【内容】
鵜飼で知られる清流、長良川。その河口に、巨大なキノコのような建造物が林立している。『長良川河口堰』。川と海を隔てる全長661メートルの堰。
その建設を巡って、推進派と反対派が激しく対立したが、国策は、一度、走り出したら止まらない。河口堰は1500億円を投入して建設され、本格運用されて、すでに16年が過ぎた。海と川を遮断する堰の目的は、初めは、利水=産業の集積地である名古屋圏への水の安定供給のためだったが、すぐに治水=長良川上流部の洪水対策へと変わり、川底を浚渫することで海水が遡上して、下流・中流部まで塩害が及ぶことを防止するためなど必要性が変転した。建設を推進したのは、国土交通省=水資源機構を始め、愛知・岐阜・三重・名古屋市などで、川漁師を中心とする漁業協同組合と自然保護団体は激しく反対した。しかし、河口堰ができて16年、建設を推進した愛知県と名古屋市が、開門して調査すべきだと堰の不要論を唱え始めた。
「その手は、桑名の焼き蛤…」
この番組の主人公は、雄大な長良川と桑名の漁師たちである。長良川河口部の三重県桑名市の赤須賀漁協。はまぐりとシジミの漁で、生計を立てている漁師たちは、最後まで、河口堰の建設に反対したが、「漁師のエゴ」とまで批判され、孤立し、最後は堰の建設に同意させられた。その組合長、秋田清音(70)さんは、この16年、どうあれ、河口で生きていける道を漁師の意地で模索してきた。いまでは、はまぐりの漁獲量も安定し、若い漁師のなり手も出てきている。開門検討の公聴会で、秋田組合長は、こう発言した。
「私は河口堰の是非について語ろうと思いません。先人達が裁判の中、色んな折衝の中で語りつくしてきました。私たちこれまで深い挫折感の中で、岐阜県の水害防止、愛知県の水利用など、公益に役だっている事を心の慰めにしてきました。今回そうではないという結論が出るようなら、是非とも生きとし生けるものの揺りかごだった長良川で浚渫された2千数百ルーベの砂を川に戻して下さい。公益とは何ぞや、私たちにヒアリングをされるのなら、建設を推進された愛知県、名古屋市の方々にまず聞かれるのが筋ではないでしょうか。」
自然は、確かに大事である。そして河口堰も一定の役割を果たしたのかもしれない。しかし、河口の漁師のその後に目を向けることはなかった。