演目

昼の部(午前11時開演)

 工藤祐経の館。富士の巻狩りの総奉行に任じられた工藤が祝宴を催し、多くの大名が集っているところへ、曽我十郎と五郎の兄弟が対面を願い出ます。彼らは工藤が討った河津三郎の忘れ形見。今にも父の仇を晴らそうとする五郎を十郎が止めると、工藤が仇討ちよりも源氏の重宝友切丸の探索こそが重要と説きます。そこへ兄弟の家臣である鬼王新左衛門が駆けつけ、行方不明となっていた友切丸を工藤へ差し出します。工藤は兄弟に討たれる覚悟で狩場の通行証を与え、再会を約束して別れるのでした。

 飛脚問屋亀屋の養子である忠兵衛は、井筒屋抱えの遊女梅川と深い仲。身請けの半金が工面できずに窮しているところへ、梅川に横恋慕する飛脚仲間の丹波屋八右衛門が現れ、梅川を身請けすると言い出します。忠兵衛への悪口雑言を繰り返す八右衛門と、それを聞きつけた忠兵衛が言い争ううち、忠兵衛が懐に預かり持っていた大事な公金の封印が切れ…
 玩辞楼十二曲の内の一つで、近松門左衛門の『冥途の飛脚』を基にした『けいせい恋飛脚』を歌舞伎化した作品です。

 山王祭の日。屋台囃子が賑やかに聞こえる中、町に戻ってきたのは、ほろ酔気分のいなせな鳶頭。上機嫌の鳶頭は、なじみとなった女性との惚気話を始めます。そして、若い者たちが鳶頭に打ってかかるのを振り払う賑やかな所作立てとなります。江戸の大祭を題材にした、粋と情緒をたっぷり描いたで洒脱な華やかな清元の舞踊です。

夜の部(午後3時30分開演)

 吉野山中の川連法眼の館に身を寄せている九郎判官義経のもとに、佐藤忠信が参上します。義経は忠信に静の行方を尋ねますが、忠信は覚えがない様子。そこへ静と共に義経が参上した事が伝えられます。実は先に来ていたこの忠信は狐で、親狐が初音の鼓の皮に用いられているのを知り、忠信に化けて静に付き添っていたのです。親を想う子の情愛に心を打たれた義経がその鼓を与えると、喜んだ狐は鼓を手に古巣へと帰って行くのでした。
 本物の忠信から狐忠信への早替りや、狐言葉などの演出に加え、親を思う子の情愛の表現も大きな見どころです。

 浜松屋に武家の娘と供侍が婚礼の品を選びにやってきますが、娘は万引をしたとの疑いをかけられ打ち据えられます。ところがこれは店の者の誤りだったことがわかり、店側を強請りますが、それを玉島逸当という侍が呼び止め、娘が男であると見破り、実はこの二人が盗人だということが露見します。しかし玉島逸当こそ盗賊の首領・日本駄右衛門で、浜松屋の金を奪い取ろうとする企みでした。その後、追っ手を逃れ、稲瀬川に勢揃いした白浪五人男は名乗りをあげると…
 河竹黙阿弥の七五調の名台詞の数々で魅了する世話物の人気狂言をお楽しみください。

 壬生川のほとりの野に棲む狸は、島原の深雪太夫に岡惚れしてしまいます。何とかして太夫の心をつかみたい狸は、太夫が憧れている舞の師匠の姿に化けて太夫のもとを訪ねていきます。そして日頃の思いを打ち明けると、日ごろから師匠への片思いに苦しんでいた太夫はその言葉を聞いて大喜び。そんなある日、二人の前に本物の師匠が現れ…
 太夫に惚れた切ない思いをユーモラスな踊りで描き出すところが見どころ。後半は純情一途な狸の姿をしんみりと描きます。おとぎ話のようなのどかな展開の中に笑いと哀愁が漂う作品です。