「被害者を見捨てない」交通事故で重度の後遺障害残った患者を受け入れる専門病院 民間医療の“限界”を補完

交通事故による死者は、車の安全装備の普及や医療の進歩により年々減少し、去年は2547人となりました。
一方で、一命はとりとめても重度の後遺障害が残り、社会復帰が困難となる人の数は、毎年およそ1700人います。そうした重度の患者を受け入れる専門病院が、岐阜県にあります。
■「ながら運転」のトラックに…奪われた“親子の日常”
息子の手を握りしめ、話しかける母親。しかし、11歳の息子「こうちゃん」が返事をすることはありません。

こうちゃんの母:
「お迎えに行ってあげていたら、こんなことにはならへんかったかもなという後悔もどこかにあって」
2024年3月、滋賀県野洲市。当時小学2年生だったこうちゃんは集団下校中、青信号で横断歩道を渡っていたところを、“ながら運転”の2トントラックにはねられました。

こうちゃんの母:
「それこそ本当に生きるか死ぬか」
一命は取り留めたこうちゃん。しかし、脳損傷により自分で移動や食事ができないだけでなく、意思の疎通もほとんどできない「遷延性(せんえんせい)意識障害」となりました。
Q.コミュニケーションはまばたきや手の握りで?
こうちゃんの母:
「そういうのはない。イエスだったら握り返して…という感じでもない。自分たちの自己満足かもしれないけど」

3年前の誕生日は、家族でケーキを囲んでお祝いしました。
こうちゃんの母:
「私たちの中で、小学2年生のまま止まってしまっているので」

あれから時が止まったまま。家族の切なる願いは…。
こうちゃんの母:
「この子が幸せに思えるような、穏やかに過ごせるような生活を送らせてあげたい」
■被害者を見捨てない…「交通事故専門病院」がつなぐ“希望”
滋賀県内の病院を経て、事故からおよそ9カ月後に入院したのが、岐阜県美濃加茂市にある中部療護センターでした。
中部療護センターは、こうちゃんのように交通事故で遷延性意識障害などになった患者の治療やリハビリを行う専門の病院で、原則3年間入院することができます。

中部療護センター長の矢野大仁さん:
「なかなか一般病院で3年間のリハビリは、通常許されないことが多いと思います。悲惨な事故の被害者になる方は決してゼロにはならないわけで、その方々を見捨てない」
ベッドは50床あり、病棟は仕切りをなくして全体をワンフロアにしています。患者の多くはナースコールを自分で押すことができないため、看護師たちがフロア全体を見渡し、患者のわずかな動きも見逃しません。
11歳から89歳までの入院患者38人に対して、看護師らスタッフは52人。手厚い体制で患者に寄り添います。

この施設に至るまでに、患者の家族の多くはある壁に直面したといいます。
入院患者の息子:
「“交通弱者”というか、この状態の(患者を受け入れる)病院や施設が少ない」
民間の病院は、手術や救命など急性期の治療が中心で、3カ月を超える入院は病院の負担が大きく、患者に転院を迫らざるを得ない事情があります。
一方、療護センターはそもそも重度の患者を受け入れ、時間をかけて回復を目指すための専門施設で、いわば民間医療の限界を補完しているのです。

音楽療法など最先端のアプローチも用いた治療により、これまでにおよそ27%の患者が、何らかの手段で意思の疎通ができるまでに回復しているといいます。

こうちゃんの母:
「この子がこんなに頑張っているのに、私たちが何もしないのはダメだと思うし」
入院期間は原則3年。こうちゃんの退院まではあと1年で、その後は自宅で迎えられるよう、家族も準備を進めています。
こうちゃんの母:
「またお家に帰ってきた時に、『やっぱりお家がいいな』と思えるように、今はお家をリフォームするとか受け入れ体制をつくる」

この9月で11歳になった「こうちゃん」。
交通事故の被害者を見捨てない。家族とともに支える病院があります。
■民間の医療に限界…患者と家族を支える専門病院
美濃加茂市の施設のような、交通事故による重度障害の患者専門の病院は、全国に12カ所あります。

美濃加茂市のような療護センターは、仙台・千葉・岡山とあわせて4カ所、療護センターに準じた治療と看護をする委託病床が8カ所あり、愛知県の藤田医科大学病院にも設置されています。
これらを運営しているのが、国交省所管の独立行政法人・NASVA(=自動車事故対策機構)です。交通事故による遷延性意識障害の患者は、民間の病院で長く受け入れるのは難しいため、NASVAの療護センターや委託病床があるわけです。
その財源は、自賠責保険の保険料から積み立てられているお金でほぼまかなわれていて、民間の医療の限界を国が補完している例といえます。

