2024年元日の能登半島地震では、住宅の倒壊による犠牲者が相次いだ。同じように、倒壊で大きな犠牲を出したのが29年前の阪神淡路大震災で、2つの地震には、「キラーパルス」とよばれる地震波が起きていたことがわかっている。耐震化工事がすすまないのはなぜなのか、そしてまず私たちができる対策とは。

■二次被害を防げ… 壊の恐れがないか判定する「応急危険度判断」がすすむ

 震度6強を観測した石川県穴水町で1月10日、応援に駆け付けた静岡県の職員らが行っていたのは、「応急危険度判定」だ。

被災した住宅を1軒1軒回りながら、その後の余震で倒壊したり、外壁が落下したりすることがないかを判定していく。

【動画で見る】耐震化率低い街襲う…“キラーパルス”で輪島市等の住宅に大きな被害 専門家「耐震補強は一部屋だけでも」

静岡県交通基盤部 建設管理局 冨加見俊一郎さん:
「いち早く応急危険度の判定をして、二次災害を防ぐようにしていければと思っています」

2階窓の落下の恐れがある家には、危険を表す「赤」。外壁の一部に日々割れがある家は要注意を表す「黄色」などと判定された。

■倒壊の大きな原因「キラーパルス」は“木造家屋への影響が非常に大きい”

 能登半島地震では多くの建物が倒壊し、下敷きとなったことなどによる“圧死”の犠牲者が相次いでいる。

その大きな原因が「キラーパルス」だ。キラーパルスとは、地震の揺れの周期のうち、1~2秒のやや短い周期のことを指している。

一体どんな揺れなのか、名古屋大学・減災連携研究センターの飛田潤センター長に、穴水町の震度6強の揺れを、実際に観測された地震波をもとに再現してもらった。

再現された動きを確認すると、最初は小さな揺れだが突然、大きくグッと奥に引っ張られるように動く。その後も10秒以上、前後左右に大きく揺さぶられるような揺れが続いた。

飛田センター長によると、こういった揺れは木造家屋への影響が非常に大きいという。

飛田センター長:
「一般に周期1~2秒の成分(=キラーパルス)といわれています。特に少し古い木造家屋で被災しやすいような建物が大きく揺れやすい。ぐっと大きく揺れるような形で一挙になぎ倒されるような倒壊にもつながると思います」

京都大学の境有紀教授の現地調査によると、周期1~2秒の揺れが観測された輪島市河井町では、調査対象の木造住宅の3割余り、穴水町でも2割余りが全壊した。

今回の地震で最大震度7を観測した志賀町では、周期0.2秒前後のより“短い揺れ”が多く、観測点周辺の建物に大きな被害はなかったという。

■輪島市は全国平均の“約半分”…耐震化がすすまないワケ

 能登半島地震同様にキラーパルスによる建物の被害が相次いだのが、1995年に起きた阪神・淡路大震災だ。

阪神・淡路大震災では死者6434人の8割以上が、倒壊した家屋の下敷きとなるなど建物が原因で亡くなったことから、“耐震性”が大きく注目されるきっかけとなった。

1981年以降に適用された「新耐震基準」を満たした建物の割合は、全国平均でおよそ87%だ。しかし、輪島市の場合は“約45%”と、平均を大きく下回っている。

名古屋大学の福和伸夫名誉教授は、今回の地震で建物被害が相次いだ背景に「耐震化率の低さ」を指摘する。

名古屋大学 福和伸夫名誉教授:
「過疎化が進む高齢化社会ゆえに、なかなか耐震化率が改善されてなかった。お年寄りの方々は、耐震補強にもなかなか前向きになりにくい」

■耐震化率が26.5%の愛知県東栄町 高齢化と老朽化の中で「今更直しても…」

 耐震化率が、今回の被災地よりも下回る自治体が愛知県にある。北東部に位置する「東栄町」だ。

人口は約3000人、半数以上が高齢者という過疎と高齢化の町だ。

耐震化率は「26.5%」で、街並みを見ると古い木造住宅が目につく。

住民に、耐震化について聞いてみた。

70歳男性(家が築30年程度):
「耐震化は…今言ってもそこまではみんな考えんじゃないかなと思ってね。今度うち建てるなら、いつもいる場所は鉄骨を組んで、あと壁紙貼るような構造にするしかないのかなというような気がするけどね。」

