放置されたままの“空き家”がいま、全国で増え続けています。倒壊の危険性がある“特定空き家”を約150軒かかえる愛知県南知多町を取材すると、所有者に代わって全ての空き家を解体するのには数億円の税金がかかり、対策に限界がきていることがわかりました。

■「上を見て歩かないと瓦が怖い」…老朽化で危険な状態のまま放置される空き家

 知多半島の先端に位置する漁業の町・愛知県南知多町の師崎地区。

【画像20枚で見る】町民「上見て歩かないと瓦が怖い」倒壊の可能性ある“特定空き家”が約150軒

ひとつ奥の道に入ってみると、たくさんの空き家がありました。

住民の女性:
「本当に多いもんね、空き家が。不便なのでこっち(南知多町)は」

 2018年に総務省が行った調査によると、人口減少が進む中で空き家は増え続け、現在全国の割合は13.6%にのぼります。

漁業だけではなく観光で賑わった南知多町ですが、人は都市へと流れ、今や人口はピークから半減。空き家率は21.6%。5軒に1軒が空き家で、県内ワーストです。

 路地を奥へと進むと2軒の住宅の間に、建物全体が植物で覆われたボロボロの空き家がありました。外壁のベニヤ板はところどころ剥がれ落ち、今にも崩れそうです。

住民の男性:
「怖いです。もし(物が落ちてきて)当たったらえらいことになっちゃう」

住民の女性:
「(何とかしてほしいと)みんな思っている。上を見て歩かないと瓦が怖い」

近隣に住む住民たちも、日々の生活の中で危険と隣り合わせの状況です。

■所有者不在の空き家も…所有者に代わり行政が解体する「代執行」にも費用の壁

 こうした空き家はなぜ、危険なまま放置されているのでしょうか。

南知多町空き家対策係の担当者:
「この奥に建物が2棟。夏になると倍以上草が生え、スズメバチ等が巣を作ってしまうので、危険な状態」

母屋に隣接する“蔵”は築50年ほどが経過。危険な状態の2棟の建物には、所有者がいません。南知多町によると、元々は女性が1人で住んでいましたが、2015年に死去。女性には夫や子供がいなかったため、姉に相続権が移りましたが、姉はそれを放棄。それ以降空き家となり、誰も管理する人がいない状態です。

新たな買い手が見つからず危険性がさらに高まった場合、行政は「代執行」を行って建物を壊すこともできますが…。

同・担当者:
「代執行自体が厳しいのが本音。代執行することは税金を使っているだけですので、その分、他の住民サービスをやめることになります。実際に費用回収できなかった場合、行政の責任も問われます」

■「空き家を相続したけどどうしていいかわからない」…空き家問題に取り組むNPO法人を訪れた女性

 行政が頭を悩ませる中、民間で空き家問題を解決しようという動きがあります。

 岐阜市のNPO法人「岐阜空き家・相続共生ネット」では、弁護士、司法書士、不動産業者などが、空き家に関する様々な相談に対応しています。

岐阜空き家・相続共生ネットの名和泰典理事長・:
「何やっていいか分からないから(相談者は)ここに来ていると思うので、目線を低くしてじっくり聞いてあげることが大切」

理事長の名和泰典さんは、不動産業に長年携わる中で、増え続ける空き家に危機を感じて支援団体を立ち上げました。

 この日、名和理事長を訪ねてきたのは、愛知県に住んでいる山田はるみさんです。

山田さん:
「空き家を相続したけど、全然わからないんで…。本当は私が継ぐ家ではなかった。弟が亡くなっちゃって、私しかいないので…」

父親が亡くなって以降、4年近く空き家になっている岐阜市の実家を処分したいと相談に訪れました。

名和さん:
「そうすると、空き家の中にはお父さんの家財が入ったままですね」

山田さん:
「大事な物とかあるかなと、ひっくり返したので余計ぐちゃぐちゃで…」

■室内は洗濯物が干されたままの状態…父の死後手付かずのまま放置された空き家

 築75年以上が経過した木造2階建ての空き家の中を、特別に許可をもらい見せてもらいました。

台所には、使いかけのラップやレトルト食品。部屋には、布団に骨董品のようなものまでありました。

男性用のスーツのズボンやシャツも畳まれたままで置かれており、別の部屋には洗濯物がぶら下がっていました。山田さんは父親の死後、何から手を付けていいかわからず、家の中は当時のままの状態になっていました。

山田さん:
「(模型を見て)これ、父が作ったやつ。これも全部、そっちにあるものも…」

柳ケ瀬の映画館で技師として働いていた山田さんの父親は忙しい仕事の傍ら、休みの日は趣味の建築模型作りを楽しんでいたといいます。

山田さん:
「(父親は)器用だったので。私が希望を出して作ってもらったり…」

空き家の中には、家族の思い出の品も数多く残されています。

名和さん:
「生前の片づけが非常に重要。使わないものをいっぱい昔の人は持っている。捨ててとにかく物のカサを縮めなきゃ」

 山田さんは、建物は老朽化が進んでいるため取り壊し、土地を売却することにしました。しかし、このままの状態では建物の解体ができないため、まずは家財の片付けから始めることになりました。

山田さん:
「はっきり言ってあまり考えていなかった。(家が)残ったらイヤだなとずっと思っていたけど、心のどこかで。その時に親に何か言っても、きっと(返事が)返ってくるような人じゃなかったから…」

■倒壊の危険性がある“特定空き家”は150軒に…費用面で全てを解体することはできない南知多町

 民間で解決できない場合は、最後の砦となるのは行政の支援です。南知多町では今、倒壊の危険性がある“特定空き家”をおよそ150軒かかえています。

南知多町空き家対策係の担当者:
「(特定空き家は)この住宅と、もう一つ奥の。相続人も複数いたんですが、みなさん相続放棄と…。現状でもかなり老朽化が進んでいますので、行政代執行する以外手がない状態」

しかし、町内全ての特定空き家を代執行で解体した場合、のしかかる税負担は数億円にのぼります。

同・担当者:
「全て行政で代執行できるのかと言われると、とても対応できない。困っている方に寄り添って何とかしたいと今までやってきましたが、長期的な負債を作っていくので、果たしてこの町のためになるのかと、自問自答する毎日です」

増え続けている“危険な空き家”。空き家問題を解決できる方法は、まだ見つかっていません。