岐阜県は山が多く、多くの鹿が「害獣」として駆除されている。「ジビエの鹿肉」と、規格外として捨てられている名産の「富有柿(ふゆうがき)」を活用して、地元愛あふれるスパイスカレーが誕生した。開発した2人の女性を取材した。

■規格外の“柿の王様”でコンフィチュール作りカレー開発を始めた女性

 柿畑が広がる岐阜県本巣市。

【動画で見る】規格外品と害獣から斬新なメニュー…富有柿とジビエの鹿肉使ったスパイスカレー「自然に恵まれた町を知って」

名産の富有柿は、四角い形が特徴。甘味が強く、果汁も多いことから“柿の王様”とも呼ばれている。

戸川康子さん(54)は、「規格外の富有柿」を求めて、福井農園の柿畑を訪れた。

戸川康子さん:
「私も本巣市出身で、規格外の柿が捨てられている現状を見て、富有柿のコンフィチュールの作成に挑みました」

福井農園では柔らかくなったり、虫が刺してしまった富有柿を戸川さんに買ってもらっているという。廃棄されることも少なくない規格外の柿。バンテリンドーム約1.6倍の面積という柿畑からは、コンテナ10個分が戸川さんのもとに持ち込まれる。

福井農園の担当者:
「今までは袋に詰めて、100円とかで売れるものは売るんですけど、それに出せないのは捨てたり、知り合いにあげたりですね」

戸川さん;
「捨てるものが新しく生まれ変わるのはとてもいいかな、と思いまして」

本巣市内にある就労支援施設。

障害者の就労支援に取り組んでいる戸川さんはここで、カレーに加える柿の加工を行っている。

戸川さん:
「内職業ということで工賃自体が安価であるということで、商品開発をしてそれを直で販売することで工賃を高くしていけるかなと思って、オリジナルのものを開発したいって思いで今回作りました」

今回のカレー開発には、事業所で作業する利用者の賃金をアップさせたいという狙いもあった。食感を残すため冷凍と生のもの両方を使用。スパイスを加え、ゆっくりと混ぜていく。

戸川さん:
「工程としては2時間くらいお時間がかかるので、(利用者に)それをお手伝いして頂いております」

2時間煮詰めて、ジャム状のコンフィチュールが完成した。

■カレーの肉は8割廃棄される“鹿肉”

 今回のカレー開発では、料理研究家の井上真理子さん(44)が鹿肉の担当をしている。

井上真理子さん:
「捕獲された鹿が運ばれてきて解体されて精肉される。で、私はお肉をいつも購入しています」

この日、肉の仕入れに市内の処理施設を訪れた。

井上さん:
「(店員に)こんにちは。今日は腕ですね、いつもの。大きい。1820グラム。ありがとうございます」

井上さん:
「基本、私がカレーに使うのは腕肉が多いです」

「害獣」として駆除され持ち込まれてくる地元の鹿だ。

里山ジビエ会の堀部好未さん:
「鹿は、ほかる(捨てる)部分がほとんどないです。骨も出荷しますし、内臓も出荷しますので」

岐阜県内で、2021年度に捕獲された鹿は約2万頭。しかし県内での需要が少ないことなどから、約8割が廃棄されている。

地元・本巣市猟友会の中沢和広会長は、料理に慣れてないためわざわざ鹿肉を買う人は少なく、認知は少し広がってきたが「買ってもらうところを探すのも最初は苦労した」と振り返る。

■ジビエの魅力を伝えたい…料理研究家が手掛けたスパイスカレー

「動物の命を無駄なくいただく」。井上さんはもともとスパイスカレーが得意だったという。

井上さん:
「これも腕肉ですね。筋がついているんですけど、腕肉の場合はわたし長時間に込むので、筋もすごくとろとろに柔らかくなるので、とらずにこのまま」

ジビエの魅力を伝えたいと、鹿肉に挑戦した。

井上さん:
「私は狩猟はできないけど料理をする人間として、狩猟で捕獲された鹿肉をおいしく食べられるように調理しようと思った」

2時間下茹ですることで、赤身の肉はホロホロに。

そして、カルダモンやクローブなど11種類のスパイスを合わせる。

井上さん:
「香りがね…、スパイスのいい香りが」

鹿肉を入れたところで、戸川さんの「富有柿のコンフィチュール」の出番だ。これがいい隠し味になるという。

井上さん:
「スパイスカレーって物足りないっていうこともあるんですけど、さらに鹿肉が淡泊なので、味自体が。コンフィチュールを入れることで、見事にうまみを増してくれて自然な甘さも加わって、本当においしくなります」

地元の恵みを余すところなく活かしたスパイスカレーができあがった。

■カレーの評判は上々「自然に恵まれた町だと知ってもらいたい」

 カレーは毎月第3水曜日に、市内の就労支援施設の敷地を借りてテイクアウトで提供している。

開店すると、さっそく客が訪れた。

女性客:
「柿の甘みがわかります」

男性客:
「臭いイメージがありましたけど、全然そんなことないですね。お肉、柔らかいですね。本格的なしっかりしたカレーなので、美味しいですね」

評判は上々のようだ。

戸川さん:
「初めてカレーを食べる方が多くて、すごく美味しいねって言っていただけたのがよかったです」

井上さん:
「鹿肉って癖もないですし、柔らかくて食べやすいですよね。本巣市にこんなに美味しいものが、富有柿だったりとかジビエだとか、すごく自然に恵まれた町なんだよっていうのをぜひ食べて知っていただきたいなと思います」

2023年3月15日放送