62歳男性(家が築100年以上):
「お金の問題だよね。(耐震改修を)やろうと思っても正直この地区に大工さんって少ない」

90歳女性(家が築100年以上):
「昔の石の上に丸太のせて作ってある家だわ。地震きたらバターンだわ。若い衆は出ちゃっとる、しょうないわ」

東栄町は、南海トラフ地震で最大震度6強の揺れが想定されていて、担当者も頭を抱えている。

東栄町建設課 原田経美課長:
「やはり過疎ということもあって、あと老朽化。老人世帯が多いということで、改修まで追いつかない」

東栄町によると、2002年からこれまでに耐震診断を受けた家は138軒だが、補助金を受けて改修したのは、そのうちわずか3軒のみだという。

原田経美建設課長:
「若い人が外に出ちゃっているので、『今更直しても』というのもあるし。補助金もあるんですけど、そんな額ではなかなか直せないということで。難しいところですね」

■「自分の命は自分で守る。自分の地域は住民で守る」

 東栄町で築100年以上の家に暮らす伊藤さん夫婦は、14年前にリフォームをした際、地元の工務店に耐震化を依頼した。

伊藤智久さん(78):
「うちは14年前に全部リフォームして。とにかく柱を1本も2本も余分にいれてよと。“耐震”ということでやった」

黒い梁や天井は昔のまま生かし、淡い茶色の柱は耐震化のため、新しく増やした。

一番狭く、柱の多い部屋で眠るなど、暮らしでも常に地震を意識している。

伊藤さん:
「何かあった時には、こっちの部屋にくれば一番丈夫だと。命を守るにはここだと思っとる。狭いけども、柱やなんかもいっぱいあるし」

伊藤さん:
「間近間近だって言われている。たまたま能登の方だったけど。ここで(大地震が)あったって不思議がないこと。日本全国どこでもあるもんだよね」

阪神淡路大震災から29年。そして、改めて耐震性の重要さを認識するきっかけとなった、能登半島地震。

名古屋大学の福和教授は、南海トラフ巨大地震が起きた際を想定し、警鐘を鳴らした。

名古屋大学・福和伸夫名誉教授:
「私たち目の前に南海トラフ地震があるわけで、被災者人口というのは、能登の何百倍。行政の力は、本当に不足するということなのは明らか。『自分の命は自分で守る、自分の地域は一緒になって住民で守る』。そういう気持ちを持たないと、これからやってくる巨大災害にはなかなか難しいと思います」

■石川県では最大150万円までの補助 制度を利用して耐震化を

 木造住宅の耐震化のための「耐震改修」で、東海地方の自治体からは補助を受けることができる。

市町村ごとに細かく条件は異なるが、愛知と三重の場合は最大100万円、岐阜の場合は最大110万円。どの県も一部自己負担がある。

日本建築防災協会が4年前にまとめた耐震改修工事費の目安によると、木造二階建て住宅の場合では、半数以上が190万円以内で行われているということだ。

被災した石川県は、耐震改修の補助制度が充実している。最大150万円までは自己負担0で、全額補助してくれる。

ただ、大きな被害があった珠洲市や輪島市では、耐震化率が5割前後で、制度が十分利用されていなかった。

名古屋大学の福和名誉教授は、高齢者に完璧な耐震補強を求めるのは難しい面があるとしたうえで、「一部屋だけでも補強する部分改修や、部屋の中に耐震シェルターを置いてつぶれないようにする」といった対策を勧めている。

「いつか来る」ではなく、「いつ来るか分からない」と考えを持って、できることから対策をすすめることが大切だ。

2024年1月17日放送