名古屋で活動しているバンド「Qaijff(クアイフ)」のピアノボーカル・森彩乃(もり・あやの)さんは、ステージ2の乳がん患者だ。35歳の森さんは、苦しい“闘病”をも歌にして今を生きている。

■コロナ禍明けライブ再開近づく最中…乳がん宣告受けたアーティスト

 名古屋を拠点に活動するバンド「Qaijff(クアイフ)」のピアノ・ボーカル・森彩乃(35)さんは、いま“乳がん”と向き合い、闘っている。

【動画で見る】ライブ再開の矢先に突然の“宣告”…乳がんと闘いながら活動続けるアーティスト「病気の事さえも全部音楽に」

森彩乃さん:
「体調悪い日があって、さすがに歌ったりするのはしんどい時期もあって。実際病気になってみて、どうやって生きたっていいじゃん、みたいな」

「どうやって生きたっていい…」。怖さや辛さ、不安を受け入れて、森さんは「病気のことさえも、全部乗っけるしかない」と前向きに生きようとしている。

森さんは2012年、ベースの内田旭彦(うちだ・あきひこ 34)さんら3人でバンド「Qaijff」を結成した。

2016年からはJリーグ・名古屋グランパスの公式サポートソングを担当。誰でもどこか共感できる歌詞が、若者を中心に支持されてきた。

ようやく新型コロナの活動規制も緩和され、バンドの生命線ともいえるライブが少しずつできるようになってきた矢先の2023年2月、森さんは身体の異変に気付いた。

家で筋トレをしていたところ、胸のあたりに違和感を覚えて触ってみると、しこりを見つけたという。

森さん:
「(病院には)『あ、なんでもないですよ。大丈夫ですよ』って言われたくて行くようもんだから。(でも)あれよあれよと精密検査みたいな、『大きい病院紹介します』みたいな感じになっちゃったんで…。そのときは正直、怖くて泣きましたね。震えたというか」

診断の結果は「乳がん」のステージ2。右胸のリンパへの転移もわかり、約1年半の治療が必要と診断されたが、不安をかき消してくれたのは音楽だった。

森さん:
「やっぱり音楽やっているときとかって、そっちに集中しているから結構忘れているというか。それが自分を“前向き”にさせるなって」

バンド活動を止めることなく、続ける決断をした。

■治療前に髪型を超ベリーショートに 髪が抜けても「そのときの自分をどう楽しむか」

 2023年4月、美容師の友人に頼んで、治療に入る前の最後のカット。“人生初”の「超ベリーショート」で注文した。

親友の美容師:
「初めて?こんだけ切るの。(髪の毛持って)10センチくらい…」

森さん:
「こっから10センチだもんね(笑)」

森さん:
「すげー、やんちゃ!絶対そのときは少なからずショックは受けると思うけど、それはしょうがないので。そのときの自分をどう楽しむかを、今から考えています」

準備していた医療用のウィッグやオシャレなスカーフは、「闘病後」も使えるものを選んだ。

森さん:
「髪が生えてきたときも、普通におしゃれで使えるじゃんって思って」

■始まった抗がん剤治療は大きな副作用も

 そして2023年5月、抗がん剤治療が始まった。

森さん(5月1日 自撮り):
「数日前から緊張していたんですけど、看護師さんたちがみんな優しくて、心がほっこり暖かくなっています」

初めての抗がん剤治療。副作用の様子を見る必要があり、2泊3日で入院した。

森さん(5月2日 自撮り):
「初めての抗がん剤治療、点滴、終わりました。(最中に)咳が出だしちゃって心配だったんですけど、治まって最後までできてよかったです」

予定通り退院できたが、やはり副作用の影響は大きかった。

森さん(5月4日・自撮り):
「退院日は夕方くらいまで結構元気だったんですけど、そのあとだんだん副作用の影響で気持ち悪くなってきたり、倦怠感が結構出だして」

身体への影響が早くも出始めたが、がんとの闘いはまだ始まったばかりだ。

■乳がん公表の元SKE・矢方さんと久々の再開

 1回目の抗がん剤治療を終えて5月22日、森さんは、友人で元SKE48の矢方美紀(やかた・みき 31)さんと会う約束していた。2人はこれまでにたくさんのイベントで共演してきた。

