かつて「日本一小さな村」と呼ばれた旧富山村、愛知県豊根村の富山地区。人口がわずか74人の小さなこの地区で、ある町おこしの企画が始まっています。

 使うのは、山に植えられて放置されていた大量の「ゆず」です。

■話題満載の小さな愛知の村が“ゆず”で町おこし

 チョウザメが村の人口を超えたり、本格的なドイツパンのお店が大混雑したりと、今何かと話題を集めている、愛知県の豊根村。

 そんな豊根村で新たな町おこしの取り組みが…。

 大勢の人たちが夢中で見上げる先にあるのは、たわわに実った黄色の“ゆず”!

 愛知県の最東端の富山地区で2019年11月17日、ゆずの収穫イベントが開かれました。

 あっという間にカゴいっぱい収穫されたゆずが、町おこしに使われます。

 愛知県新城市でヒノキやスギといった地元の木などからエッセンシャルオイルの製造・販売をしている阿部晃さん(57)。

ランド社長 阿部晃さん:
「ゆずの皮っていうのは保湿性がありまして、ハンドクリームっていうのは保湿性があることによって成り立ちますのでハンドクリームをつくろうかなと」

 2019年6月、富山地区でゆずと出会った阿部さんは、同時にこの地区の現状も知ることにもなりました。

■「日本一小さな村」の収入源だった“ゆず”…高齢化で危機

「日本一小さな村」と呼ばれた旧富山村は、林業で栄えた1920年には、1500人ほどが暮らしていました。

 しかし、1956年にできた「佐久間ダム」によってかつての村の中心部が飲みこまれると産業も衰退。村人は出て行きました。

 富山村は2005年に豊根村と合併しますが、過疎化は続き、現在の人口はわずか74人。

 2015年には村唯一の小中学校は廃校となり、2人に1人が60歳以上となっています。

 富山地区に住む村岡さんに案内してもらうと、いたるところにゆずの木がありました。およそ110本あるといいます。

 富山地区は日当りのいい急斜面と、栽培のしやすさから、ゆずを貴重な収入源として育ててきましたが…。

富山地区に住む村岡さん(66):
「高齢化していますので、畑自体に手が入らないという。それで放棄しちゃうっていう現状ですよね」

■“ゆず”でもう一度、富山地区に活気を

「ゆずのハンドクリームを作る」と話していた阿部さん。実は放置されたゆずを商品化して、富山地区を活気づける狙いもありました。

 この日は、新城市長を訪ね、温泉やスイーツなどゆずの他の活用法も説明。阿部さんは、さらなる展開も視野に入れています。

 阿部さんは11月に富山地区でゆずの収穫イベントを企画。インターネットなどで参加を募ると、県内外からおよそ260人が集まりました、人口の3倍以上の人数です。

 子どもからお年寄りまで、収穫を楽しみました。

名古屋から来た子供:
「30個ぐらいとれました。(学校の友だちに)ゆず狩りに行って来たよ、楽しかったよっていいます」

富山地区の村岡さん:
「富山のファンがひとりでも増えてくれれば、このイベントをやった甲斐があります」

 この日収穫できたゆずは、1万6千個以上!当初見込んでいた2000個を大きく上回りました。

 これまで放置されていたゆずがハンドクリームに姿を変えます。

ランド社長 阿部さん:
「イベントで終わらせない。商品化したものを『どこでできてるんだ』と、富山へまた来てもらう。そういう一つのベクトルがしっかりできればやっぱり嬉しいじゃないかと、そう思います」

 人の手を離れ、静かに実り続けたゆずが、再び地域ににぎわいを呼ぶきっかけになるかもしれません。

 今回収穫されたゆずを使ったハンドクリームは、2020年2月から豊根村や新城市のほか名古屋などで販売を開始する予定です。

 また、ハンドクリームに使うのはゆずの皮と種だけで、実は地元の農協などでドレッシングなどに加工して販売され、売り上げの一部が富山地区に入るということです。

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