「見えない障害」ともいわれ、保護者や教師も気が付かないことがある発達障害。文部科学省の調査では、通常学級に通う小中学生の1割弱にその可能性があるとされている。発達障害の子供たちが生きやすい社会のヒントを探った。

■「忘れ物が多い」「同時並行で物事を進められない」見えない障害ADHD=発達障害

 テキパキと晩ごはんの支度を手伝う、12歳の服部颯馬(はっとり・そうま)君。愛知県一宮市に住む小学6年生だ。

颯馬君:
「言っていい?定食でチャーハンと唐揚げが付いてきたの」

家族や友達を笑わせるのが大好きで、いつも会話の中心だが、食事中には…。

【動画で見る】“見えない障害”と生きる12歳男の子「今思うのは発達障害あっての俺だから」皆が生きやすい社会へのヒント

颯馬君:
「だから俺は、めっちゃ大きい消しゴムとかめっちゃ大きい…」

颯馬君の母 すみえさん:
「買ったじゃん、これぐらいの」

颯馬君の父 達哉さん:
「買ったったじゃん」

颯馬君:
「なんかさ、呼ばれてさ…」

喋るのに夢中になると、食事はつい後回しに。

颯馬君の父 達哉さん:
「1個のことをやって、こっちにパッと移っちゃうと、もうこれは忘れちゃうんですよね。だからやりっぱなしじゃないですけど、全然忘れている。存在を忘れちゃうみたいな、そういうのはよくありますね。すぐ楽しい方にピッと行っちゃうっていうか」

颯馬君の母 すみえさん:
「わかっているつもりなのに、ワーって注意した時に、この世界の人からしたら普通だから(颯馬は)『一生懸命なのに』って絶対思っていると思うと、そこがすごくもどかしいというか」

颯馬君は3年前の冬、発達障害の1つADHD=注意欠陥・多動性障害の診断を受けた。

颯馬君の場合、忘れ物が多かったり、同時並行で物事を進めたりすることが少し苦手だ。

颯馬君:
「ADHDだとわかってなかった時は、忘れ物は多かったけど、『すぐ治るでしょ』みたいな『何とかなるでしょ』みたいな感じだったけど、ADHDってわかってからは、これ治んないんだみたいな。だからそれのための解決策を考えないとみたいなことで、そっちの考えに変わった」

自分でも認識し、向き合うADHD。得意な図画工作では、自画像の版画もお手の物だ。

しかし、机を見せてもらうと…。

颯馬君:
「汚い。汚いとわかっているんだけど、何ていうかな…面倒くさいっていう時もあれば、なんかもう『どうせ片づけてもまたこうなるでしょ』みたいな」

忘れ物をしないようにと、颯馬君の筆箱には「リコーダー」などの文字が書かれている。

颯馬君:
「書けるからこれ一応…絶対に見るところだから」

颯馬君の母 すみえさん:
「忘れてきちゃ嫌なものとかを書いたりとか、いろいろ方法をやってみた」

パッと見ではわからない、発達障害。「見えない障害」ともいわれている。

■1学級あたり約3人が発達障害の計算…教職課程で必修化された「特別支援教育」

 文部科学省が2022年12月に公表した調査結果では、通常学級に通う小中学生の8.8%に発達障害の可能性があるとされている。1クラスあたり、3人ほどいる計算だ。

いま教育の現場では、発達障害のある子供へのきめ細かな指導が求められ、教職課程では4年前から「特別支援教育」が必修化された。

岐阜聖徳学園大学の安田和夫教授:
「この一番上の枠のところに自分の名前を書いてください。利き手ではない手で書いてください」

岐阜聖徳(しょうとく)学園大学の安田和夫(やすだ・かずお 66)教授は、約40年特別支援教育に携わってきた。

安田教授:
「相手から褒めてもらえた人ってどのぐらいいますか?ちょっとここのペアに聞いてみようか」

女子学生:
「ひらがながすごく上手。利き手じゃない方の手で書いたのに、すごくしっかりしている字だなって」

安田教授:
「自分が出した課題がどれだけ相手に難しいのかっていうことをわかっているから、そういう声掛けができる。とても難しいだろうと想像できたからこそ、そこを褒めてくれたわけね」

