高井アナの空言舌語

東海テレビアナウンサー高井一が、正しい日本語の読みや、謂れをご紹介します。

2004/5/6
四十九、
防犯・対策
 このコーナーの読者からメールが届きました。「ニュースなどで『防犯対策』という言葉を聞きますが、空巣をする人が犯行をうまくするための方策のようにも取れます。犯罪被害に遭わないための対策なら、『犯罪対策』の方が言葉として正しいのではないでしょうか?」
 このご意見には一理あるようにも思えます。ニュースに登場する「△△対策」を拾い出してみると、多いのが「地震対策」「テロ対策」「不況対策」のように、社会にとってマイナスのことへの方策を示す用法です。この使い方は誤解もなく問題ありません。
 一方、メールでご指摘のあった「防犯対策」と同じなのが、「防火対策」「防寒対策」などです。もちろん意味としては、「防」に続く「犯・火・寒」を「防ぐための方策」です。いずれも冒頭の「防」が余分と言えば余分で、誤解を招く要因となっています。おかしな用法と言えなくもありません。
 この他、「防」は付かないものの、「ゴミ減量対策」「交通安全対策」「水質浄化対策」などがあります。「防犯対策」と同様に、よく考えてみると逆の意味にも取れます。もちろん意味としてはプラスの「△△を実現するための対策」という用法です。
 文字そのものには直接表現されていなくとも、省略あるいは隠されている意味を斟酌して理解するのも日本語の特徴のひとつです。今回の場合は「〜のための」がこれにあたります。こうして考えると「防犯対策」は完全に間違い表現とは言えず、通常は「犯罪を防ぐための対策」と理解しています。
 ただし、ニュースで使う言葉は分かりやすく誤解のないことが大原則です。いつでも「防犯対策」で済ませるのではなく、場合によっては「空き巣対策」「痴漢対策」など、具体的・直接的に表現する方が適切と考えます。何も考えず疑問も持たずに使っている言葉がいかに多いか。届いたメールに、色々と考えさせられました。