泡消火剤などに含まれ、発がん性が指摘されている化学物質「PFAS(ピーファス)」という物質が、沖縄県や東京都などの水道水の水源で検出されているが、愛知県や岐阜県の水源でも検出されていた。汚染源がはっきりせず、住民は不安を抱えている。

■発がん性や子供の成長に悪影響の可能性指摘の「PFAS」

 県営名古屋空港や自衛隊小牧基地などがある、愛知県豊山町。

【動画で見る】発がん性や子供の成長に悪影響の指摘…検出相次ぐ化学物質『PFAS』水道水の水源からも 住民は「戦々恐々」

航空産業の町の水道水の水源から検出され、問題となっているのが、有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」だ。2023年7月、豊山町の住民団体が、住民を対象に行った検査結果を公表した。

京都大学の小泉昭夫名誉教授:
「豊山町豊場地区で22人の方(の血中濃度)が(アメリカの指標を)超えているということになります」

豊山町民の生活と健康を守る会の野崎八十治共同代表:
「自慢の水道水だったんですが…」

豊山町民の生活と健康を守る会の坪井由実共同代表:
「病気の発症が懸念されるところの不安と戦う、向き合っていく」

PFASは人工的につくられ、極めて分解されにくい特性から「フォーエバーケミカル(The Forever Chemicals=永遠の化学物質)」とも呼ばれている。

以前はフライパンや消火剤など、広く私たちの身の回りで使われていたが、近年のアメリカの研究で腎臓がんなどの発がん性のほか…。

抗体反応の低下、そして子供の成長に悪影響を及ぼす恐れがあると指摘されている。

■東京都知事「たらい回しにしないで」 各地で検出されるPFAS「泡消火剤」が原因か

 PFASを巡ってはPFASを含んだ「泡消火剤」が、東京の米軍横田基地から漏れ出していたことが発覚し、多摩地区の複数の水道水の井戸水からPFASが検出され、2019年以降、相次いで稼働を停止している。

小池百合子東京都知事(2023年7月14日):
「すごく中途半端。たらい回しにしないでほしいですね。国は責任をもってやっていただきたい」

沖縄県の米軍基地近くの宜野湾市などでは、地下水や河川、水道水からも検出されている。2020年には、米軍の普天間飛行場からPFASが含まれた「泡消火剤」が、川に流出したこともあった。

東海地方でも検出が続いている。岐阜県各務原市の三井(みい)水源地の井戸から、最大で目標値を11倍上回る「PFAS」が検出されていたことが、2023年7月に明らかになっている。

岐阜県各務原市の小島剛水道部長:
「市内水道の水源である、2水源地の水質検査を行ったところ、超過する値が確認されました」

愛知県豊山町では2021年3月、町内にある「豊山配水場」で高濃度のPFASが検出され、今も配水が停止されている。

初めてのPFASの調査で、地下水から国の暫定目標値の3倍以上の濃度が検出された。

水道水は、今は別の配水場から水道水を送られていて、再開の目途は未だたっていない。

■最も高い人は3倍以上…豊山町では調査対象の半分近くがアメリカの指標上回る

 清水隆さん(85)は、カーテンを扱う仕事をしていて、約60年にわたり豊山町で暮らしている。手洗いはもちろん、料理や飲み水にも、毎日水道水を使っている清水さん。PFASの問題を知ったのは2023年6月だった。

Q. PFASが原因で豊山配水場が止まっていることは知っていた?
清水さん:
「知らなかった。水道水を飲むしかしょうがないもんね」

知人に協力を求められ、血液検査を受けることにした。

血液検査を実施したのは、住民団体「豊山町民の生活と健康を守る会」だ。共同代表の坪井由実(よしみ)さんは、住民が目に見えないPFASの影響に不安になっているという。

坪井由実さん:
「今の時期だとスイカを(井戸水で)冷やしておいたり…。今、PFASのこともあって、どういう風に汚染されているかはっきりわからない。非常にそういう点では、みんな戦々恐々としていますよ」

坪井さんらは2023年6月、自主的に豊山町・北名古屋市に住む54人に血液検査を実施し、2023年7月20日、その結果を公表した。

京都大学の原田浩二准教授:
「水道水を普段から使用している方のほうが、高い値を示していますし、国内においては高い部類に入るだろうと」

PFAS4種類の合計で、アメリカで「健康面で特別な注意が必要とされる指標」の血中濃度が20ng(ナノグラム)/mLを半数近くの25人が上回る結果だった。最も高い人では、3倍以上にもなる。

主に豊山配水場から水道水が供給されていた「豊場地区」の平均値が高く、検査を担当した京都大学の原田准教授は、「水道水が原因である可能性が高い」と結論付けている。

豊場地区に住む清水さんの結果は、「26.8」。アメリカの指標20を大きく上回っていた。

清水さんは8年前の2015年頃から狭心症を患い、今も毎日薬を服用している。腎機能を示す数値も、「要検査・治療」のD判定となり、定期的に病院で受診している。

いつから水道水が汚染されていたのか。清水さんは不安を抱いている。

清水さん:
「水道水がどれくらい影響しているかわからんもんだから、このままで大丈夫ですかって」

8月5日、清水さんは、住民団体が主催した医師との個別相談会を訪れていた。

医師:
「今後やった方がいいと思うのは、甲状腺の検査と、腎臓は見ていただく」

腎臓や甲状腺のガンなどのリスクがあることの説明を受け、疑問を投げかけた。

清水さん:
「先生に薬を出していただくということは無理なんですか?」

医師:
「PFASは何がダメかというと、肝臓から出るんだけど腸で吸収されて、また肝臓に戻ってクルクル回るだけなので排出されないんですよ。半分なくなるのに5年かかる、10年以上は身体に残り続けるわけです」

清水さん:
「しょうがないよね、飲んでいて溜まっちゃったものは減らないから」

■専門家は「空港」が汚染源の可能性を指摘…町民が訴える国や行政の対応

 各地で不安が高まる中、環境省の専門家会議は2023年7月、Q&A集を公表した。

PFASの一種には、発がん・免疫に影響があるとの報告がされているとしながらも、どの程度体に入ると影響があるか、「確定的な知見はない」としている。

愛知県の大村知事も、2023年8月7日の記者会見で、PFASについて言及した。

大村秀章愛知県知事:
「泡消火剤は今は使っておりませんので、だいぶ昔のことですよね。由来は自然界にあるものではありませんので、泡消火剤等によるものというのは明らかだと思いますので、そうした由来も含めてしっかりと対応していく、必要であれば調査をする」

全国では基地の周辺でPFASの検出が続いているが、豊山町の地下水の汚染はどこから来ているのか。

血液検査結果を評価した京都大学の小泉昭夫名誉教授は、汚染源について「空港が一番考えられる」とし、そこで使われた泡消火剤が汚染して現在も分解中で、地下水を汚していると考えていると話した。

豊山町の住民は、この問題解決のために国や行政がもっと積極的に動いてほしいと訴えている。

血液検査を受けた豊山町民の男性(86):
「今まで豊山町の水道水がきれいだと思い込んで、99.99%水道水使っていましたので…。町だけでは片付かない問題でしょうから、県とか国が何か手を打ってくれることを期待する」

坪井さん:
「一番原点は、汚染源を絶つこと。ボーリング検査費用、結構かかるそうですけど、県は国と協力してやってほしいと思います。健康不安に寄り添う、そういう行政を期待したい」

2023年8月7日放送