2023年5月、愛知県一宮市のJRの線路で電車と車が衝突し、女が逮捕されました。女は車で線路脇のフェンスを突き破り、わざと線路内に進入したとみられています。(※2023年9月20日付で不起訴処分)

列車の事故が起きた際の損害賠償について、弁護士に話を聞きました。

■「死んでもいいやと」車でフェンス突き破って線路内で列車と衝突

 2023年5月4日、愛知県一宮市のJR東海道線で、普通列車と乗用車が衝突しました。乗用車がフェンスを突き破って線路内に進入し、横転したとみられています。

【動画で見る】わざと車で線路に進入か…電車と衝突させ逮捕の女 考えられる『損害賠償請求額』過去の列車事故のケースは

衝突時、乗用車は無人で、警察は現場付近にいた運転手の女を、列車往来危険の疑いで逮捕しました。この影響で列車は6時間運転を見合わせました。

調べに対し、女は「人生がどうでもよくなり死んでもいいやと思った」と話し、わざと線路に入ったとみられています。列車の乗客ら約120人にケガはありませんでした。

■賠償請求の実情 2011年の踏切事故では約7800万円請求

 運休や遅延などのトラブル「輸送障害」は、鉄道側に起因するものや自然災害を除いても、年間で3015件も起きています。(2020年度・国交省)

鉄道ジャーナリストの梅原淳さんは「踏切内で立ち往生してしまうなどの止むを得ずの事故もあれば、自殺や痴漢の容疑者が逃亡して線路に進入するなど、人為的なものも多い」と説明しています。

 列車事故が起きた際には、損害賠償が発生します。交通事故の裁判などを多く担当している牧野太郎弁護士に、損害の内訳や賠償請求の実情、そして今回の一宮市のケースについて聞きました。

まず牧野弁護士に聞いたのは、2つの賠償請求の裁判です。

 1つ目は2009年4月、大阪府の京阪電鉄の駅で起きた事故。34歳の会社員が花粉症の薬と飲酒の影響で駅のホームから転落し、列車に轢かれて死亡しました。

このとき鉄道会社が遺族に求めた損害賠償は、時間外労働に伴う人件費およそ69万円、利用客らのタクシー代およそ13万円、車両修理費など合計で約85万円でした。

判決では、男性の過失は軽いとして賠償額は減額され、約30万円の支払いが遺族側に命じられました。

 2つめは、2011年2月に大阪府高石市の踏切で起きた事故です。踏切内で停車していた車と列車が衝突し、車の運転手の70歳の男性が死亡しました。

死亡男性が契約していた保険会社に鉄道会社が請求した損害額は、列車の修理費約1700万円、踏切など設備の復旧費約3100万円、振替輸送費約460万円、通常運行できなかった分の運賃や特急券・指定席券など約1500万円、車のレッカー代、ケガをした乗客の治療費、事故対応の人件費や交通費、裁判の弁護士費用など、合わせて約7800万円だったということです。

牧野弁護士:
「電車が破損してしまった場合には電車の修理費用、設備関係が破損した場合は修理費用・復旧費用。運行時間中に衝突したということになりますと、鉄道が一時中断することになりますので、そこの損害が一番大きいですね」

判決では現場の状況などから、事故は車の運転手が故意に踏切に進入したため起きたと判断され、保険会社に支払いの責任はないとして請求は棄却されています。

 2つのケースでは損害額に大きく差がありますが、牧野弁護士によると、主に列車の利用者数と物的損害の面が大きな影響を与えるということで、新幹線や主要駅で起こった場合は1億円を超えるケースもあるといいます。

しかし、高額で支払えないケースはどうなるのでしょうか。

牧野弁護士:
「支払い能力に応じたお金を、示談金というわけではないですけれど、お支払して解決するケースも多いという話はよく聞きます」

回収できる見込みが低いと、訴訟しても費用が上回る場合があるため、請求相手の支払い能力を考慮して減額し、和解にするケースが多く、実際に裁判まで行くケースは稀だといいます。

また、請求対象が遺族の場合は「相続放棄」するケースも多いといいます。

相続は現金などだけではなく、借金や損害賠償債務といったマイナスの財産も対象になるため、プラス・マイナスを含めたすべての財産を3カ月以内なら放棄できるということです。

■一宮市のケースは…牧野弁護士「振り替え輸送費用・修理費用はかなりかかってくる」

 今回の一宮市でフェンスを突き破ったJR東海道線の事案についても聞きました。

悪質性について牧野弁護士は、「事故時は車を放置して別の場所にいたということなので、悪質性はある程度高いものとして認められると思います」と説明しています。

鉄道の中断時間と修理費用については、「電車が6時間中断したということで、振り替え輸送の費用がそれなりにかかってくるのではないか。修理費用は車との接触ということから考えても、3桁4桁というような金額がかかってくると思います」ということです。

また牧野弁護士は、「怪我人がいなかったことが不幸中の幸いで、治療費などはかからずに済むのでは」と話しています。

JR東海は今回の事案について「まだ被害状況の調査をしているところであり、現時点では今後の対応についてお答えできません」と説明しています。

2023年5月12日放送