愛知県西尾市の「ぞうめし屋」は、味噌蔵が作った人気のカフェです。コロナ禍で初めての苦境を経験しながらも、時間を活用して新たなメニュー作りに挑戦し、V字復活を遂げています。

■「明らかにお客さんが増えていく感じがない…」 老舗味噌蔵の3代目が作った“肉みそごはん”がヒット

 愛知県西尾市のカフェ「ぞうめし屋」は、ランチタイムには行列必至の大人気のカフェです。

【動画で見る】本業・味噌蔵の強み生かす…3代目が手掛ける大人気カフェ コロナ禍で客激減もV字回復成し遂げた“ミソ”

女性客:
「おいしいです。コクがあって濃いのが」

男性客:
「何食べてもおいしいところですかね」

この店を有名にしたといっても過言でもないのが、肉みそをたっぷりと使った「肉みそごはん」です。

コクのある甘じょっぱい味噌に温泉卵をまぜた丼ぶりで、やみつきになります。

「肉みそのり玉ごはん定食」(1265円)

オーナーの今井大輔さんは老舗の味噌蔵の3代目です。

西尾市吉良町で昭和33年(1958年)から続く「今井醸造」が実家で、その味噌をふんだんに使ったメニューが自慢です。

「ぞうめし屋」のオーナー・今井大輔さん:
「(みそには)添加物はもともと入っていないので、安心して食べてもらえるかなと思う。家業をおじいちゃんから継いで欲しいと言われてやっていた時に、明らかにお客さんが増えていく感じがないというか…。やっぱりこれじゃあかんかなと」

自慢の味噌を、もっと多くの人に食べてもらいたいと考えたのが、幼い頃から食べていたという肉みそでした。豆みそに砂糖、みりん、お酒、豚ひき肉を加えたものです。

この肉みそをご飯にのせて、2014年からキッチンカーで販売を始めたところ、評判となり連日行列に。

お客さんの要望に応える形で2015年、西尾市内に店舗を構えました。

■名古屋や京都にも出店した人気店を襲ったコロナの影

 人気の肉みそごはんに加えて、店舗のみのメニューとして登場したのが「みそ煮込みうどん」です。

今井さん:
「うどんは屋台でできないので店舗で始めて、これも年中出せる看板メニュー」

実家の今井醸造の赤みそに、九州の鰹節と北海道の昆布でとっただしを加えて味を整え、愛知県産の小麦・きぬあかり100パーセントの麺を入れぐつぐつと煮込みました。ぞうめし屋のもう1つの看板メニューです。

「みそ煮込みうどん定食」(1518円)

固めの麺に優しい味噌つゆが絡んで絶品と、1年を通して人気です。

肉みそごはんとみそ煮込みうどんという、味噌蔵ならではのメニューが話題となり、開店してすぐに行列のできる人気店となり、オープン2年後には名古屋、京都にも出店しています。

このまま順調に行くかと思われましたが、コロナで大きな打撃を受けました。

今井さん:
「めっちゃ大変でしたね。ウチだけじゃないからあれですけど…。お客さんもこないとか、いろんな時期もあったので」

お客さんが激減し、売上が8割ダウンという月もあったといいます。取材したこの日も、久々に訪れたという常連客がいました。

女性客:
「本当に久しぶりに来ました。コロナ中はここは来てない」

右肩上がりで成長してきた人気店が、初めて味わった苦悩でした。

■空いた時間で開発した「みそメンチカツ」が人気メニューに

 今井さんは生き残りをかけ、空いた時間を使って新しいメニューの開発に取り掛かりました。

今井さん:
「坦々スパイスカレー。坦々麺をイメージしたスパイスカレーを作ったんです」

白味噌とゴマのペーストをいれたカレーに、ピリ辛味に仕立てた肉味噌をあわせて食べる「濃厚坦々スパイスカレー」(990円)です。

今井さん:
「ただ、『暇だ暇だ』と言っているのもよくない気がして。浮いた時間を生かせないかなと思いながらやっていたんですけど。基本、まかないで。みんな(スタッフ)に実験台になってもらって、自然な『おいしい』が聞けるかどうか。社交辞令じゃないおいしいがもらえたら、あとは詰めて完成」

