
冬から春にかけて収穫される「冬春(ふゆはる)トマト」を求めて、岐阜県海津市に大勢の客が訪れる直売所があります。海津市の「冬春トマト」を広く知ってもらおうと、生産農家の男性が力を入れています。
■行列ができる岐阜県海津市の「冬春トマト」

岐阜県海津市ののどかな田園風景の一角にできた、長い行列。
【動画で見る】行列のできるトマト直売所…「他の所では食べられない」20袋買う人いるほど爆売れ“海津の冬春トマト”とは

女性客:
「目的はトマトです。美味しいトマトが食べたくて」
別の女性客:
「甘みがあって新鮮で美味しいので、ついつい買いに来ちゃいます」
ここはトマトの直売所です。

とれたて新鮮なトマトがずらりと並び、客は両手いっぱい、かごいっぱいに買っていきます。

女性客:
「20袋です。頼まれて、みんなの分も買いに来たんです。甘くて皮も柔らかくて、他の所では食べられないです」

「他では食べられない」とまで言わせるトマトを作っているのは、近藤康弘(こんどう・やすひろ)さんです。

3代続くトマト農家で、ミニや中玉、大玉など約8種類を栽培しています。
近藤康弘さん:
「海津(トマト)は冬から春にかけてが旬になります。今が一番の旬です。冬春トマトと言いまして、秋に植えて夏まで収穫をする」

近藤さんが作っているのは、冬から春にかけてとれる「冬春トマト」です。
■開店から30分で完売する商品も…「毎日食べてほしい」と価格を抑えて販売

「冬春トマト」は、夏にとれるトマトとは少し栽培方法が違います。
近藤さん:
「葉っぱを取ることによって、葉っぱに隠れているトマトにしっかり光が当たるように。この時期は日差しが少ないので、できるだけ葉っぱを取って光を浴びやすいように」
寒い冬を通して育つ春先のトマトは、余分な葉っぱを取り、直接トマトの実に日光が当たるようにします。

夏に比べて、ゆっくり育つことから中身がギュッと濃く、甘みも強い美味しいトマトができるといいます。

近藤さん:
「夏のトマトは温度が高いので赤くなるまでに時間が短いんですが、冬のトマトはゆっくり赤くなるので、その分糖度が高くなります」
皮が柔らかく果肉がしっかりしていて、甘みと酸味のバランスがとれたトマト本来の美味しさが楽しめるそうです。

畑で完熟した真っ赤なトマトを、丁寧に一つずつ収穫し、敷地内のスペースの直売所で、水曜と土曜の週2日、とれたての状態で販売しています。

ミニトマトは1袋340円。

大玉トマトは6個入って約1キロで、500円です。

なるべく価格を抑えて販売することを心がけているといいます。
近藤さん:
「毎日食卓に並べてもらいたいので、高くなりすぎて特別な日に食べてもらうんじゃなくて、いつも食卓にあって、いつも美味しいトマトという値段で買っていただけるように…」
午前10時に開店すると早速大勢のお客さんが訪れ、店内はすぐにいっぱいになりました。

まとめ買いするお客さんもいます。
女性客:
「9袋。毎週なので自分用と親戚にあげる用なんですけど、味が間違いないので喜ばれる」
出したそばから次々と売れていきます。

近藤さん:
「あっ、もうない」
開店から30分ほどで、完売する商品もありました。
■イタリアンのシェフも絶賛…悩みは「知名度」

トマトの産地といえば熊本や北海道などが有名ですが、岐阜県海津市は木曽三川の肥沃な土壌に恵まれ、冬でも日照時間が長いことから、トマトの栽培に適しています。昭和30年(1955年)頃から盛んにトマトが栽培されるようになりました。

「冬春トマト」は、市内の約60軒のトマト農家が栽培しています。

海津市は、県内で一番の出荷規模を誇る冬春トマトの産地ですが、悩みも抱えていました。

近藤さん:
「夏は高山とかが有名ですが、僕たちも誇りたいんですけどアピール不足で、なかなか皆さんに知っていただけてないんで」
味には自信がありますが、知名度が低いのが悩みだといいます。

近藤さん:
「今まで生産だけしてきたんですけど、それでアピール不足だったところがあると思うので、正直歯がゆさはあるんですけど、それよりも伸びしろがあると逆に考えています」
近藤さんは3年前、意気投合したトマト農家の田家一衡さん、福島紳太郎さんと一緒に、新たにトマト農園「スマイルふぁーむ」を作りました。

3人で、海津トマトの魅力を知ってもらう活動もしています。

田家さんは、直売所を始めていろいろな発見があったと話します。

田家一衡さん:
「お客さんと直接お話ができるので、トマトが美味しかったとか、このトマトが美味しくなかったとか、いろんな方が来て話しをすることで、農業にかかわらずいろんな発見ができたりするので、刺激を受けることができているのがすごく良かったと思っています」
海津市にはスマイルふぁーむのトマトを使うレストランもあります。

農園から車で15分の道の駅クレール平田にある「KAIJUCAFE(カイジュウカフェ)」。

地元食材を使った料理やスイーツが人気です。イタリアンレストランで長年オーナーシェフとして腕を振るった西川崇さんは、近藤さんたちの作るトマトに魅了されました。

オーナーの西川崇さん:
「ただただ美味しいです。お店をやる時も『近藤さんのトマトを使いたい』。トマトは皮に一番うま味があるので、そのまま入れさせていただいています」
肉団子に地元の野菜と、近藤さんたちのトマトを入れて、じっくり煮込んだイタリア家庭料理の定番「スマイルふぁーむの完熟トマト イタリアンミートボールのペンネ」(1500円)は、ゴロゴロ入るトマトが主役の一品です。

甘みが増し、とろける味わいが絶妙です。

濃厚なトマトソースを使ったスパゲティ「海津トマトのナポリタンスパゲティ」(990円)もあります。

モチモチの麺に、コクのあるトマトソースがよく合います。

西川さん:
「地産地消は大切ですし、地元に美味しいトマトがあるので少しでもPRに貢献できたらと思っています」
■トマト嫌いの子供のため…やさしい甘さのこどもケチャップで入口広げる

海津の冬春トマトを多くの人に知ってもらいたいと、スマイルふぁーむでは新たな取り組みを始めました。

近藤さん:
「“こどもけちゃっぷ”ってひらがなで、サブタイトルで“はじめてのとまと”っていう…」
完熟トマトにキビ糖などを加え、やさしい甘さのトマトケチャップを作りました。

子供に食べてもらいたいと「こどもけちゃっぷ ―はじめてのとまと―」(700円)と名付け、2023年2月から販売しています。

近藤さん:
「トマト嫌い、野菜嫌いというお子さんが多いので、そういった子に入口としてまず、生のトマトもいいんですけど加工品で味に親しんでもらいたい」
まだそれほど知られていない海津の「冬春トマト」ですが、今後もっと多くの人に知ってもらえる日が来ると、近藤さんは信じています。

近藤さん:
「トマトだけ売っていて、週に2回しか開いていなくて、しかも時間も限られているけど、みんなその時間にちゃんとお客さん来てもらえるので、ちゃんとしたものを作ればみなさん買ってもらえる。海津のトマトをもっと多くの人に知っていただいて、『ここのトマトが食べたい』って言っていただければ一番」

スマイルふぁーむのトマトの直売は、7月上旬までの予定です。
2023年3月9日放送