障がいが残り人工呼吸や、胃ろうなど日常生活に医療が欠かせない子供「医療的ケア児」が増えています。国は、医療的ケア児を育てる家族を支援するための法律を作成するなど、徐々に支援の輪を広げていますが、障がいがある双子の姉妹を育てる母親を取材すると、まだまだ道半ばであることがわかりました。

■たんの吸引や胃ろうなど…生活の多くで付きっ切りの助けが必要な「医療的ケア児」

 豊田市足助町に住む野村さん(47)の朝は、娘の身支度から始まります。

野村さん:
「水頭症で脳性まひなので、自分で身体が上手に動かせない」

【画像20枚で見る】早産だった双子にいずれも“障がい”が…医療的ケア児を育てる母の8年間「心がいっぱいいっぱい」

野村さんの娘・はるかちゃん(8)は、脳性まひや、難聴などの障がいがある「医療的ケア児」です。

医療的ケア児とは、集中的な治療を行うNICUなどに長期入院した後、引き続き人工呼吸などの医療によるケアが必要な子供のことです。

厚労省によると、2010年には全国で1万702人だったその数は、2020年には約1万9000人へと年々増加しています。

 はるかちゃんは、チューブで胃に直接栄養を送る“胃ろう”で食事をしていて、他にもたんの吸引やトイレにはじまり、生活の全てで付きっ切りの助けが必要です。

 はるかちゃんの双子の姉・みつきちゃん(8)。

野村さん:
「みっちゃんは発達遅延で、身体的にも知的にも幼い感じ。成長ホルモンを打っているので、(医療的ケアは)自己注射だけ」

一人でできることはどんどんと増えていますが、それでも多くの助けが必要です。

■双子の半分、三つ子の75%が早産…発達的異常も多いと言われている多胎児

 2人は出産予定よりも16週も早い、妊娠24週目に緊急帝王切開で生まれました。

野村さん:
「『双子だよ』って言われてビックリしたけど、良かったねって…。安定期に入る前から出血とかのトラブルが多かったので、まずちゃんと育つかなと心配だった」

お腹の中でまだ体ができ上がる前に生まれた2人。はるかちゃんの体重は500グラムほどで、みつきちゃんは300グラムほどしかなく、2人は病院で10か月を過ごしました。

命は救われましたが、妹のはるかちゃんは1歳をすぎてから病気を繰り返し、医療的なケアが必要となりました。専門家によると、1人で生まれる単体児と比べて双子などの多胎児は早産の可能性が高く、その後の発達に影響する場合があるといいます。

日本多胎支援協会の平石皆子理事:
「多胎の場合ですと双子で半分は早産ですし、三つ子で75%(が早産)。発達的な異常も多いとは言われています。生まれてきたら、むしろ単体よりもその後の伸びが良かったということもありますので、必ずというわけではないが、可能性は高い」

■「大変すぎてあまり覚えていない」…24時間双子の娘に付きっ切りだった母親

 野村さんは、2時間だけいてくれる訪問看護士の手をかりながらも、24時間双子に付きっ切りでした。眠ることができる時間は、長くてもばらばらに3時間。当時の記憶は抜け落ちているといいます。

野村さん:
「大変すぎてあまり覚えてなくて…。私の母も主人の母もサポートにすごく来てくれていたので、母親がたくさんいます。小さいうちはそれで何とか過ごしてきた」

病気をしがちな2人を連れて病院へ駆け込むことは減りましたが、今もはるかちゃんは週に2回の通院を続けています。

野村さん:
「どうしても私がやらないと、この子はご飯が食べられない。この子が命の危機にあってしまうので、結構抱え込んで生活はしていたと思います」

■自治体の医療的ケア児への支援が「努力義務」から「責務」に…徐々に広がる支援の輪

 2021年9月、医療的ケア児を育てる家族の負担を減らす目的で、新たな法律「医療的ケア児支援法」が施行されました。この法律によって医療的ケア児への支援が、各自治体の「努力義務」から「責務」となり、支援のための予算も分配されることになりました。

 小中学校などでの医療的ケア児の受け入れに向けて、支援体制の拡充も進んでいます。姉のみつきちゃんは、地元の公立小学校に通っています。

学校は、特別支援クラスに児童が入るタイミングで、バリアフリー化など校内の設備を充実。

2021年には教室のすぐ隣に多目的トイレとエレベーターを設置。特別支援クラスの授業は、アドバイザーと相談し個人にあった内容で行っています。

豊田市立足助小学校の校長:
「保護者さまとお子さまの意見を尊重して、受け入れをしています。心の垣根なく、バリアフリーは教員も子供たちも地域の方もみんなでやっていきたいって思っています」

■自治体がどこまでやれるかは未知数…道半ばの多胎や医療的ケア児を育てる家庭への支援

 支援団体も増え始めています。双子や三つ子、また医療的ケア児を育てる家庭への支援を行う団体「キッズラバルカ」の助産師・近藤綾子さん。

近藤さん:
「妊婦さんが具体的に産後の状態が描けてないので、産んだ後にすごいギャップを感じている」

近藤さんは、多胎や医療的ケア児の子育てを手伝う訪問ケアの他に、出産前に多胎育児の経験者と妊婦を引き合わせ、アドバイスや相談を受けられる環境作りなどを進めています。

双子の妊婦:
「全部不安ですけど、周りに結構双子のお母さん居るって知りましたし、そういう先輩たちの話聞いて、ちょっとでも負担を減らせればって」

近藤さんは、法律ができて支援の輪は以前と比べ広がってきているものの、まだ“道半ば”だといいます。

近藤さん:
「単純に育児だけじゃなくて、介護負担もある。国からは多胎の産前産後ケアやっていく指針が出ているけど、実際自治体がどこまでやれるかとか、みんなが絶対使えるものにはまだまだ全然なっていない」

一人を育てるだけでも相当な労力が必要とされる中、それが2倍以上…。それも障がいがある2人の子育てとなると、身体的、精神的な負担は計り知れません。

野村さん:
「医療が発達して、こういう重心(重症心身障がい児)の子が生きていけるようにはなっているけど、支援ってすごく少ないので、医療的ケアのあるお母さんって、心がもういっぱいいっぱいだと思う。一番足りないのは人手なのかなって思います」

付きっ切りではるかちゃんを支え続ける野村さんは、医療的ケア児を持つ母親が少しでも生活しやすい社会を願っています。