にも参考になりそうだ。

森教授:
「議会改革をしていくことによって有権者の関心を高めていく。そうしたサイクルが機能していけば、有権者と議会との関係も変わっていく。そうした流れの中で無投票の問題、なり手不足の問題も解決に近づけるのはないか」

2023年4月19日放送