矢方さんは5年前の2018年、25歳のときに乳がんを公表し、その後、左胸を全摘。

森さんが乳がんを公表する前から、矢方さんは相談に乗っていた。

矢方さん:
「最初は女性として、胸がないってどうなんだろうとか、それこそ抗がん剤治療するってなったときに…言われました、先生から?生殖機能がどうかとかって。それで、卵子凍結するかどうかとか選ばなきゃいけないってなった時に…」

森さん:
「いきなり、急にだもんね、選択が。現状(右胸)全摘なんだけど、そうならそうでしょうがないって」

矢方さん:
「再建どうするとか話しているんですか、先生と」

森さん:
「私の中では“しない方向”の気持ちが強くて、どっちの選択も人それぞれじゃん」

この時、森さんには同じ経験をした、矢方さんにだから話そうと思うことがあった。

森さん:
「どこにもまだ言ってないんだけど、“卵子凍結”したんだよね」

矢方さん:
「あ、したんですね」

森さん:
「美紀ちゃん当時25じゃん。私は35だからここからどうなるかなって、割と考えるじゃん。絶対に子供が欲しいっていう人と言われたら、そこまで絶対に欲しいっていうことでもなかったんだけど、でもやっぱり、将来の可能性として残せるならやってみようってことで」

矢方さん:
「誰かに言われて決めるより、自分の中で出した答えっていうのが、一番正解に近いのかなって」

森さん:
「すぐ覚悟が決まったのは、美紀ちゃんが発信してくれたおかげだって、本当に超強く思って。って喋っていたら涙が出てきた(笑)。泣いて笑うやつ。すぐ泣くからね」

矢方さん:
「喜怒哀楽が激しい」

気持ちをわかってくれる仲間が近くにいるからこそ、いま強くいられる。

森さん:
「美紀ちゃんも、自分の選択に迫られたときに発信してくれていたから、自分の選択を自信持って自分で選ぶことで、自分に後悔しないというか自分の人生を愛せる気がするので」

■不安や辛さも溢れる歌詞…音楽で生き様を表す

 2023年6月16日、再び森さんの元を訪ねた。

森さん:
「(髪は)まだ残ってはいるんですけど、ほぼほぼないっすね。私はショックというより、わかっていたけど『こんなに抜けるんだ!すごっ!』みたいな」

抗がん剤治療を始めて、1カ月半。アルバムの制作に向けて、森さんも新曲の作詞・作曲を始めていた。

新曲はサックスを入れてのアレンジ。

森さん:
「(サックスを吹いてもらって)いいねー!さすが!楽しいね!」

森さん:
「抗がん剤の副作用で、5日間くらいはなんとなく気持ち悪いみたいな。抗がん剤で下がっちゃった白血球の数値を上げるための注射を初めて打ったんですけど、それの副作用がすごくて。それが結構辛かったです」

乳がんと闘いながら生まれた歌詞には、いまの怖さや辛さ、不安が自然と溢れ出ていた。

<レコーディングしている曲の歌詞>
泣いたっていいし 怖くたって仕方ないよね お前の好きに生きてみりゃいいさ いいのさ 本能はだませない 雲の向こうに広がる 思考を手繰り寄せて

森さん:
「怖いし不安っていうのは、もうしょうがないから、それをなくすことは無理だから、それを許すというか。病気になってみて『どうやって生きたっていいじゃん!』」

「どうやって生きたっていい」。ありのままを歌に込め、自分を愛せる人生に…。

森さん:
「生きざま、音楽で生きざまを表す。だからこそ病気のことさえも、全部乗っけるしかないって思っています」

2023年7月25日放送