元刑事「Used in Japanがブランドに…」犯罪の温床にもなるヤード 経営者が恐れる“意図せず盗難車に関わるリスク”


 止まらない自動車盗。時に犯罪の温床にもなる「ヤード」の現場を取材すると、取り締まりの難しさと、業者側が抱える“見えないリスク”も見えてきた。千葉県警でヤード対策に関わった元刑事に、課題や今後の対策などについて聞いた。

■愛知県警の「ヤード立ち入り検査」に同行

 2026年5月、愛知県内の住宅地のはずれにある「自動車解体ヤード」に、愛知県警の捜査員らが立ち入りに入った。

一部が自動車盗の温床となっていると指摘される「ヤード」。警察と県の立ち入り検査に、同行取材が許された。

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ヤードの経営者との挨拶を終えた捜査員らが真っ先に向かったのは、トラックのコンテナの中に入ったグレーの車だ。フロント部分が布団のようなもので覆われている。

警察官が取引の記録と車台番号を照らし合わせると、中古車オークションで購入されたものとわかり、不正に取引された車ではないことが確認できた。

愛知県は2019年、千葉県などに続いて自動車盗の防止を目的とした「ヤード条例」を制定し、警察による原則抜き打ちでの立ち入り検査ができるようになった。

ヤード側に引き取る車の持ち主の確認を義務付けるほか、見えやすいところに標識が掲示されているか、従業員の名簿が備えられているかなどをチェックし、不備が改善されなければ罰則の対象となる。

愛知県警 国際捜査課 石川哲也次長:
「県内で盗難自動車がヤードから発見されていることもあるので、悪質な違法なヤードが犯罪インフラになっていることも事実。立ち入ることによって、ヤードの事業実態や関連施設を確認して、盗難自動車が持ち込まれないように環境を構築していくことに意義がある」

愛知県内には少なくとも200カ所のヤードがあるとみられ、警察によると、2025年の立ち入りは221件。原則抜き打ちだといい、各ヤードをおおよそ年に1回調べている計算になる。

一方で、県内の自動車盗の被害は2025年に1051件で2年連続のワーストだった。2026年はややペースは落ちているものの、全国最悪は続いている。立ち入りの効果は十分に出ていると言えるのだろうか。

■意図せず盗難車に関わるリスクも…ヤード経営者が取材応じる

 同行した立ち入り検査の対象となったヤードの経営者が後日、取材に応じてくれた。

ヤードの経営者:
「ここに40フィート(約12m)のコンテナをつけて、ここから後ろのドアを開けて物を詰め込む」

奥へ進むと、“事故車”のトラックが置かれていた。

ヤードの経営者:
「事故車ですね。元々冷凍車で、冷凍の箱はモンゴルに持っていったら“逆保冷”で野菜を保管しても凍らないからそのまま使えるし。あとは、右のドアとか足まわり、エンジンは使えるから、部品として輸出する」

このヤードの車の8割以上は中古車オークションから仕入れ、そのほかは長年取引する解体業者などからの買い取りだという。

車は解体してパーツを取り出すなどして大半を海外に輸出しているが、意図せずに盗難車の流通に関わってしまうリスクが怖いと話す。

ヤードの経営者:
「一番の被害者はもちろん盗まれた人だけど、その次は輸出した我々。税関で見つかって『コンテナ開けろ』と言われて、買ってきた車が(盗難車なら)警察に没収される。(盗難車かどうか)どこかで調べたいけれど、我々としては調べる方法がない」

悪質なヤードを取り締まってほしいとしつつ、警察の立ち入りの効果には“限界があるのでは”と話す。

ヤードの経営者:
「立ち入りをしたからといって、ほとんど対策にはならない。『盗難車扱っていませんか?』とまともに聞いてきても、扱っている人は『扱ってない』と答えるし、扱ってない人は当然『扱ってない』と言う。プレッシャーを与えるという意味では良いんだろうけど。(盗難車の解体を)やろうとしている人たちだったら、隠れていくらでもできちゃう。(もし盗難車を扱うなら)どっかから持ってきてコンテナにさっと入れちゃう。やるんだったらね。やらないけど」

