東海地方では、南海トラフ地震の発生が想定されている。災害発生時に地域の防災を担うの「消防団」は男性の団員が多くを占めているが、名古屋市に女性が活躍する消防団がある。実は東日本大震災でも男性以上に女性ならではの力が大活躍した。地域の安全を守る消防団で活躍する女性たちと、その思いに迫った。

■メンバーの4割が女性の消防団…入団2年目の女子大学生「叔母が入っていて」「将来公安職に」

 名古屋市緑区。約3000戸ある地域を守っているのが「戸笠消防団」だ。

【動画で見る】ママ友の繋がりは有事の貴重なネットワークに…女性が活躍する消防団 団長「女性は災害時全てに対応できる」

消防団の拠点である詰所の1階には、ヘルメットや防火服、災害時の救急道具などが常備されている。

2階は集会所になっていて、壁には小学生からの寄せ書きが貼られていた。

戸笠消防団の団長・大友滋さん:
「コロナになる直前ぐらいに戸笠小学校の3年生が見学に来てくれて、子供たちがくれたんですよ。将来もしかしたら消防団に入ってくれるかもしれません」

 戸笠消防団のメンバーには、特徴があった。

同・団長:
「定員25名に対して我が団は20人。女性が7人」

名古屋市内の消防団の男女構成比は9:1だが、戸笠消防団は4割近くを女性が占めている。

2021年4月に入団した、大学生の赤木美邑(みゆ)さんと加藤なの葉さん。

赤木さん:
「もともと叔母が消防団に入っていて、私が小さいころから消防団に遊びに来たりとか活動を見ていたので、私も大学生になったら入って活動したいなと思った」

加藤さん:
「私は将来、公安職に興味があって、消防団を経験してみたいなと思って入団しました」

 2022年3月、緑消防署との合同で行われた放水訓練では、火災現場で消防隊員をサポートできるよう、消防ホースの扱い方などを学んだ。

消防団員:
「ホース延長!」

別の消防団員:
「ホース結合していきます。結合よし!」

加藤さん:
「ホース結合、結合よし」

赤木さん:
「放水はじめ!」

ホースは消防隊員が持つのが基本だが、震災などを想定して消防団員も訓練する。

消防士:
「主に震災が起こったときというのは、火災が同時多発的にいろんな場所で起こります。そういった時は我々消防隊だけでは、とてもじゃないですけど対応ができません」

赤木さん:
「ホース自体も重いんですけど、水が出たときに圧力がかかるんですよ。だからけっこう体が引っぱられる感じとかもあるので、後ろに根持ちでホースを支えてくれる人がいるんですけど、連携が大事だなって思いました」

■被災地で活躍するのは男性よりも女性…ママ友ネットワークなど「主婦の力」が大きな強み

 主婦の消防団員もいる。渡辺愛さん(49)だ。

渡辺さん:
「(Q.いま何をしていたんですか?)非常食の保存期間の日付確認だけしました。緊急時はここに消防団員が集まるので、団員が食べる非常食をいくつか保存してあるので」

主婦の力も消防団には重宝される。

戸笠消防団の団長:
「東日本大震災の時にボランティアで行かせてもらいました。そこで感じたのは災害の後、最も力を持っていたのは主婦でした。衣食住、それをしっかりできるのはやはり男性よりも女性です。女性は子供も、自分の家族も、おじいちゃんおばあちゃんも、全部対応できるんです」

被災地の生活で、主婦が中心となって乗り超えようとしているのを目の当たりにし、消防団にも主婦を入れたいと強く感じたという。

そしてもうひとつの、女性の大きな強み…。

渡辺さん:
「地域のネットワークのつながりとかも大きいからっていう話もしていただいて、確かにママ友のつながりっていうのは結構大きいなというのもありまして、だったら私でもできることがあるんじゃないかというのはありました」

核家族化などで地域のつながりが弱まりつつある中、主婦は近所をはじめ、繋がりを多く持っていることが多く、連絡・連携がよりしやすくなるのだという。ただ火を消すだけではなく、女性の力はとても大きいという団長の思いもあり、こちらでは女性の入団を積極的に進めている。

 戸笠消防団の活動には子連れで参加する人も多い。この日も親が訓練中は、別の団員が子どもの世話をしていた。渡辺さんも、かつては子連れで参加していたという。

渡辺さん:
「まだ下の子が小学校1年に上がるときで、子供を置いてくることはなかなかできなかったので、子供を連れてきてそれならできるかなと」

団員同士がサポートしあうことで、男女問わず参加しやすい関係が生まれている。この日も、娘を連れて参加した団員がいた。

消防団員:
「どうだった?かっこよかった?」

消防団員の娘:
「かっこいい~」

この娘のように、主婦の渡辺さんが訓練に息子たちと一緒に連れてきていたのが、姪で大学生の赤木さんだった。

渡辺さん:
「消防団に私も入りたいって言われて、『え?入るの?じゃあ入って入って!』って言って」

赤木さん:
「活動服を着て、詰所に向かう姿がかっこよかったので」

赤木さんは渡辺さんの消防団姿を見て、ずっと憧れていたという。

■大規模な合同訓練で初めての“土のうづくり” 大学生の女性団員「身の回りと家族守れるよう経験と知識を」

 2022年6月29日。戸笠消防団の詰所には、女性団員・赤木さんの他に、赤木さんの紹介で4月に入団した幼なじみの山本巳載(みこと)くんの姿があった。

この日はペアで参加する、「水防訓練」という大きな合同訓練。団長は初参加の赤木さんたちに、土のうの作り方を事前にレクチャー。

初めて土のうに触れたという赤木さんは…。

赤木さん:
「あれ?合ってますか?ちょっと難しい…」

不安を少し抱えつつ、水防訓練の会場にやってきた。訓練には緑区の消防職員や消防団などから 100人以上が参加。

水をせき止めるため、土のうをつくり、積み上げていく。

まずは2人1組で砂をつめ、袋の口を縛り、一か所に集める。

消防士:
「優しく(スコップ)3杯ぐらい」

山本さん:
「優しく?強い?」

赤木さん:
「わからん」

赤木さんも、朝教わったことを思い出しながら紐を結んでみるが…。

山本さん:
「取れちゃいそうだね。もう一回やる?」

赤木さん:
「うん」

なかなか難しい様子。本当に災害が起きた時、素早くできるようひたすら練習だ。

次に、作った土のうを積み上げる。積み上げ方も決まりやコツがあり、それを守りながらスピードも求められる。

男性に混じって、赤木さんも黙々と土のうを運んだ。

赤木さん:
「見た目より全然重たいです!しかも袋によって重さが違うので」

5段積み上げた後、防水性を高めるため、ブルーシートで包んで完成。土のう作りから約1時間半の作業だった。

赤木さん:
「(Qやってみた感想は?)正直疲れましたけど、こんなのしたことなかったので何したらいいかなって思ったんですけど、土のうを運んだり、ちょっとのことでも協力できたらいいなと思ってがんばりました。紐もちゃんと結べるようになりました」

渡辺さん:
「いま高校3年生の長男は、大学生になったら入りたいって。私にできるひとつのことは、若い力をいっぱい消防団に入ってもらって、活躍してもらえればなと思っています」

 はじめての大規模な訓練を経て、赤木さんは立派な消防団員に一歩近づいた。

赤木さん:
「大人になったときも消防団で訓練した経験を活かして、自分の身の回りと家族を守れるような経験と知識を積み重ねていきたいと思っています」

男性社会ともいえる消防団の中で、決して数は多くはないが、キラリと輝く女性団員。今日も町の平和を守りつづけている。