
要介護の人でも楽しめる「介護スナック」が、孤立しがちな高齢者の新たな居場所として注目されている。准看護師や介護士など“高齢者ケアのプロ”がもてなすが、飲酒への懸念や感染対策など、普及には課題があるのも実情だ。
■プロがもてなす介護付き高齢者スナック 飲酒の際は“事前に同意書”
群馬県高崎市にある介護付き高齢者スナック『Go To Heaven(楽園)』。ここは、介護施設が運営するスナックだ。
宮川真紀さん:
「要介護認定を受けた方を送迎して、こちらでお酒を飲んでいただくコンセプトにしております」
【動画で見る】要介護でも「自分らしく生きるために」高齢者ケアのプロがもてなす“介護スナック” 飲酒リスク等で普及への壁も

ママの宮川真紀(みやかわ・まき)さんは准看護師で、昼は老人ホームで働いている。
また、スタッフは介護士と、まさに“高齢者ケアのプロ”がもてなしてくれる。

入店したお客さんには、まず血圧と血中酸素濃度を測定し、たっぷり遊ぶ前に健康状態をしっかりチェック。
アルコールを飲むお客さんは、事前に同意書へサインしてもらうことにしている。
宮川真紀さん:
「当店では、お酒を飲まれる場合は、自己責任において過剰摂取にならないよう飲みます。少しでも異変があった場合は 当店の看護師または介護職員の判断で飲酒を中止します」

さらに、『飲みすぎないこと』『主治医に禁止されていないか』『家族などの緊急連絡先』も確認する。
■誤嚥性肺炎を防ぐ工夫も…要介護の人が利用しやすいよう店内は改装
茂木さん:
「皆さん、今日は仲良くしましょう!乾杯!思いっきり発散しましょう!」
88歳の茂木(もてき)さんは、88歳交通事故で足が不自由になり、3年前に老人ホームへ。それ以来、初めてのお酒だという。
茂木さん:
「ハハハハ!笑っちゃう!一口目の味は何とも言えねぇな。3年ぶり!」

こちらは女性チーム。お酒は飲んでいないが、すでに“気分はほろ酔い”のようだ。
女性:
「お茶がウイスキーに見えてくる。みなさんウイスキーだからね、おいしいね。ウイスキー、ウイスキー。やっとね、さみしい部屋からここに出てきたんだから。1人で部屋にいるよりか」

この店は、要介護認定を受けた人やその家族も利用できる。
自宅で母を介護する女性:
「(母が)要介護1なので、お着替えをしたりとか、お風呂も見守り必要。どっちにも息抜きが必要なので。お母さんも外出たほうがいいし、自分も外出たほうがいい」
以前は普通のスナックだった店を買い取り、手すりや休憩スペースを設けるなど改装した。誤嚥性肺炎を防ぐため、必要な人にはドリンクにとろみ剤を加えて提供していて、飲み物が気管に入りにくくしてくれる。

店では、介護の特性上、利用者の隣で対応しなければならない場面がある。
この行為が風営法上の「接待行為」にあたる可能性について警察に確認したところ、“法律上の問題はない”との回答があり、飲食店としての営業許可を取得して運営しているということだ。
■「人に会えないことはつらい」85歳女性にとっての介護スナックの存在は
この日が2回目の来店の近藤延子(こんどう・のぶこ 85)さん。
近藤延子さん(85):
「(老人ホームの食事は)塩気がないでしょ、病気の人がいるから。だから、こんなにおいしい塩気があるの食べたのはしばらくぶり」

近藤さんはかつて、地元高崎で歌手として活動し、カラオケ喫茶も営んでいた。
先立たれた夫との出会いも「歌」。まさに「歌」は人生そのものだった。

しかし、6年前に老人ホームに入所してからは、食事とデイサービス以外、ほとんどの時間を部屋で過ごしている。
近藤延子さん(85):
「みんながいるうちはお話ができるけども、1人お部屋に来ちゃったら、ご飯食べてここに来るとさ、寂しいじゃん。独りぼっちなんだから。人に会えないことはつらいですよね。みんな周りがどんどん亡くなっちゃう。寂しい、寂しい」

そんな中、心待ちにしていたのが、介護スナックだった。
この日は、情熱の真っ赤な衣装に身を包み、久しぶりのおめかしで舞台へ上がった。母への思いを胸に、心込めて『瞼の母』を歌った。

近藤延子さん(85):
「おとっつあーん、おっかさーん!ありがとうございました!いいね~介護スナック!」
■介護スナックの普及に“壁” それでも「自分が自分らしく生きるために」
店内が大盛り上がりとなる中、看護師ママの宮川さんが、お酒のお代わりを頼んだ男性をロックオン。
宮川真紀さん:
「早い!1回水を出して!いったんお冷を飲んでからにしましょう。早い、ちょっと」
乾杯からあっという間に2杯飲んだ男性に、ドクターストップならぬ“ナースストップ”だ。
男性:
「早すぎだよ」
宮川真紀さん:
「『止めますよ』ってわたくし言いましたよね。次につなげるためにね」
男性:
「じゃあこっち(水)でいいよ」

宮川さんはさらに、施設では食べられない刺身を頼んだ茂木さんが、なぜか手を付けないことに気付く。箸が使えないことを察し、すぐにフォークを差し出した。
楽しさの裏でそっと支える、看護師ママの“おもてなし”だ。
近藤延子さん(85):
「介護スナックってさ、こんなに楽しいとは思わなかったね。今夜眠くないよ~!」

高齢者が自分らしさを取り戻せる介護スナックだが、なかなか普及していないのも現状だ。
宮川さんによると、課題は大きく3つだという。
・要介護の方の飲酒に反対する声が多い
・新型コロナやインフルなど感染症リスクが高い
・慢性的な介護人材不足で スタッフの確保が難しい
実はこのスナックも、人手不足と感染症への懸念で、現在は店を開けるのは不定期となっている。
宮川真紀さん:
「介護職の人が、利用者さんがお酒を飲むってことは、ちょっとどうなのっていう風潮はもちろんあると思うんです。そこからコロナを出したのかとか、感染症に対しては皆さん敏感になってますので、ちょっと普及させづらい一端にはなっているのかなと思います」

今後も、この場所を大切にしていきたいと話している。
宮川真紀さん:
「自分が自分らしく生きるために、やりたいことを我慢してまで施設にいるっていうのは、ちょっと苦しい生活になるんじゃないかなって。こういう取り組みは、私は悪いことじゃないと思います」
2025年11月21日放送