厚生労働省の調査では、家の近くに医療機関がないなど気軽に診察を受けることができない地域(無医地区)が、全国で約600(2019年厚労省調査)もあるという。過疎化により無医地区になりつつある地域もあるが、同じ過疎化にありながら “医師が集まる”クリニックの経営を実現した例もある。

■過疎化で院長の後任は未定のまま 都市部への“医師の偏り”

 面積の約9割が森林という岐阜県の東白川村。

【動画で見る】飛行機出勤可で残業ゼロ…『医師が集まる過疎地の病院』地域医療成功のカギは“優秀なドクターと病院の支持”

『東白川村国保診療所』は、人口2200人ほどの村にある唯一の医療機関だ。

院長の北川浩司さん、63歳。

北川浩司院長:
「これが現役のカルテです。とことん探しに行けば、昭和のカルテまで多分でてきます」

かつては村にも外科の手術や出産が行える病院があったが、過疎化が進み、財政面での負担などから15年前に病棟を閉鎖。夜間の診察や救急車の受け入れも今は行っていない。

北川院長:
「医師2人体制です。私の担当は火曜日と金曜日。神谷医師は月曜日と木曜日」

今は県から期限付きで派遣されている20代の医師と交代で診察にあたっているが、まもなく定年を迎え、退職する予定だ。しかし、院長の後任はまだ見つかっていない。

北川院長:
「後釜を探して来てもらわないと、難しいかなと思いますね。かつてより(医師が)地方部に行きたくないという感じは強いと思っている。都市部の人から見ると遠いし不便だと」

患者:
「大事な問題だけど大変じゃないの。お金の面とか人口減とか。望むとなるといっぱいあるよね、でもそんなことはね」

4割以上が高齢者という村には医師が欠かせないとあって、村長も頭を抱えている。

東白川村の今井俊郎村長:
「無理でしょう。医師が来なかったら休業です」

過疎地で深刻化する医師不足。厚労省の最新調査によると、半径4km以内に50人以上が住んでいながら、近くに医療機関がない「無医地区」は全国に590箇所。岐阜県では、無医地区に住む人が3700人と、前回調査の4倍以上に増えた。

全国の50代以下の勤務医を対象に「地方で何年勤務できるか」を聞いた調査では、ほぼ半数が「地方勤務をする意思がない」と回答。都市部への“医師の偏り”が問題となっている。

医療ジャーナリスト 森まどかさん:
「医療というものを心意気だけで継続して行くというのがなかなか難しい時代になってきている。ニーズのあるところで症例がたくさんあるところで医療をしたいと思う医師は、人が多いところに集まりますし、昭和の時代のように24時間自宅に診療所が併設されていて、夜中でも具合が悪いと言って走ってきたら見てあげますよと言ったような文化的なものもやはり廃れていってしまっている。そういう傾向を見ていると、これから医師の偏在というのはますます進んでいくのだろうと思います」

■飛行機出勤、残業ゼロ…好待遇で「過疎地でも医師が集まる病院」に

 そんな中、「医師が集まる過疎地の病院」として注目が集まっている医療機関が鹿児島県南九州市にある。

2013年に開院した「松岡救急クリニック」だ。

院長の松岡良典(まつおかよしのり)さん(44)。

クリニックのある地域も長年過疎化による「医師不足」に悩まされていたという。

松岡良典院長:
「鹿児島県自体は医師の6~7割が鹿児島市に集中して、全体の3割ぐらいが残りの地域に分かれている。人口も過疎で、医師もいない、病院もない、という地域で」

そんな場所にオープンしたクリニックのモットーは「24時間365日、すべての患者を受け入れる」ことだ。行き先のなかった患者をとにかく受け入れ、処置をする。年々訪れる人が増加し、今は1日200人近くが来院する。

