愛知県津島市のラーメン店「森田屋」は、店主の男性が70歳で始めた店です。1杯300円という破格のラーメンや、作業を軽減するために使う“ゴンドラ”など、ユニークな店で、地域で愛されています。

■配膳はゴンドラで…1杯300円の破格のラーメン店「森田屋」

 名古屋市から車で約30分の愛知県津島市にあるトラックの駐車場に、テントのような建物があります。2024年3月にオープンしたラーメン店「森田屋」です。

【動画で見る】ラーメンがゴンドラで…70歳で開業し1年で人気店に 1杯300円の破格で提供するための工夫詰まったユニーク屋台

女性客:
「おいしいです。あっさりな感じで」

別の女性客:
「麺もスープもすごくおいしくて食べやすい」

男性客:
「月に1、2回くらいは。先週も食べに来た」

ラーメンは味も絶賛されていますが、驚くのがその値段、1杯300円です。

とても300円とは思えないクオリティで、焼きめしも200円、ラーメンと焼きめしのセットでも、ワンコインと破格の安さです。

「森田屋」の店主、野舘芳之さん(71 放送当時)は70歳の時に店を始め、店を1人で切り盛りしています。苗字は野舘ですが、覚えやすいという理由で無関係の「森田屋」という店名にしたといいます。

「森田屋」の店主 野舘芳之さん:
「安すぎますね。儲けようと思ったらこんなバカなことしない。全然儲からないので。私も半分ボランティアみたいなもんですかね」

配膳する手間を省くため、手作りのレーンを設置し、ゴンドラで料理を運ぶ独特のスタイルです。

男性客:
「これが見たかった」

別の男性客:
「これはいいね、よく考えたもんだね」

他にもお値打ちでおいしいラーメンを提供するために、店内には様々な工夫が凝らされています。

野舘さん:
「楽ですね、お金を追っかけないと。料理している人間はそうだと思いますけど『おいしかったよ』とかね、そういう言葉が一番うれしいです、作り手とすれば。だから値段には変えられないところはありますね。『おいしかった』って言われると」

■店は約30分かけて「組み立てる」

 午前9時、森田屋の1日は客席の設営から始まります、場所は運送会社の車庫です。この会社の社長と野舘さんは知人で、無償で借りているといいます。

野舘さん:
「そういう協力がなければね、この値段じゃとてもできません」

組み立てにかける時間は30分ほどで、テキパキと作業を進めます。パーツは、つっぱり棒やホームセンターで購入した鉄パイプに、ビニールシートです。

そして、お客さんからも評価が高い“ゴンドラ”。端に強くぶつからないよう、力加減が重要です。

近くで止まってしまったときは、マジックハンドを使って動かすといいます。

野舘さん:
「地面を走らせるとガタンガタンってなっちゃうでしょ、段差やなにかで。それがほとんどないので、意外とスムーズでしたね、やってみたら。子供さんが来ると『楽しい』『また来ます』って言ってもらえる」

■タレも鶏チャーシューも“自家製”…細部までこだわった300円ラーメン

 自慢のラーメンは1杯300円と破格ですが、かなりのこだわりがあります。

野舘さん:
「かえしは椎茸と昆布と醤油と酒、日本料理の基本ですよね。チャーシュー鶏の胸肉で、かえしに漬けて味付けしているんですけど。低温調理で2時間半煮るとこういう形になる。あとはメンマですかね、メンマも自分で味付けして。椎茸と昆布、あとみりんと醤油で味付け。おかげ様で皆さんに喜んでもらっている。買っていたんじゃとても、お金かかっちゃって」

自家製の醤油ダレに鶏の油、チーユを合わせます。麺は特注の細麺で、仕上げに自家製の鶏チャーシューとメンマを添えればできあがりです。

野舘さん:
「最初は失敗の連続で、ただしょっぱいだけとかね。最初の頃に食べに来た人は『全然味が違う』って。それはそうですよね。私もそんなに詳しくないけど、それこそネットで調べながらとかいろいろやりましたね」

午前11時、開店と同時にお客さんがやってきます。外で食べるラーメンは、また格別です。

男性客:
「最高です。価格と味と、最高です」

別の男性客:
「おいしい。とても300円とは思えないクオリティ」

また別の男性客:
「屋台のラーメン屋を思い出すような感じでいい。安いし」

女性客:
「麺もスープもおいしくて食べやすい」

多い日には40杯ほどになるということで、店内をゴンドラが忙しく行き交います。

そして支払いは、客がセルフでゴンドラの上に置いてある器に料金を置いて、そこに置かれているお釣りをもらうスタイルで、お値打ち価格には、客も一役買っています。

■「ありがとう」が一番うれしい…70歳で始めた男性の原動力

 野舘さんは岩手県の出身で、もともとはトラックドライバーだったといいます。

野舘さん:
「もともと料理が好きだったのもあるんですけど、前の会社で若い衆にご飯を食べさせていた時に『店やれば』って冗談で言われてその気になっちゃってね。じゃあちょっとやってみようかって。思いついたらすぐやっちゃう方なんで。すぐやっちゃったんで。最初はでも大変でしたよ、お客さんも来ないし。作っている時が一番楽しいよな。あんなに忙しいのにようやるなぁと思うかもしれないけど、あれがまたいいんですよ」

野舘さんは、トラック運転手だった頃とはまた違う楽しみが、今の仕事にはあるといいます。

野舘さん:
「お客さんとの会話、楽しいですね。たわいもない話ですよ。『きょう会社の帰りですか』とか。『寒いですね』とかいろいろな会話が広がったりしますから。まして『おいしいですね、このラーメン』って言われた日にはね、『ありがとうございますっ』って。それが一番の私のご褒美ですね、それを聞いた時には一番うれしいですね」

70歳にして、たった1人で始めたラーメン店ですが、お金を稼ぐより世の中に奉仕したい、それが野舘さんの思いです。

野舘さん:
「お金の続く限り、体の続く限り、どこまで続けられるか、やろうかなと思って。明日が勝負、次の日が勝負という感じで毎日。だから何年先とかねそんなのとても考えられないです。また明日、また明日。それの連続ですかね」

店は混雑するため、毎朝8時から整理券を配布しています。

2025年3月20日放送