
止まらない物価高、その影響は子供たちの給食にも及んでいます。“無償化”に向けての動きも進む中、東海テレビが東海3県の自治体に行ったアンケートでは、価格高騰に苦しむ現場の切実な声が多く寄せられました。
■物価高で給食費も高騰…独自アンケートで分かった“実態”
愛知県豊田市の東保見小学校、子供たちが待ちに待った給食の時間がやってきました。
【動画で見る】国が無償化進める中…現場悩ませる“給食費高騰” 独自調査で分かった実態 専門家「質が引き下げられては本末転倒」

この日は地元でとれた食材を使った「豊田ブランドの日」です。メニューはごはんに豚汁、ジャガイモを使ったコロッケなどで、生産者とともに給食を食べ、ジャガイモの育て方なども学びました。

児童たち:
「おいしいです」
「気持ちが結構伝わってくる」

子供たちの成長を支える給食ですが、豊田市では、保護者の負担は「0円」です。2024年4月から、小・中学校や保育園などを対象に無償化されました。
豊田市教育委員会の担当者:
「そこで浮いたお金、経済的支援を行ったお金で、子供の体験とか習い事の機会を増やしてほしいところで、無償化している」
2025年度、小学校の給食の「完全無償化」を行っているのは、愛知県で8、岐阜県で6、三重県で11の計25の自治体です。(東海テレビ調べ)

多くの自治体では食材の費用を保護者が負担していますが、頭を悩ませているのが「食材の価格高騰」です。
東海テレビは、愛知・岐阜・三重の全125の自治体に「給食」に関するアンケートを実施、寄せられたのは現場の切実な声でした。

「ギリギリの予算で何とかやりくりしている状態」(愛知県犬山市)
「国が示す栄養素量の確保が困難」(愛知県江南市)
「今年はクリスマスのケーキも出せません」(三重県四日市市)

さらにコストを抑えるため、「鳥もも肉をむね肉に変えた」、「冷凍野菜を使用する」、「国産から輸入品に変える」など、やりくりに苦心する回答もありました。
こうした努力にも関わらず、2024年度または2025年度に給食費の保護者負担額の値上げを行った自治体は、全体のおよそ3割近くにのぼっていて、すでに2026年度の値上げを決めている自治体もあります。
■「給食無償化」で合意も…無償化できない!?
そこで、国が子育て支援の1つとして始めるのが「給食の無償化」です。
高市早苗首相(12月12日)
「必ず来年の4月から、小学校段階で実施できるように頑張ってまいりたい」

自民・維新・公明の3党は12月18日、2026年4月から公立の小学校を対象に、給食費を無償化することで合意しました。
所得に関わらず、児童1人あたり月5200円を基準額として支援し、財源は国が実質全額を負担するとしています。
しかし、東海テレビが行ったアンケートでは、東海3県の少なくとも7つの自治体で、2025年度の保護者負担額がすでに月5200円を超えていて、全額を賄うことができません。

3党の合意では、基準額を超える場合、差額を保護者に負担を求めることも可能としていて、今後、各自治体で対応を検討することになります。
給食の問題に詳しい専門家は、こう指摘します。
千葉工業大学 福嶋尚子准教授:
「月々いくらっていうところは地方自治体によっても違うし、どの金額だったら十分とか、足りないかっていうのは一律にはやはり判断が難しい。『これでは無償化はとてもできない』という自治体も生まれてくるだろうと思います」

すでに無償化を行っている豊田市は、“給食の質の確保”が大切だと話します。
豊田市教育委員会の担当者:
「無償化でやっぱり1番影響受けるのは、子供だと思っている。給食が将来にわたっての食習慣の形成につながっていくので、正しい食習慣を身に着けるためにも、学校給食がお手本となるような食事であってほしいと思っています」
■献立を「1円でも安く」 IT活用した実験も
小学校向けにおよそ12万食の給食を作っている名古屋市では、2カ月に1度「献立作成会議」が開かれます。この日話し合っていたのは、4カ月後の2026年3月の献立です。

