「お産難民出してはいけない」医師の高齢化や少子化等で分娩扱う施設減 国の医療計画では現実との間にギャップも

分娩をやめる医療機関が相次ぎ、身近な場所で出産できない「お産難民」への懸念が強まっている。特に地方では深刻だ。少子化による経営悪化と医師の高齢化が進むなか、安心して子供を産める環境をどう守るのか、各地で模索が続いている。
■最多分娩のクリニックも“閉院危機”
三重県津市の「セントローズクリニック」で、3人目の元気な男の子を出産した小林奈波さん(30代)。
小林奈波さん:
「上の子が小学校行っているので、春休みの関係で何とか新学期まではお腹にいてほしいなと思ってて。無事に始業式迎えた次の日にお産になったので一安心でした」
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セントローズクリニックは市内で最も多い分娩数を担っていて、医師や助産師などおよそ35人が、日勤と夜勤の2交代制で24時間対応している。
前身の「紀平病院」から78年目となり、これまで5万人以上の赤ちゃんの出産に関わってきた。ところが、ここ数年“閉院の危機”に陥ったという。
2025年まで院長を務めていた、紀平正道医師 (73)に話を聞いた。

紀平正道医師:
「自分たちも引退する年齢になってきた。産婦人科医にとってもお産が成り立たせていただかないと、お産を扱う先生がどんどんなくなるし、さらに少子化は進む。このまま続けても、いずれどんどん赤字が出る可能性がある」
打ち明けたのは、『医師の高齢化』と『少子化による経営悪化』だ。
紀平正道医師:
「(市内で分娩数が)一番多い所が急にお産をやめることになると、県庁所在地ですが“お産難民”が間違いなく出るだろうと。絶対にお産難民を出してはいけない」
病院の事業を引き継いでくれる先を探すなどした結果、2025年9月、同じ津市内で外来のみを行っていた産婦人科「三重レディースクリニック」に事業を引き継げることになった。
セントローズクリニックは現在、三重大学医学部付属病院の産婦人科などとも連携し、医師の派遣を受けて新たな体制で存続させている。院長には、新たに神元有紀医師が就任した。

神元有紀院長:
「津市の中でお産できる施設が減るということは、妊婦さんに対してご不便や不安なこともありますし、安心して出産できる場所を維持できればと」
妊婦:
「母の代からここの病院で生まれていて、私も兄もここで生まれているので安心感がある」
「最初から最後まで、先生も私の体を分かって頂いた上で産ませて頂けるのはありがたい」
■少子化で“負のスパイラル” 出生数は270万人→68万人に
ただ、セントローズクリニックのように事業を引き継げられるケースは珍しい。三重県内では、産婦人科の分娩取り扱いの中止が相次いでいる。
県によると、分娩を取り扱う医療機関は1996年には61施設あったが、2026年には“26”まで減少した。29市町のうち、現在18の自治体で子供を産める場所がない。

3人目の男の子を出産した小林さんも、過去にその影響を受けた1人だ。3年前に第2子を出産する際に松阪市の産婦人科に通っていたが、突然、分娩の取り扱いが終了した。転院を余儀なくされ、ここ津市のセントローズにたどり着いたという。
分娩取りやめが相次ぐ原因は、「歯止めのかからない少子化」だ。

国内の出生数は第1次ベビーブームの1949年に約270万人だったが、2024年は約68万人となり、統計開始以来で過去最少となった。日本産婦人科医会の中井章人副会長は、全国の産婦人科のうち、およそ4割が赤字経営だと指摘する。
中井章人副会長:
「“出生数の減少”が分娩施設を維持できなる大きな要因。分娩を扱うクリニックは、出産によって生計を成り立たせていますから。(2006年は) 3000カ所以上全国に分娩を取り扱う施設がありましたが、現在1800台に減少している。現在は大体1年間で100施設ずつ減少している」
少子化が経営難を生み、経営難がさらなる出産受け入れの停止を招く、負のスパイラルに陥っている。
■産める場所が「ゼロ」になった岐阜県下呂市では
下呂市では2024年、“子供を産める場所”がゼロになった。今この地域の妊婦を支えているのは、助産師の存在だ。
県立下呂温泉病院で働く、助産師の青木純子さん(53)。

妊婦:
「昨日から(胎動を)全く感じなかったので、だいぶ不安で…」
青木さん:
「心音のチェックとか、助産師はいるから。先生はいなくても」
下呂温泉病院は市内で唯一、分娩を取り扱っていたが、医師の高齢化などを理由に2024年10月に中止となった。分娩室はあるが、今は全く使っていない。
青木さん:
「当初はぽっかり穴があいた感じで、もう分娩できないんだなと。一番多かったときは1日に5~6件の分娩があった」

25年間、この病院で出産に携わってきた青木さんには、長年抱いてきた夢もあった。
青木さん:
「2人目3人目はここで産みました。孫もここで取り上げたいという思いも、若かりし頃にはあったんですけど…」
病院では現在、高山赤十字病院などからの医師の派遣を受け、分娩予定が近づく妊娠32週までの健診を行っている。そして、青木さんら5人の助産師が、妊娠中の悩みや産後ケアに当たっている。

下呂温泉病院 森田浩之院長:
「分娩がない中で5人の助産師が残ってくれていることは非常に心強い。妊婦さんや家族にとっても、助産師による手厚いサポートはできている」
■妊婦の情報を事前に登録…『ママ・サポート119』
下呂市で出産ができなくなり、ほとんどの妊婦は、車で1時間の高山市へ出向いて出産している。
下呂市在住の妊婦:
「妊娠中はいつ何が起こるか分からないところで不安に思う気持ちはある。できれば地元で産めたらいいなと思いますけど」
そんな不安を解消するため、市が2025年度から始めたのが『ママ・サポート119(イチイチキュウ)』だ。
事前に妊婦の情報を希望制で登録し、消防と共有。緊急時には、救急車で近くの高山市などの医療機関に搬送できる体制が整えられ、2026年4月には、この制度が初めて利用された。また、青木さんたち助産師も、救急隊員らに指導したこともある。

ただ、こうした支援もあくまで“遠くまで行かなければならない”ことを前提にしたものだ。国の医療計画では、市町村ごとに分娩施設がなくても、周辺の大きな自治体に頼る「二次医療圏」という範囲でカバーできればいいとされている。
下呂市の場合は、車で1時間離れた高山市と同じ「飛騨医療圏」となり、制度上、お産は守られていることになる。

しかし、2025年、高山市の医療機関へ向かう途中で、車の中で出産に至るケースが2件あり、妊婦も赤ちゃんも命の危険にさらされるケースも。さらに二次医療圏でも、分娩ができない地域が全国で出始めていると指摘する。
日本産婦人科医会 中井章人副会長:
「直近では二次医療圏を見ても全国で335ありますが、そのうち11の医療圏では、分娩施設がなくなっている」
何が起こるか分からない出産では、「制度」と「現実」にギャップも…。

青木さん:
「分娩が再開できればいいと思うけど、それは難しい時代なので、妊娠中や産後のママや赤ちゃんたちにちょっとでも寄り添って、不安を軽減できるように相談相手になれればいいなと思っています」
1人1人が安心して出産できる環境をどう守るのか。少子化が進むいま、突きつけられた課題だ。
2026年5月8日放送