コロナ禍の2022年、この坦々スパイスカレーを始めとした、味噌を使ったスパイスカレーを5種類考案しました。

新メニューは他にもあり、自信作が珍しいみそ味のメンチカツです。

今井さん:
「みそダレで、メンチカツ用の。ウチらしく、みそカツのメンチカツバージョンみたいな感じなので」

特製のメンチカツを、甘めのみそと出汁で割ったオリジナルみそダレにさっとくぐらせたところ、これまでにない自信作ができあがったといいます。

今井さん:
「キャベツは多いです。お肉と1対1ぐらいで。肉だけというメンチカツより、野菜が多い方がうちの客層に合うかなと」

たっぷり野菜が入ったメンチカツと、さっぱりとした味噌ダレ。

女性でも食べやすい定食として1日30食出る人気メニューになりました。

「みそメンチカツ定食」(1408円)

取材した日も、このみそメンチカツを目当てにしたお客さんがたくさん来ていました。

女性客:
「濃くなくて、ガツンとくる感じでもなくて、おいしいです」

別の女性客:
「メンチカツなので、キャベツとかも多くて。おいしい、初めて食べましたけど」

定番メニューに味噌メンチカツ単品を追加注文するお客さんもいました。

男性客:
「メンチカツ定食と迷って。定番メニューと単品でみそメンチカツ食べたいなと。サクフワですね。キャベツが入って、甘いのとしょっぱいのがいい感じにミックスになっていますね。最高です」

今井さん:
「もう何回も食べてくれる人が結構いて。ありがたいですね」

ピンチをチャンスに。コロナをきっかけに新メニューが生みだせたことに、今井さんは喜びを感じていました。

■試作へのスタッフの“薄い反応”も糧に「トライは続けていく」

 コロナが落ち着いた今も、メニューの開発は続けています。この日も、ランチタイムが終わると、スタッフのまかないにと試作していました。

今井さん:
「この時期、冷たいうどんの方が喉ごしも良さそうだなと思って。これはウチがまぜそばで使っている自家製のタレがあるんですけど、それを応用していて。台湾肉みそを冷やしのうどんにのせたまぜうどんみたいな。清涼感もあって、ピリッと辛いので汗かきながら」

坦々カレーにも使ったピリ辛の肉みそと、酸味の効いた中華ダレを冷たいうどんに混ぜて食べる「冷やし台湾まぜそば」です。

そして思い付きでアレンジもしてみました。

今井さん:
「とろろもあうかなと思って。まだ食べてない。頭のなかでだけで」

さっぱり感を出すため、とろろを足してみることに…。

スタッフの反応は?

女性スタッフ:
「なんか(味が)ちょっと薄くなっちゃった」

今井さん:
「薄くなった…」

女性スタッフ:
「(とろろが)ない方がおいしいかもしれない」

今井さん:
「なんかだいぶ絞れてきたんだけど、どうしようかな。もう一回ぐらいやってもう食べたくないって思っているかもしれない」

完成まではもうひと工夫必要なようです。

今井さん:
「わざわざ、車走らせてきてくれる人がたくさんいるし、愛知のソウルフードになるようなご飯を生み出せるように、メニューの開発はダメだと言われながらも懲りずにやります。それをどれだけメニューブックの中に落とし込めるかはわからないですけど、トライは続けていこうと思っています」

その後台湾まぜぞばは、とろろの代わりにマヨネーズと山椒を別に添えて「味変」を楽しめるように改良し、「冷やし台湾」(1000円)として期間限定で販売されたということです(現在は終了)。

2023年6月1日放送