高齢の女性:
「いつでも見てくださる」

高齢の男性:
「俺の孫なんか、しょっちゅう夜中に熱だしたりするから、ここにしょっちゅう世話になっている」

都心部から離れ夜勤もあるクリニックだが、8人の医師がここで働いている。

どうやって医師を確保したのか。愛知県大府市に住む医師の中野優(なかのまさる
)さん(45)は、松岡クリニックに勤務する医師の一人だ。

中野優さん(機内):
「鹿児島にいきます。医者の仕事をしにいきます。週に1回往復している感じなので、月に4回ですね」

中野さんは毎週、鹿児島まで“飛行機出勤”している。クリニックの医師の半数以上、5人が、沖縄や福岡など、県外から通っている。

そしてある日の午後6時、夜勤の医師へ引き継ぐタイミングが、救急車の受け入れと重なったが…。

中野医師:
「オンオフ割り切って帰るんですけど」

オンとオフをはっきりと切り替えるのもルールの一つ、「残業ゼロ」だ。給料も平均以上の金額を保証と、厚い待遇面が魅力となり、“医師が集まる病院”になった。

この10年の間に過疎地を中心に全国6カ所でクリニックを開業し、今後さらに5カ所のオープンを予定と、地域医療の“成功例”として注目を集めている。

松岡救急クリニックの松岡良典院長:
「やりがいもちゃんとあるし、休みもあってちゃんと給料も保障されている。その3つのバランスが自分は元々取れていなかったから、バランスを取りたいと思って始めたから絶対自信があった。それを全国の先生方に伝えると、結構やりたいっていう先生が増えてきた」

飛行機通勤など、他の医療機関がうらやむような好待遇を維持するため、意識しているのは“高い利益率”の確保だ。

松岡院長:
「優秀なドクターで、1人何役もこなせるようなドクターが最小の人数でたくさんの患者を診て利益率を出している。病院が支持されて、ある程度患者さんがたくさん来て、それを少人数でしていくということにある」

■救急医療を経験した幅広い知識の医師をスカウト 過疎地の地域医療を変える

 複数の科の知識を持ち、子供から高齢者まで幅広い年代の患者に対応できる医師がいれば、短い時間で多くの患者を診ることができる。松岡院長が注目したのが、軽いケガから脳卒中や心筋梗塞などの重傷患者まで対応できる“救急”を経験した医師だった。

全国の学会などを回ってリクルート活動し、救急に強い医師を確保してきた。

愛知から通う中野さんも専門は小児科医だが、勤務していた病院で夜間の救急対応を多く経験していたことが、このクリニックでの採用につながった。

子供:
「鼻水が止まらなくて」

中野医師:
「鼻水以外は喉も痛いの?」

中野さんの生まれは鹿児島県で、長年、地元での医療に携わりたいと考えていたという。

中野医師:
「鹿児島の医療に貢献したいなって。1時間半かけて鹿児島市内まで(救急車で)搬送しているという話をされて。僕が変えられるわけじゃないんだけれども、それが自分の地元であるっていうのを知って、なんか自分がそれをやらないでいる理由があんまりないなあっていう感じですかね」

子供の教育などを考え、移住はできないとあきらめていたが、愛知から通えると知ってこのクリニックで働くことを決めた。

中野医師:
「家族もいるしっていうので、その辺が折り合いがつかないなと思ったところで、いろいろ病院を探していて、今の仕事に出会った。大府市の方に家を持ったままでこちらで働けるっていうことがわかったので、今回応募した。楽しくやれているので、今はすごくいいですね」

地域医療の新たなカタチ。医療の充実が過疎化を食い止める材料にもなる。松岡院長は、そう考えている。

松岡院長:
「医療が受けられないと、もう住めないんですよね。逆に医療があれば、過疎地でもうちょっと頑張ってみようかっていうところもあるんですけど。私が医者としてやれることは、医療を充実した体制をとって、過疎地でも安心して暮らせるってことを解決していくこと。医療過疎で医療全体が厳しい所に、もっと困難な地域で作っていきたいなと思っています」

2023年7月19日放送