<会議でのやりとり>
「低く見積もって312円台なので、312円台ならいけるらしい」
「だいぶ減らさなあかん」
「ピーマンを抜くか、揚げ物安いのにする?」
「カレー麺抜いてみる?」
「でもカレー麺入っていた方がよくない?」
名古屋市では1食あたり264円を保護者が負担していますが、それでは賄えず、不足分は市が負担しています。市の負担額は、2025年度は1食あたり56円と年々増えています。
<会議でのやりとり>
「魚のフリッターとギョーザ2個だったら、どっちの方が安いですかね?」
「ギョーザの方が安いです、14円くらい」
献立の作成には予算だけでなく、栄養のバランスや彩りなど、さまざまなことに気を配ります。

さらに、一度に同じ食材を大量に使うことがないよう、市内を5つのブロックに分けて、献立を組み替えています。
例えば「きのこご飯とだんご汁」は、この週は3つのブロックで出されますが、同じ日に出されることはありません。こうした組み換えには様々な制約があり、担当者の悩みの種となっています。

そこで活用が検討されているのが「AI」です。名古屋のIT企業が参加し、実証実験が行われています。
システムサーバー 鈴木生雄社長:
「ものの3分で、こういった形のブロックごと毎日どんな献立にしますっていうのを出せるようにする」
実証実験では献立の組み換えだけでなく、4カ月後の野菜の価格を予測することも目指しています。実際の卸売価格と、気温や降水量、日照時間などのデータから「未来の価格」を予測しようという試みです。

給食の現場ではこれまでも献立を決めた後、食材の高騰でメニューを変更することがあり、こうしたリスクを減らすことが期待されています。
鈴木社長:
「労力が減らせて、もっと『給食をどうしていこうか』というところに頭が使えたり、一つの指針として、AIの力で客観的データとして示すことができれば、社会の納得も得ながら、充実した給食が提供できるようになるのではないか」
■「作る人がいない」 業者減少の“しわ寄せ”も
今回のアンケートでは、もう一つの課題も浮かび上がりました。
「食材を配送するドライバーが手配できなくなり、撤退した納入業者があった」(愛知県蒲郡市)
「業者の数が減り、品物の種類も減った」(岐阜県坂祝町)

豊田市にある「キングパン」の工場には、午前2時半、すでに明かりがともっていました。
キングパン 倉橋良幸理事長:
「午前3時くらいから作業してます。こちらがご飯を作っているラインになります、いまは給水をした後、これから窯に入る形の工程になります」

キングパンでは西三河地域の学校給食向けに、ご飯やパンおよそ4万食分を20人ほどで作っています。しかし、同業者が減り、仕事が増えるなどして、炊飯を始める時間がどんどん早くなったといいます。

倉橋理事長:
「高度経済成長の時代、数十年前と比べて半減以上、パンの業者の数は減ってる感じがします。1つなくなってしまうと、そこをカバーするために今までより負荷がかかった形で、他の残った工場で補完をしながら製造していくことが、大変なこともある」
愛知県内では主食を作る工場の数が年々減少し、2023年までの10年間で、ご飯は12、パンは7つの工場が廃止されました。

残った工場も、人手の確保に苦心しています。
倉橋理事長:
「若い人とかは比較的すぐやめてしまったりとか、連絡つかなくなって来なくなってしまうケースもありました。定期的に募集をかけてはいるんですけど、なかなかすぐに来てもらうことできないですし」
午前6時、ご飯が炊きあがると、次は配送です。
トラック1台あたり15校ほどを回ります。午前11時までにすべて配り終えないといけません。

子供たちの給食を支える、ご飯とパンですが、2025年は物価高の影響で、ご飯からパンへの献立変更や、子供たちに人気のリンゴチップ入りのパンから、食パンやコッペパンへの変更などを余儀なくされました。

倉橋理事長:
「お金を無償化することを重視することは、地産地消ですとか、こだわった給食メニューがどんどん少なくなってしまうのではないか」
給食の問題に詳しい 千葉工業大学 福嶋尚子准教授:
「給食の質がひき下げられて、無償が達成されるっていうのは本末転倒なことなので、国がいくら用意できるかとか、自治体がいくら用意できるかではなくて、『質が低下されないような食単価はいくらなんだろう』ってところから考えなきゃいけないはず」
今回のアンケートでは、給食の無償化について自治体からは歓迎の声の一方で、「食の“ありがたみ”が薄れるのではないか」、「食べ残しが増えるのではないか」など、心配する声も多く寄せられました。
子供たちの心と体の成長のために、給食はどうあるべきか、今後も議論が続けられます。
2025年12月19日放送