愛知県碧南市に、遠方からも客が訪れる人気の天津甘栗の専門店があります。この店は、4年前まではほとんど知られていませんでしたが、職人である父の焼く栗を愛する息子の様々なアイデアで、今や年間120トンを販売する超人気店になりました。

■この道40年の栗焼き職人が焼く人気の「天津甘栗」

 愛知県碧南市。名鉄三河線「碧南駅」から車で約5分のところにある天津甘栗の専門店「衣浦食品」。新栗が入荷され一番美味しいこの時季には、たくさんの客が訪れます。

【画像20枚で見る】『天津甘栗』だけに特化し年間120トン販売する人気店に 父のこだわりと息子のアイデア

女性客:
「甘くて美味しいので、子供がたくさん食べる」

男性客:
「栗が大好きで。食べてから、ここの栗しか買わなくなった」

別の女性客:
「初めて食べた時、結構衝撃的だった。美味しいなと思って。安いし」

 天津甘栗を手がけるのは、この道40年の栗燒き職人の小林清二さん(71)です。数年前まで知る人ぞ知るお店だったのが、今や年間120トンを販売するまでの店になったのは、父・清二さんのこだわりと息子・高志さん(41)の想いがありました。

■焼き損じた場合は窯の栗全て廃棄に…焼き上がりを見極めるのは職人の勘

 朝6時。お店を訪れると、すでに栗を焼く清二さんの姿がありました。この日は、午前4時から作業を始めたといいます。

清二さん:
「どうしても間に合わないんですよ。嬉しい悲鳴です」

 午前6時半。お店に1台のトラックがやってきます。「衣浦食品」では、中国の河北省の品質の良い栗を厳選して使用。この日はおよそ2トンが運び込まれました。

 ちょうどこの時季は「新栗」のタイミングとあって、まさにベストシーズン。店先に置かれた3台の窯を使って約1時間かけてじっくりと焼き上げていきます。

 水分量と熱さ加減のコントロールは難しいと話す清二さん。天津甘栗づくりに欠かせないという「水あめ」を加えていきます。甘さを出すためかと思いきや…。

清二さん:
「栗と石が絡まって上手に混ざるように、水あめを…。甘みじゃないんですよ」

 水あめの量や濃度も、焼き加減に影響があるといいます。最近では全自動の機械で焼くところがほとんどですが、清二さんは手焼きにこだわります。目安の焼き時間はありますが、焼き上がりは必ず割って中を確認します。

清二さん:
「まだちょっと早い。もし焼き損じが出来た場合、全部廃棄処分にする」

 品質を守るため、焼き損じた場合は窯の中の栗を全て廃棄するため真剣です。焼き上がったら、熱が入り過ぎないよう素早く窯から出し、最後に自分の舌でチェックしたら完成です。

■「焼きたてだもん美味しい」…客が客を呼び増え続けるリピーター

 午前8時半。出勤してきた清二さんの息子・高志さん(41)は、お店に着くとまずは父が焼いた栗を食べるのが日課です。

高志さん:
「まずは熱がどう通っているか、あとは味。あと、この渋皮の取れ具合ですよね。熱々でもこれぐらい取れるならいつでもいいのかなって」

 今日の出来もバッチリ。息子から見てもほれぼれするような父の焼き栗です。

 まだ開店の10時前ですが、外にのぼりを出しオープン。すると早速お客さんが…。

男性客:
「焼きたてだもん、美味しい。全然違う味が」

6袋買った女性客:
「(母から)頼まれたので。やっぱり焼きたてなので美味しいです」

 衣浦食品の天津甘栗は、ミニサイズ(150グラム・300円)、小サイズ(300グラム・500円)、中サイズ(650グラム・1000円)、大サイズ(1000グラム・1500円)の4種類。焼きたてのホクホク甘栗を求め、市外からもお客さんがやって来ます。

田原市から来た女性客:
「地元で天津甘栗作っているところがなくて…。先週も買いに来て美味しかったから」

 中には、一度に10キロ買っていく人も…。

女性客:
「誰かが買って来て美味しくて、それから頼んだりして…。今回は私が頼まれて買いに来ました」

 お客さんがお客さんを呼び、今もリピーターが増え続けています。

■店舗の“外観一新”と甘栗販売への“特化”が功を奏し…息子のアイデアで店は口コミで人気に

 今では年間120トンを販売する人気店ですが、4年前までは地元でも知る人ぞ知るお店でした。当時は天津甘栗を市場に卸すのが主で、店頭では手作り雑貨やナッツなどを売るその片隅でひっそりと販売していたといいます。

高志さん:
「このカゴを1日1杯売れない…。外を通る方に『甘栗どうですか』と声をかけたことも…」

 父が焼く絶品の栗をもっと知ってもらいたい…。高志さんは、父・清二さんに提案し、客が入りやすい店へと外観を一新。そして、販売を甘栗に特化したところ、徐々に人気が口コミで広まっていったといいます。さらに、当時勤務していた碧南市役所でふるさと納税の担当をやっていた高志さんは…。

高志さん:
「ウチの甘栗を(碧南市の)返礼品として出せるんじゃないかと…。両親に提案してやることにしました」

 碧南市のふるさと納税の返礼品に登録したところ、全国からも引き合いが来るように…。商品の箱には、少しでも碧南市の知名度を上げようと、“愛知県碧南市”の文字が印刷されたチラシも同封。そこには、高志さんの地元への愛がありました。

 息子・高志さんのアイデアにより、4年前からは考えられないほどの忙しさになった父・清二さんは…。

清二さん:
「『他所と比べて美味しいよ』って言われるのはとても嬉しい」

 天津甘栗の超人気店を覗いてみたら、品質にこだわりぬいた職人の父に、父の焼く栗と地元・碧南を愛する息子の姿がありました。

「衣浦食品」の天津甘栗は、ホームページから通信販売で購入することもできます。