特別支援教育で大切なのは、子供がどこで躓いているかに思いを寄せることで、必要な声の掛け方や考え方がわかるという。

授業の話題は「高速道路の渋滞のイライラ解消法」に。

女子学生:
「何分くらいの渋滞なのかとか、どのくらいの距離渋滞しているのかっていう渋滞情報が分かった方が見通しが持てるので、そういった情報が欲しいなと思いました」

別の女子学生:
「車の中で映画とかテレビが見られたら、気が紛れるから楽しいかなと」

周囲の環境が過ごしやすさにどれだけ影響を与えるかを具体的にイメージすることで、“生きづらさ”を抱える子供たちとの向き合い方を学ぶ。

教師を目指す学生:
「先生の配慮とか、先生からのクラスメイトへの働きかけだったり、取り巻く環境への働きかけで、将来その人らしく、その子らしく生きていくことにつながるのかなと、大事だなと思っています」

「見えない障害」と教育。安田教授は、発達障害などへの教師の“気付く力”は上がっているからこそ、一人一人に寄り添った教育が大切だという。

安田教授:
「診断がついていようがついていまいが、どの子も、ある意味でのデコボコを持っていて、どの子にもきちっとした理解と対応をしていく延長上に、発達障害もあったり、重度の障害もあったりすると思うので、特別支援教育が特別じゃなくなることが大事なこと」

■将来は“人を笑顔にする仕事”に…颯馬君「発達障害があって全然よかった」

 ADHDがある服部颯馬君は、3年ほど前に発達障害があることをクラスメイトに打ち明けていた。

颯馬君:
「『そうだったんだ』みたいな感じで、友達が減ったというわけではなくて、友達の反応は、俺は嬉しかった。結構助かっている。学校では友達とかからその手助けしてもらってるのは、だいぶ支えになってる」

読み、書き、聞き取り。2つ以上のことを同時に進めるマルチタスクが苦手な颯馬君は、ノートをとるのに時間がかかる。授業が終わると、デジカメで黒板を撮影していた。

クラスメイト:
「颯馬、消していいやろ?もう」

颯馬君:
「もういいよ」

友達も、気にかけてくれる。

颯馬君が掲げた目標は「宿題をしっかり出す」「忘れ物ゼロ」などだ。

颯馬君:
「忘れ物はだいぶ減った。5年の時よりノートを、黒板を見てしっかり書けるようになった。4年から6年の担任の先生といろいろ考えた最後に、自分がこうすればできるっていうのを、やり方みたいなのを見つけ出すことができた」

科目ごとにファイルを分けたり、連絡帳を読み返したり。

家族や教師、友達など周囲の手助けのもと、一歩一歩着実に成長している。

颯馬君の担任の教師:
「その子本人へのアプローチっていうことも必要だとは思うんですけど、周りの理解がまず必要かなとは思うんです。そういうふうにすれば、他の子にはやらないようなことを僕がしても不思議がられることもないですし、なので僕は集団っていう周りの環境、人的な環境を整えてから個人に対応するっていうふうにしています」

クラスメイトに、颯馬君の人柄について聞いた。

友達の児童:
「おもしろくて、元気な明るい人です」
「優しい子ですね」

春からは中学生になる颯馬君。宿題や課題も増えるため不安もあるが、目指すは部活と勉強の両立だ。

将来の目標もある。

颯馬君:
「人が笑っているところを見るのが結構好きだから、人の役に立てれば相手も嬉しいし、自分でも手助けできたって感じで、どっちもよかったみたいな感じになるから、人を笑顔にしたり、人の役に立てる職業に就きたい」

人は、凸凹があって当たり前。違いを受け入れる心が、生きやすい社会を創る。

颯馬君:
「今思うのは、発達障害あっての俺だから(周囲の)手助けで自分が笑顔になったり、良かったって思える部分では(発達障害が)あっても全然よかったなと思う。手助けしてくれているからこそ今の自分があると思うから、色んな人に感謝してる」

服部颯馬君、12歳。見えない障害と生きている。


2023年2月10日放送