コロナ禍で音楽を取り巻く環境は大きく変わりました。2017年にメジャーデビューした名古屋の2人組のバンドは、コロナ前には年間150本のライブを行っていましたが、2020年は5本と激減しました。

 新曲のレコーディングも中止となりCDの発売も白紙になりましたが、母校の音大と一緒に制作した楽曲をYouTube配信するなど、苦しい中でも自分たちが信じた音楽を届けています。

■年間150本行ってきたライブは5本に…結成10年目を迎えるバンドを襲ったコロナの影

 バンド「Qaijff(クアイフ)」は、ボーカル・ピアノ担当の森彩乃さん(33)とベースの内田旭彦さん(33)の2人で名古屋を拠点に活動しています。

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 2012年に結成されたこのバンドは、2016年から名古屋グランパスエイトの公式サポートソングを担当。その翌年に念願のメジャーデビューを果たし、日常をテーマに歌い上げる楽曲は若者を中心に支持されています。

 しかし、結成10年の節目を前にバンドの先行きは、新型コロナの大きな影に覆われています。

ベースの内田さん:
「社会の音楽の立ち位置って、“不要不急”と言われ続け…。生活の一部としてライブをやってきたけど、それが強制的にできなくなって…。バンド続けている意味って何だろうみたいな…」

 活動の主軸だったライブは、次々と中止に…。コロナ前には、日本各地で年間150本ほど行っていましたが、去年はたったの5本に…。

多くのスタッフが集まる新曲のレコーディングも所属会社の方針で中止となり、予定していたCDの発売も白紙となりました。

 そこに追い打ちをかけるようにドラムのメンバーが体調を崩し、バンドを離れてしまいました。

■制限がかかりすぎて息苦しい…所属していたレコード会社を辞めることを決断

 コロナ禍で音楽をするということ…。この時期を、空白の期間にするのか意味のある時間にするのか。大きな決断でした。

森さん;
「(レコード)会社全体で決まりごとってなっていると、所属してる身分だと聞くしかない。(ライブも)自分たちで対策してやればできるのかなって思っても、やっぱりそれはもう決まりなので…」

内田さん:
「今までいたレコード会社を辞めたことですね。制限がかかりすぎた状態になっていったから、あまりにも息苦しい」

 自分たちが思い描く活動を続けていくために、所属していたレコード会社を辞め、2人は再スタートしました。

■作詞のアイデアノートに書きなぐられた生々しい気持ち…コロナ禍で変わる歌詞や表現

 今できることを、自分たちのペースで…。思っていることはすぐに届けたい。SNSを使った“リモートライブ”を企画しました。

 新型コロナに覆われて変わってしまった環境が、歌詞にも大きく影響しました。「怒り」、「見えないハンマーになぐられてる」…。作詞のためのアイデアノートに書きなぐられた生々しい今の気持ち。

森さん:
「明るいもので楽しませてほしいって人もいるし、痛みとか苦しいのに寄り添って救われたい人もいるから…。そういう意味でどんなメッセージを生み出すべきだろうって…」

<「春よ 終わらないで」の歌詞>
春よ 終わらないで 今きみに会いたいから
春よ 終わらないで 黙って 去っていかないで
どれだけ画面越し 繋がったって
どれだけアイラブユーを 送り合ったって
敵わないことくらい 僕ら知ってる
ぬくもりには

 コロナが変えてしまった状況に反発し、強がり、隠していた弱さを肯定的に捉え始めました。

■母校の音大と合作した楽曲をYouTubeで配信…信じた音楽を発信し続ける

 歌詞にぴたりとはまる曲を作るために、ボーカルの森さんの母校・名古屋音楽大学のオーケストラに声をかけ楽曲を制作。すぐにYouTubeで配信しました。

内田さん:
「今まで反応していなかった人からも反応があったり、届いてなかった所まで今回広がったなと…。もっともっと音楽の楽しみ方の選択肢が増えたし、増やしていきたい」

 今やれることは、今だからこそできること…。手探りで前へと進み続ける中で迎えた7月末のライブ。感染症対策として、観客250人収容のライブハウスへの入場者数を100人に制限し、2部制で行いました。

女性ファン:
「違うクアイフを見せてくれたかなって…。自分を肯定するだけじゃなくて、さらに努力して肯定できるように頑張ろうって思います」

別の女性ファン:
「元気がもらえる。落ち込んでいる時も、聞けば元気になってまた明日からも頑張ろうって思える」

 しかしこの日以降、新型コロナを巡る状況は悪化。ステージは更に遠ざかっていきました…。

内田さん:
「何か少しでも、ポジティブな要素がこの期間になければ、本当に何もないなって思ったんですよ」

森さん:
「いいところも見つけないと、変化を受け入れて…。知らないところで色んな人が、自分たちの音楽を聴いて何か感じてくれたらいいなって思いますね」

「人の人生に影響を与えられる音楽を続けていきたい」。内田さんと森さんは、どんな状況になっても自分たちが信じた音楽を発信し続けます。