
愛知県尾張旭市にある老舗旅館を舞台に、ロックが鳴り響く一風変わった音楽フェスが開かれました。企画したのは、旅館の番頭として働きながらバンド活動も続ける34歳の男性。廃業寸前だった旅館に、音楽と人の熱気で再び活気を取り戻そうとする挑戦を追いました。
■老舗旅館に鳴り響くロック
尾張旭市にある創業73年の民宿旅館「さもと館」。
和洋合わせて20室とコンパクトなこの旅館で働く成瀬諒平さん(34)には、もう1つの顔があります。
【動画で見る】“ロックが響く大宴会”をイメージ…廃業寸前だった老舗旅館で『音楽フェス』一度は地元を捨てた番頭が呼んだ縁

普段は“番頭”。時には、“バンド”。インディーズバンド「AWANDA(アワンダ)」のギタリスト、Jim the Love(ジム・ザ・ラブ)としてステージに立っているのです。
成瀬さんは自らを「旅館在住ロッケンローラー」と名乗り、旅館業のかたわら、年間20本ほどのライブをこなしています。

現在、バンド活動と並行して、3代目の伯父のもとで修行中の成瀬さんが企画するのが「愛知宴会旅館フェス」です。
宴会場、ロビー、屋上と、旅館全体をフルに使った音楽イベントで、宿泊も可能。(和室4000円/人・洋室シングル5000円/部屋)

出演アーティストはメジャーからインディーズまで、約40組(勃殺戒洞(中村達也×中尾憲太郎)/水中、それは苦しい/踊る!ディスコ室町/KING BROTHERS など)。そのブッキングも、成瀬さん1人で手がけています。
■旅館でフェスを開く理由
なぜ旅館でフェスを開くのでしょうか。
成瀬諒平さん:
「(昔は)座布団を置いてテーブルをずらっと並べて、宴会スタイルで使っていたみたいです」
1952年創業の「さもと館」は、昭和から平成にかけて、目の前の森林公園でのスポーツ合宿や会社の慰安旅行などで大いににぎわいました。

3代目・成瀬範恭さん:
「バブルの頃はすごいお客さんで、今の3~4倍くらい売上があった。宿泊というより“料理旅館”という形で」
しかし、バブル崩壊後は“泊食分離”が進み、ビジネスホテルも増加。宿泊の形が多様化したところに直撃したのがコロナ禍でした。
コロナで増えたホテル・旅館の倒産は、その後は金融機関などの資金繰り対策もあり一時落ち着いたものの、2024年には負債総額とともに再び増加に転じています。

「さもと館」も、3代目の息子たちは跡を継がないことなどから、数年前に廃業を決意しました。
成瀬諒平さん:
「さもと館がなくなるの嫌だなって。“宴会”という形にすると、普段やっている音楽の場所とは違った化学反応が起きるなって」

そこへ、名古屋で働きながらバンド活動をしていた甥の諒平さんが戻ってきたのです。自分流のやり方で、もう一度「さもと館」に活気を。培った人脈を活かして企画したのが、宴会旅館フェスでした。
■イメージは“ロックが響く”大宴会
フェス当日の朝。外には、開演を待ちわびる長い列ができていました。宴会場、ロビー、屋上の3つのステージで、来場者はお目当てのアーティストの演奏を楽しみます。

出演したバンド(THE STONE AGE)のギタリスト:
「良さはお客さんとの距離感。一緒に宴会をやっているようなイメージ」
出演したバンド(the Tiger)のギタリスト:
「畳が最高」
出演したバンド(the Tiger)のボーカル:
「(旅館で)これだけたくさんのバンドが出るって聞いたことない」

女性客:
「東京から6時21分発の新幹線で来ました。(宿泊は)ここで早々と取って」
男性客:
「“和風パンク”的な感じで楽しい」
お酒におつまみ、舞う座布団。かつての宴会と姿は少し違いますが、2日間で200人以上が訪れました。
■ロックと地元、そして未来へ
成瀬さんがフェスを企画する理由は、もう1つ。小学校の卒業文集には、こう記されていました。
成瀬諒平さん:
「『いろいろな夢』というタイトルで。“1年生のときはこれ、3年生のときはこれになりたかった。でもあきらめました”、みたいな」
子どもの頃からネガティブな性格だったといいます。

成瀬諒平さん:
「中学2年のときに親が離婚して、病んでいた。その頃から抜け出せなくなって…」
どん底にいた少年がすがったのが、中学生で出会った「ロック」でした。
社会人になり、名古屋で職を転々としながらも、ロックだけは続けてきました。

成瀬諒平さん:
「地元が嫌で思春期をこじらせて、“ロックンロール”にずっと逃げて。(さもと館を)出ていったけど、ロックを通じて出会った人やモノを背負って帰ってきた感じ」
一度は捨てた地元へ、ロックンロールを相棒に“Uターン”。
成瀬諒平さん:
「名古屋で出会った人たちと地元の仲間、今まで過ごしてきた時間や場所がいい形で縁を呼んで。古い旅館ですけど、進化させていけたら」

さもと館100周年まではあと27年。
老舗旅館の歴史に、“旅館ロッケンローラー”が新たな1ページを刻みはじめています。
2025年12月12日放送