■元刑事「そろそろ全国的な法律として規制する必要」

 こうした立ち入り検査の課題について、千葉県警の元刑事で、ヤード対策のプロジェクトチームのリーダーだった森雅人さんに話を聞いた。

Q.真面目にやっている業者にとっては迷惑だと
森雅人さん:
「ヤードが一括りに悪い、と思われてしまいがちです。適正に運営されているヤードもあるので、そういった経営者の方にとっては、非常に迷惑な話だと思います」

Q.千葉県警時代に森さんも立ち入り検査を経験
「立ち入りが主な仕事で、実態把握の時代でしたので、とにかく立ち入りを行うということをやっていました」

Q.ヤードの実態把握や取り締まりで難しい点は?
「立ち入りをすれば実態把握自体はそんなに難しくないのですが、取り締まりの観点から言うと、ヤードに盗難車が持ち込まれるのは“夜間帯”が多いんですね。立ち入りは経営者の方の協力を得てやるものなので、常識を外れた深夜の時間帯に立ち入りすることは物理的に不可能です。そういった点では、取り締まりに関しては中々難しいところがあります」

Q.“なぜ夜に来るのか”という根拠のようなものがないと、難しい?
「しっかりとした理由がないと、いうところですね。もちろん犯罪情報があれば、裁判所から許可状をもらって、立ち入りではなくいわゆる“捜査差し押さえ”として行く場合もあります」

Q.立ち入りが摘発に繋がるようなきっかけになった場合もあった?
「ヤードの業者からしてみれば、警察の監視がしっかり行われるようになったというイメージを持たせる効果があります。私が立ち入りに行った時だと、そこに盗難車両があって摘発したケースや、よくあったのが外国の方がやっているケースが多くて、不法滞在者がそこにいたなどの事件になるケースは意外と多くありました」

Q.“盗難車でないことを証明しないと扱えない”など、何らかの網を掛ける方法はない?
「そのためにヤード条例が次々出てきていて、盗難車と分かった上で買い取ってはいけない、しっかり買い取った記録を残しておきなさい、といったことを整備するための条例でもあります」

Q.ヤードの実態把握や適正化のための条例はいくつかの県にあり、それぞれ施行されている。森さんは2015年の全国初のヤード条例に関わったが、当時どのような狙いがあった?
「残念ながら当時、千葉県に不正ヤードが密集してしまっていて、悪名高い県になってしまったという背景がありました。県としても本腰を入れてヤードの実態把握をし、適正に運営させなければいけないということで、全国に先駆けて条例化したという形です」

Q.その後の条例のモデルケースになった?
「ヤード条例ができている県というのは、残念ながら自動車盗が多い県になります。そのモデルケースとして、千葉県の条例を参考にしていただいているのだと思います」

Q.盗難が多い県や地域に共通点は?
「港が近いことや、高速道路がしっかり整備されているところ。盗難車を素早く運びやすい特徴が似ています」

Q.狙われるのは特定の車種に集中している。特にトヨタ車が…
「CANインベーダー(車のカギ代わりになる装置)は特定の車種に適合したものになっていて、現在使われているものが、残念ながらトヨタ車に適合するものになってしまっているため、特定の車種が集中的に狙われているのが現状です。外国では特に、トヨタ車や『Used in Japan』がブランドになっていて、日本で使われた車は非常に良い車だというイメージを持たれているためです」

Q.年1回の立ち入り検査で十分なのか。また、実際のヤードの摘発や取り締まりをより強化するような方策や、法律も含めて何か考えられることはあるのか?
「愛知県は年1回ペースの計算ということだが、実際はもう少し不定期に行っているとは思います。やはり立ち入りの件数を増やし、警察がしっかり監視していることを示すこと。あとは、警察だけでなく、県や市などの行政機関を巻き込んで立ち入りを強化することがとても大切だと思います。また、現状は都道府県単位の条例で規制していますが、千葉県が2015年に作ってからこれまでの間に色々なケースを見てきて、そろそろ全国的な法律として一律的に規制する必要があると考えています。“いたちごっこ”にならないためですね。千葉県で厳しくなったから他の県へ逃げるといったことがないようにしなければいけないと思います」

東海テレビ「ニュースONE」では、自動車盗についての取材を続けています。car@tw.tokai-tv.co.jp まで情報をお寄せください。

2026年6月24日放送

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