高井アナの空言舌語

東海テレビアナウンサー高井一が、正しい日本語の読みや、謂れをご紹介します。

2006/3/24
九十一、
首元
 この春は強い寒の戻りがあり、コートやマフラーなどを手放すことがなかなかできませんでした。
  そんな思いがけず寒い朝のこと。あるテレビ局のお天気お姉さんが「寒の戻りで冷え込んでいます。首元(くびもと)が寒くならないよう気をつけて下さい」と話していました。でも、これはチョッと変。「首元」とは初めて聞く言葉、辞書にもありません。
  考えてみると、身体の部分に「元」をつける語は結構あるものです。「目元」「耳元」「口元」「喉元」「手元」「胸元」「膝元」「足元」……いずれもよく聞く言葉です。身体のある部分を示したり、その近くを表したりします。
  珍しいものでは「舌元」「鼻元」もあります。お天気お姉さんは、これらに倣って「首のあたりだから首元」と発想したのでしょうが、残念ながらこの場合は「襟元」と言うべきでした。
  勘違いをしやすいのが「手元」と「足元」。身体の部分を指すのではなく「手の届くあたり」「立っている足のあたり」と、そのあたりの空間・場所を示します。従って「手元にある」は、実際に手に持っていなくても、身近な場所に所有していれば使える表現です。
 特に誤用が多いのが「足元」。元来「足下」と書くように、足そのものを示す語ではありません。しかし「足元をすくう」とよく使われています。足元(の地面)をすくうものはスコップで、相手を倒すには「足をすくう」でなくてはなりません。同様に「ぬかるみに足元を取られる」も誤用で、取られるのは「足」です。
  「△△元」はストレートに身体の部分を示す使い方より、「耳元でささやく」「手元に置く」「足元に火がつく」のように、比喩的に使った時に味が出るようです。