高井アナの空言舌語

東海テレビアナウンサー高井一が、正しい日本語の読みや、謂れをご紹介します。

2003/7/4
三十、
慣用句
 先日、文化庁が日本語世論調査の結果を発表しました。そのなかで慣用句の「流れに棹さす」「役不足」「確信犯」の三語は、間違った意味で覚えている人が特に多いと指摘されました。
  「流れに棹さす」=【傾向に乗って、ある事柄の勢いが増すようにする】を《傾向・時流に逆らう》との誤解が64%もありました(正解は12%)。
  「役不足」=【本人の力量より役目が軽すぎる】を《役目が重い》と誤解は63%(正解28%)。
  「確信犯」=【政治的・宗教的信念に基づいた犯罪】は《悪事だと認識しての犯罪》の誤解が58%でした(正解16%)。
  これらの例は正解より誤解の方が圧倒的に多く、アナウンサーが正しい意味で使っても、視聴者の多くは意味を取り違えることになります。放送で使う時は特別な配慮が必要になります。
  最近誤用が拡大している言葉に「鳥肌が立つ」があります。鳥肌は恐怖や寒さのせいで立つことから、【ゾッとする】という意味で使われます。
  しかし、最近では強く感動した場合に「鳥肌が立つ」と使う人が増えてきました。放送でも時々この用法を耳にします。これではそのうちに「鳥肌」=「感動」と思う人の方が多くなるかも知れません。
  「実際に感動して鳥肌が立ったから仕方ない」と言う人もいます。確かに生理的にはそういうこともあるでしょう。しかし、慣用句の用法は伝統的、比喩的なもので、実際の生理現象とは別問題です。
  長年培われた語感・用法に照らすと、感動の場面に「鳥肌が立つ」は不似合いで、的外れな表現と言わざるを得ません。
  ですから、「実際にこうだから」と慣用句の解釈・用法に自己流を持ち込むのは、それこそ横車を押すことになってしまいます。
  もちろん言葉は常に変化し、誤用が一般化することも珍しくありません。これは何度も書いてきました。しかし、慣用句はもとの意味を離れて特別な意味を持つところに妙があります。慣用句こそ、律儀で不変の解釈と用法が望まれます。