岐阜県中津川市の「スーパーやまにし」は家族経営の小さなお店ですが2023年2月、全国の小売店を対象としたコンテストで最高賞の「農林水産大臣賞」を受賞した「日本一のスーパー」です。ユニークな店づくりが評判を呼んで、遠方からもお客さんが集まってきます。

■わずか35坪 家族4人で経営する「日本一のスーパー」

「スーパーやまにし」は岐阜県中津川市付知町(つけちちょう)にある、売場面積が約35坪の小さなスーパーです。

【動画で見る】店主が感動した商品を前面に…国が認めた『日本一のスーパー』わずか35坪の店からあふれるアイデアと努力

4代目の西尾真朋(にしお・まさとも)さん夫婦と…。

先代の夫婦の家族4人で経営しています。

家に伝わる調味料を活かした惣菜や、店長が感動した商品を集めた品揃えなどが評判を呼んで、市外からもお客さんが訪れる人気店です。

 午前6時半。「スーパーやまにし」の4代目、西尾真朋(まさとも)さんが仕入れの為に、中津川市の東濃東市場を訪れていました。

仲卸:
「キュウリ!」

西尾真朋さん:
「1ケース下さい」

仲卸:
「(ワケギは)やまにしいくつ?」

真朋さん:
「5個」

旬のタケノコやワケギ、キュウリなどを少しずつ仕入れます。

真朋さん:
「小さいお店なので、たくさん仕入れると売り切れないので」

魚や肉、お菓子なども少量ずつ。一通り必要なものを買ったところで、付知町のお店へ戻ります。

■ライバルに押され客も売上も減少…江戸時代から家庭用に作ってきた調味料が大人気に

 昭和5年(1930年)に創業した「やまにし」は、生鮮食品から洗剤などの日用品まで揃う地元のスーパーとして90年以上営業してきました。

真朋さんは、名古屋でのデパ地下勤務を経て、18年前に地元に戻ってきました。

真朋さん:
「大手スーパーやドラッグストア、コンビニが進出してきまして…。どんどんお客さんが少なくなって、売上の方も目に見えて少なくなってきているなって状態でした」

ひいおばあちゃんの時代から続いてきたお店を、自分の代で潰すわけにはいかない。そこでまず考えたのが、西尾家が江戸時代から家庭用に作り続けてきた調味料の商品化です。

真朋さん:
「『地味噌』と『地たまり』です。もともと祖母が家庭用に作っていた物を製品化しまして」

地味噌(じみそ)とは、自然の力だけで発酵させる天然醸造の味噌のことで、地元の麹菌を使い、木樽の中で1年かけ熟成させる、おばあちゃんの地味噌です。

そして、地味噌の樽に染み出した副産物の「地たまり」をすくい取り、商品にしました。

江戸時代から作り続けてきた「地みそ」と「地たまり」を、スーパーの看板メニューとして販売し始めました。

女性客:
「地たまりは買って、ちょっと隠し味に入れたり」

別の女性客:
「ウチはこの味噌が大好きで…。味噌もたまりも使わせてもらって」

無添加で風味豊かな自家製調味料として人気を呼ぶようになったといいます。

真朋さんが次に始めたのが、その「地たまり」を使って漬け込んだ岐阜県の郷土料理「鶏ちゃん」の販売です。

地元産の恵那鶏を使って、山西家自慢の地味噌を隠し味にし、地たまりで漬け込みました。

この「鶏ちゃん」も人気です。

女性客:
「知り合いが来るので食べさせたいと思って」

女性客の子供:
「美味しいと思う」

店頭に並ぶ40種類ほどのお総菜も、そのほとんどに地たまりが使われています。

お惣菜を作るのは先代の正博(まさひろ)さんです。

真朋さんの父・正博さん:
「ウチの地たまりと、濃い口のたまりとずっと継ぎ足しです」

砂糖を使わない、癖になる辛さの特製焼き豚や…。

出汁巻卵も地たまりで、コクのある味に仕上がるといいます。

女性客:
「ここ独特の味付けというか ここのお惣菜は飽きがこない」

別の女性客:
「田舎風やもん、この辺に合ってるもんね」

■“店長感動の品揃え”で市外からの客も増加 付知の『KALDI』と呼ぶ人も

 地味噌と地たまりのおかげで、総菜も評判に。売上も徐々に回復してきたといいますが、ライバルの大型スーパーなどとの差別化を図るために、“改革”を続けました。

10年前から始めたのが…。

真朋さん:
「養老町のウインナーです。奥さんの実家が養老町なので、実家行った時に食べさせてもらって、すごい美味しかったので“感動”しまして」

真朋さん:
「こちらは高知県から直接取り寄せている久保田食品のアイスで。買って食べたらすごく美味しくて、味に“感動”しまして」

自分が美味しいと“感動”した商品の販売です。

埼玉のメーカーのできたてのポテトチップスに…。

神戸のかけるチーズ。

珍しいタレやドレッシングも置いたところ、お客さんから好評になりました。

女性客:
「付知の『KALDI』って呼んでいて、私たち。ピスタチオのチョコとか、バナナけんぴ、これもおすすめです」

別の女性客:
「この辺りでは手に入らないような珍しいお菓子とか調味料とか、好きですね」

こうしたこだわり商品をSNSで紹介したところ、わざわざ市外から足を運ぶお客さんも増えてきました。

女性客:
「愛知県に長く住んでいて、中津川に来て数年なんですけど、抜群にいいお店だなって思って」

男性客:
「可児市からインスタで見て知って、来るようになって」

別の男性客:
「きょうは名古屋から。スーパーめぐりが好きで、ネットで調べて」

■店主「喜んでもらって豊かな食生活を」 “日本一”に輝いた「やまにし」

 アイデアと地道な努力を重ねた結果、2023年2月、独創的な経営で優れた成果を出した全国の小売店を対象としたコンテストで、最高賞の「農林水産大臣賞」を受賞しました。

真朋さん:
「本当にビックリしちゃいまして。まさかって気持ちでいっぱいでした。間違ってんじゃないかってぐらいの 気持ちでした」
  
真朋さんは、もっと地元の人に喜んでもらいたいと話します。

真朋さん:
「伝統食を守りつつ、それを使ったお惣菜など、手造りの物をもっともっと広げて、地域の人に喜んでいただいて、豊かな食生活を送っていただけるように頑張りたいと思います」

2023年4月12日放送