
名古屋市西区にカカオ豆からチョコレートまでを一貫して作る製法で、極上のチョコレートを作る夫婦がいます。夫は、現地の子供たちを支援するために、カンボジアにカカオ農園を開くことを決意。妻は、そのカンボジアから輸入したカカオ豆を使って極上のチョコレートを作っています。その香り豊かなチョコレートは、口コミで人気となっています。
■女性ショコラティエが生み出す芳醇な香り…カカオをたっぷり使ったチョコレートバー

名古屋市西区にある庄内緑地公園から北へ徒歩15分ほどのところにある「チョコリコ ビーントゥバー チョコレートラボ」は、2021年7月のオープン以来、口コミで人気となっているチョコレート専門店です。
【画像20枚で見る】カカオで生産地の子供達を幸せに…豆から一貫して作る『ビーントゥバー』で極上チョコ

この店のチョコレートは、カカオ豆からチョコレートにするまでの全ての工程を手掛ける「ビーントゥバー」という製法で作られています。カカオを72パーセント使った「ビーントゥバー チョコレート」(590円~)に…。

濃厚で口どけ滑らかな「生チョコ」(980円)、ビター、ミルク、黒ごまなど6種類の「ボンボンショコラ」(300円~)など手作りの逸品がショーケースを彩ります。

女性客:
「カカオと砂糖の相性なんですかね…。食べやすくて感動しました」
別の女性客:
「嫌な苦味がなくて、後味がすっきりしていて他ではない」

この香り豊かなチョコレートを生み出すのは、女性ショコラティエの渡邉由利子さん(47)です。
■カンボジアの子供たちを学校に通わせてあげたい…現地にカカオ農園の開設を決意

店のチョコレートの原材料は、カンボジア産のカカオ豆。その輸入を行うのは由利子さんの夫・千晃さんです。この店の誕生には、千晃さんのある想いが大きく関わっていました。
夫の千晃さん:
「僕にとってチョコレートを作る意味は、カンボジアの子供を幸せにすること」

広告代理店を経営する千晃さんは、2014年に教育支援のためにカンボジアを訪れました。
千晃さん:
「金銭的な理由で学校に通えない子供がたくさんいる。原因は親が経済的、社会的に自立できていない。現地で事業を起こし、直接(親を)雇用することで、子供たちが学校に行けるんじゃないかと」

「子供たちが学校へ通えるように」。千晃さんは、カンボジアの気候や世界的なチョコレート需要の高まりから、カカオ農園を立ち上げることを決意。各地を巡り、その思いに共感した現地の人々から、苗や土地の提供などの協力を得ることができました。しかし千晃さんは、本当に子供たちを救うにはまだ足りないと考えていました。

千晃さん:
「収穫まで3年ほどかかるので、その3年間でカカオ豆からチョコレートを作れるように。この取り組みをやる上で大きなポイントになる」
子供たちのために、カカオ豆からチョコレートを作りたい。その想いを由利子さんに伝えると…。
由利子さん:
「人生半分くらい生きてきて、命の使い方はこれであっているのかと思っていた。そのタイミングでカカオをやると聞いて、これだったのかなって思った」

千晃さんの熱意に共感した由利子さんはイチから勉強をし、チョコレートマイスターなどの資格を取得。寸暇を惜しんでチョコレートに向き合いました。
■カカオ豆の特性を存分に生かす製法…ニューヨーク発祥の「ビーントゥバー」

カカオ豆からチョコレートまでを一貫して製造するビーントゥバーは2007年頃にニューヨークから始まり、ここ数年で日本でもブームとなっています。カカオ豆の特性を存分に生かすことができますが、とても手間のかかる製法です。

夫婦の想いが詰まった「ビーントゥバー チョコレート」。まずは手洗いしたカカオ豆は、丸一日かけて自然乾燥。その後にローストします。
由利子さん:
「ベストなローストができたカカオ豆は、芳醇な香りとカンボジア産らしい酸味、バランスが取れた仕上がりに」

焼き上がると、工房内はカカオの香ばしい香りが広がります。続いて、粉砕分離機にかけて実と皮に分けます。その後、手作業で細かな皮や胚芽(はいが)を取り除きます。気の遠くなる作業ですが、チョコレートの雑味や舌触りなどに関わるため大切な工程です。

この細かく砕いた実「カカオニブ」を石臼のような機械で少しずつすり潰し、カカオ豆に含まれる脂肪分「カカオバター」を出しながらペースト状にしていきます。
■たくさんの子供たちを学校に行かせるために…手間暇かけて作られた「ビーントゥバー チョコレート」

約1時間かけカカオニブを入れ終わると、ここから56時間かけて練り上げます。そして途中に入れるのが、チョコに欠かせない砂糖。チョコリコでは、ヤシの樹液から採取した「パームシュガー」だけを使用。これも、千晃さんがカンボジアで見つけました。

千晃さん:
「おいしいと思って。グラニュー糖の約860倍ものミネラル成分が含まれていたり、低GI食品(糖質の吸収が穏やか)といわれる体にいい砂糖なので使いたいと」
希少なパームシュガーの仕入れ先も、千晃さんの想いに共感して優先的に提供してくれています。配合はカカオ72パーセントに対し、パームシュガーが28パーセント。ここでも約1時間かけ入れていきます。

56時間練り上げたチョコレートは、きめ細かな液状に。これを約1か月熟成させることでカカオバターが落ち着き、まろやかな口当たりになります。

熟成を終えて固まったチョコレートを刻んで溶かし、32度ほどに温度調節してカカオバターの結晶を整える「テンパリング」です。
由利子さん:
「温度を上げて冷却してもう一度上げて、カカオバターの結晶型をV型にそろえる作業。とても艶があってパキッと食感のよいチョコレートができあがる」

テンパリングを終えたら、型に流し込み冷やし固めたら完成。由利子さんの手仕事が生み出した、「カカオ72% ビーントゥバー チョコレート」(6本入り590円)。
千晃さん:
「現地(カンボジア)でたくさんカカオ豆を栽培したい。たくさんの子供たちを学校に行かせてあげる事ができる」
由利子さん:
「大変な作業が、全て私たちのミッションに繋がっている。今までやったことは間違ってなかった」

豊かなカカオの香りと、ほろ苦く濃厚な味わいの「ビーントゥバー チョコレート」。渡邉夫妻の想いと願いが詰まった極上の1本です。

「チョコ リコ ビーントゥバー チョコレートラボ」は、名古屋市西区の庄内緑地公園の北側にあります。