愛知県あま市に、1874年創業の老舗のみそメーカーがあります。この醸造所の6代目は、工場見学に来た多くの子供たちから「朝食はパン」と聞き、みその文化を守りたいとパン作りに挑戦。みそが練り込まれた「みそパン」は、開店して1時間で100個が完売するほどの人気となっています。

■「みその風味がおいしい」…老舗みそメーカーが作った進化系メロンパン「みそパン」

 愛知県あま市七宝町にある、パン工房「海部(あま)のくちどけ」。

【画像20枚で見る】朝食で“ご飯とみそ汁”減り発想を転換…老舗みそメーカーが作った人気の『みそパン』

この店で飛ぶように売れているのが、赤みそが練り込んである進化系のメロンパン「七宝みそパン」(180円)です。

女性客:
「最初甘いけど、後でみそのしょっぱさ、みその風味がしておいしい」

別の女性客:
「みそのクッキーをちょっとやわらかくしたような…。おいしい甘くて」

外はサクサク、中がふんわり…。みそとバターが混ざり合いキャラメルのような味わいの「七宝みそパン」は、みそとパンの意外な組み合わせが受けて大ヒットとなっています。

このパンは、老舗の七宝みそメーカーの6代目と奥さんが始めました。

■多くの子供が「朝食はパン」…みそ文化を広めるためにパン工房をオープン

 人気のみそパンは、まずは赤みそを練り込んだクッキー生地をパン生地の上に被せます。

発酵させてから焼くと、溶け出した“みそクッキー”がパンを包み込み完成。このみそパンを求めて、10時の開店と同時に多くのお客さんがやって来ます。

 このパンを作るのは、1874年創業の老舗みそメーカー「佐藤醸造」。

昔ながらの木桶を使ったみその仕込みにこだわり、大豆と食塩、水だけで作った七宝みそは、渋みと苦みを抑えたまろやかで深いコクが特徴です。なぜ、みその醸造メーカーがパンを作ったのでしょうか。

6代目社長の佐藤亮治さん:
「みそを広めたいのが一番。地元の小学校のお子さんたちが工場見学に来るんですが、『朝はパン』という子がどんどん増えてきまして…」

工場見学に来た子供たちに、「朝食はご飯かパンか」を聞いているうちに、最近はパンを食べている子供たちが多いことに気付いたといいます。

佐藤社長:
「僕らみそしょうゆ屋さんでパンに対抗心を燃やしていたんですけど、発想の転換でパンを一緒にやることができたら、広い意味で“食”を提供できるんじゃないかと」

みそを広めるきっかけになれば…。そんな願いから、2021年4月にパン工房をオープンさせました。

■七宝みそのためなら…パン作りの素人だった6代目の妻が奮起し「みそパン」を開発

 最初は受け入れられるか不安だったというみそのパン。しかし、すぐにファンが付き、早い時には開店わずか1時間で100個が完売してしまう日も。2022年2月には、ジェイアール名古屋タカシマヤに期間限定で出店し、200個以上が完売しました。

佐藤社長:
「すごい人気。パンを目当てに来た方がみそやしょうゆを買っていただいたり、広がりを感じています。パン作りに関しては素人ですね。最初の頃は大変でした」

 みそメーカーの「佐藤醸造」は、社長はもちろん社員もみなパン作りの経験はゼロ。新しくパン職人を雇う余裕もなく、そこで白羽の矢がたったのが社長の奥さんの明美さんでした。

明美さん:
「ホームベーカリーでパンを作る程度の全くの素人。(パン作りの)研修を受けました。七宝みそのためなら」

七宝みそのためなら…。明美さんは、一念発起しパン作りに挑戦しています。

■パンもみそも美味しい…みそを練り込んだ「食パン」を新たに開発

 この日、みそを使った新しいパンの開発をしていました。それは、生地にみそを練り込んだ「食パン」です。しかしその製造は容易ではなく、試行錯誤が続いています。

佐藤社長:
「(今販売している)みそパンは、パンの発酵の時にみそは関わっていない」

そもそも、みそを発酵させる麹菌とパンのイースト菌は相性がイマイチ。パン生地にみそを練り込むのは至難の技で、これまで失敗を繰り返してきました。しかし、オープンの日が迫ってきたため、苦肉の策としてクッキー生地にみそを練り込んでパンとあわせる形で、「七宝みそパン」の販売をスタートさせました。そのため…。

佐藤社長:
「(パン)生地にみそを練り込んだ食パンを作りたい」

クッキー生地ではなく、パン生地にみそを練りこんだ悲願の“みそ食パン”作り。まずは、社長がパン生地に合うようあみ出した特別なみそを練り込みます。

これまでは、焼くどころかパン生地にうまく混ざらなかったみそが、初めて生地に混ざりました。果たして、うまく焼きあがるのでしょうか。

明美さん:
「色がだいぶいい。かなりやわらかい」

佐藤社長:
「焼き上がりはイメージ通り、色と香りと。パンがおいしいしみそもおいしい。手応えある。」

焼き上がりも、味もうまくいきました。しかし…。

佐藤社長:
「あとは、このベコベコにへこんだパンを、お客さまに買っていただくわけにはいかない…」

あとは見た目だけ。商品化に向けて試行錯誤を続けます。

佐藤社長:
「パンを通じてみそとしょうゆの良さを知っていただけたら…。それを考えるとワクワクする」

「今まで受け継いできたものを守りながら、新しいことにチャレンジしたい」と話す佐藤社長。老舗みそメーカーの挑戦はまだ始まったばかりです。